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作品名:本当かどうかは別として 作者:Sharula

第85回   家系に伝わる愛撫の方法
沙知子がセルティに、何か飲む?と尋ねたので、
セルティはビールをもらうことにした。


沙知子が冷蔵庫からビールを取り出す姿をみながら、
ビールを冷やして飲むのが、日本では一般的なのだと、
セルティは改めて認識した。


沙知子はセルティのグラスにビールを注ぎ、
二人は軽く乾杯した。


セルティはビールを一気に飲みほしながら
沙知子の謎めいた感じの笑みに気がつく。


もしかしたら、ススムと愛し合ったときの声が、階下まで聞こ
えたのだろうか? そんな思いがセルティの脳裏をよぎったとき、
彼女の思いを見透かしたように沙知子が口を開いた。


セルティの愛し合うときの声が、あまりに
大きいので、さすがの沙知子も心配したらしい。


ススムはセックスが本当に上手だと、セルティがほめると
それは父親ゆずりよ、と沙知子は嬉しそうな顔をする。


沙知子も夫の邦彦と愛し合うときは、「壊れる」「死んじゃう」
といった類の言葉を連呼している。もっとも、叫んでいる最中は、
自分で何を言っているのかさえ覚えていないのだが…。



沙知子は再婚だった。



最初にお見合いで結婚した夫は、人柄のよい人だったが、
交通事故であっけなく他界した。短い結婚生活で子供もなく、
夫の両親のすすめもあって、彼女は実家に戻ったのだが、


おそらく生まれてはじめて「恋愛」と思える感情を、
姉の夫である邦彦に抱いた。彼の姿を見る度、胸がドキドキして、
その緊張を隠そうと、必要以上に頑なな態度を義兄に取ってしまう
ことも多かった。


でも、それは、どこまでも彼女の心の中だけに
秘められた思いのはずだった。


ところが、姉の好枝は病気で他界する間際、
遺言書に沙知子が邦彦の後妻になることを希望した。

おそらく、姉は妹の本心に気づいていたのだ。
でも、結局はその遺言のお陰で、ふたりの再婚は
思いのほかスムーズに進展した。


ところで、邦彦は思春期を迎えたころ、
両親から、小林家に古くから伝わる家訓を、
いくつか教示されている。


第一に、男子は女子をいたわるべきものであり、
決して物を扱うような接し方や愛し方をしてはいけない。
特に、よい子供を授かるためには、夫婦が心を一つに
しなければならないとあった。


邦彦はそのために必要な知恵や技術を
両親や親族の女性たちから学んだ。


たとえば、日頃のコミュニケーションがうまくできない
夫婦がセックスのときにはうまく行くことなどあり得ない。

だから、妻の話を親身になって聞くことや、髪形や衣服の変化にも
気づいてほめることを忘れてはならない、といった類の話もあった。


ススムの日常もその家訓に沿っていると、
セルティは沙知子の話を聞きながら思った。


彼女が髪型を変えたり、新しい服を買ったときは、
特別に関心を持ってくれるし、眼を輝かせて喜ぶのが常だ。


沙知子とセルティは、その後もそれぞれのパートナーについて、
経験したことを語り合い、また情報交換をしあった。


ススムの愛撫は、ちょっとしたタッチでも、ものすごく感じると
セルティが告白すると、それは小林家に伝わるセックスの極意
によるものだと沙知子が明かす。


そんなものまで、ススムの家系にはあるのかとセルティは驚く。


人間には60兆以上の細胞があるといわれるが、その細胞一つ
ひとつを目覚めさせる愛撫の仕方を、小林家は代々研究し、
工夫してきたらしい。


身体表面にある細胞に触れながら、内側にあるすべての細胞
に向け、生命力のある光を、イメージにして相手に照射する。


直接的な愛撫には、もちろん、手や指、舌や唇、腕や肘、
足や膝、胸や生殖器など全身を使うのだが、


内面では、相手の細胞一つ一つにていねい挨拶し、
「元気になってね」とか「君たちに出会えて嬉しい」
「もっともっと悦びを感じて」などと話しかけていく。


一言でいえば、小林家に伝わる愛撫の仕方は、
愛撫というカタチを通しての「祈り」だった。


そしてその祈りがパートナーの細胞に染み込み、
新しい生命に祝福を与える、という考え方である。


いかにしたら、運勢のよい子供を家系に残せるのか?
そのために必要なことなら、何でも徹底してやろうという話だ。


しかし、現実的に考えれば、さすがに60兆もの細胞
すべてを相手にするのは簡単ではない。何より愛撫に
時間がかかり過ぎるし、お互いの体力にも限界がある。


そのため、ススムの先祖たちは、より効率のよい愛撫の仕方
を研究をしてきた。そしてそれについて沙知子が話したとき、
セルティは少し驚いた。


いにしえの日本人は、現代物理でいう多次元宇宙を
すでに感じていたのかも知れない、と思ったのだ。







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