沙知子はセルティに、肩に手を当ててみてと言う。
セルティはイスに座った沙知子の後ろに立ち、 言われたとおり、両手を彼女の左右の肩にのせてみた。
最初は何も感じなかったが、両方の手のひらに意識を集中させると、 沙知子の肩の表面に、何か温かいものが重なっているような気がする。
それに、ちょっとピリピリする。
表現するのは、むずかしいが、 弱い静電気のような感じに似ている。
たとえて言えば、まるで、透明人間の手が、 沙知子の肩をさすっているような感じかも知れない。
ただ、セルティはその温かい何かに触れたとき、 不思議なほど平安な気持ちになれるのを感じた。
次に沙知子はセルティに、自分の胸を直接触って、と言う。
彼女は最初からブラジャーをつけていなかったので、 薄いシャツのボタンをはずすだけで、セルティに 色やカタチのよい自らの乳房をさらすことになる。
セルティは、少しためらいがちに、彼女の両方の乳房に触ると、 先ほど肩に手を置いたときと同じようなピリピリ感と、強い温 かさを手に感じた。
この温かさは、お陽さまに手をかざしたとき受ける感触に似て いると、セルティは思った。そういえば、ススムがベッドの上 で彼女を愛撫するときの手の温もりも、こんな感じじゃなかった かしらと思いをめぐらせた。
セルティはふと我に返り、微笑む沙知子の顔に気づいた。
これがススムの家系に伝わる「妻への愛撫」の奥義なのかも知 れない…セルティは不思議だけれど、目の前にある現実に当惑 するような、感動するような、複雑な思いにかられた。
膣やクリトリスのあたりも同しように愛撫をされているの? …というセルティの質問に、沙知子はお酒の赤みとは、 ちょっと異なる赤みを見せる。
沙知子も、さすがにそこまで直接触らせて確認させるわけ にはいかないが、とにかく頭の先から足先まで愛撫されて いるのが分かるという。
今、彼女の夫である邦彦は、友達と一緒に海で釣りをしている。 しかし、彼の意識は、そんな場所でも妻に注がれているのが、 自分の身体を通して分かるという。
セルティも、ススムとの関係で思い当たるフシがあるので 沙知子の言うことが、空想や気のせいではないと思えた。
でも、なぜススムやススムの父親にはそんな事ができるのだ ろう? 彼らは超能力者なのか? あるいは宇宙人なのか?
セルティの心を見透かしたように、沙知子が微笑む。
本当のところは沙知子も、よくは分からない。だけど、自分の 夫が、どこにいても、何をしても、愛する妻を意識してくれて いる。それをこんなカタチで実感できる女は、世界のどこを探 してもいないはずだ。その確信に沙知子は満足している。
セルティは、その言葉を聞きながら、ふと思い出した。
ドバイのホテルで寝ていたとき、ススムと離れた場所にいるはず なのに、まるで彼とセックスしているような気がしたときがある。 それをススムに話すと…
彼は、先行する時間の中で、自分とセルティは すでに愛し合っていたんだよ、と話していた。
「先行する時間って何?」
その質問に、ススムは微笑むだけで答えてくれなかった。
しかし、彼の言葉が意味することを、彼女は理解しはじめていた。 それは彼のビジネスの仕方に、そのヒントを感じていたからだ。
彼は前日にビジネスで会う相手とのシュミレーションを行なう。 場所や時間、交わされるであろう交渉の内容など、具体的な内容を、 デスクトップにあるソフトウェアに入力した後、彼はそれを神に祈る。
彼はそのとおりに行動し、そのとおりの結果を導いてくる。 それを彼女は何度も目撃してきた。まるで魔法にかかったかのように、 交渉の相手はススムの期待する反応を返してくるのだ。
それはまるで俳優や女優が、映画やドラマの中で、 台本にあるセリフをそのまま交わすのと同じようなものだから、 驚くなといわれても、驚かない方がおかしかった。
もしかしたら、ススムの言う「先行する時間」とは、 今、目の前に見える三次元空間とは異なる、 別次元の話なのかも知れない。
セルティにもよく分からないが、もし、そんな次元がある とするなら、少なくともススムのいうように、自分が感じる この三次元空間よりも、時間的に先にあってもおかしくない。
セルティは、沙知子に髪をなでられて、再び我に返った。
考え事をしながら、無意識に沙知子の乳房を揉んでいた ことに気づき、あわてて両手をはなした。
一方、沙知子は沙知子で、ブランデーのアルコールがまわった のも手伝って、つい気持ちよくなってしまい、セルティの為す がままに任せていた。
でも、もう少しで沙知子自身、本気モードに入りそうになり、 あわててセルティの手を止めたのだった。
沙知子とセルティは、理由もなく、顔を見合わせて笑い出し、 お互いシャワーを浴びて寝ることにして席を立った。
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