ベッドの上で、セルティはススムの腕枕の 心地よさを感じながら、夢の話を続けた。
おおまかな内容はこうだ。
イブが堕落した後、神は天使を通じて、 アダムに、イブに会ってはならない、と命じられた。
しかし、そうなると予想していたルシュファーは、 なんとかイブがうまくアダムを誘惑できるように 彼の仲間の天使たちと新たな作戦を練った。
セルティとアンナが、再びイブをみたとき、 彼女はまるで別人のようにやつれていた。
以前のような笑顔にあふれ、健康美を絵に描いたような 初々しい面影は、彼女からは一切消えていた。
幼さの残る少女がルシュファーに散々もてあそばれ、 たくさんの天使たちに囲まれ、連日連夜、輪姦され 文字通り、精も根も尽き果てたのだ。
さすがに、ルシュファーも、 そのままではアダムが引いてしまうと思い、 妖しい衣装や妖艶な化粧を施し、妖艶な踊り方も仕込んだ。
歩き方ひとつでも、色っぽさを出すように指導したり、 服や下着の脱ぎ方にも、相手を興奮させれるように訓練したり…
彼らは、ちょっとした暗がりにイブを座らせたが、 セルティとアンナが彼女をみたとき、どこかの安っぽい 売春宿でお客を待つ売春婦のように見えた。
一方、アダムは神様からキツく言われたものの、 幼い頃から一緒に育ったイブの姿が恋しかった。
いくら善なる天使が気を使ってくれても、 彼らは所詮、実体のない天使だ。
実際に手で触ることのできる人間と、 彼はふれ合いたかった。
ある日、さびしい思いを断ち切れず、彼はイブを探した。 それをルシュファーの手下の天使が、うまく誘導することに 成功する。
イブが遠くでアダムを呼んでいる。
イブも寂しいのだろうか? アダムは自分の名前を呼ぶの声に、 矢も盾もたまらず、近づいていくが、明るいところにイブが出 てこない。
少し暗がりのところでイブは泣いているフリをした。 もちろん、それはルシュファーたちによって仕込まれた演技だ。
アダムはそんなイブの涙に、動揺して、冷静さを失う。 そして気づくと、イブのペースでアダムは篭絡されていた。
ヘルスやソープランドで働くベテランの女性たちが、童貞の 男性をうまく操るように、アダムはイブの手に落ちていった。
男が女の涙に弱かったのは、 人類始祖の時代からだったことを セルティとアンナは理解して、ため息をついた。
そのとき、アンナは突然うしろを振り向いた。
「あっ、兄さん、兄さんが来るわ」 「に、にいさんって? えっ、イエス・キリスト?」
セルティがそう言いながら、振り向くと、 すぐ近くに背の高い男性が立っていた。
よく日焼けした顔は、西南アジアの人の風貌で、 身につけた白い衣服は光輝いている。
いや、服が輝いているのではなく、 身体が輝いているので、光が服が透過しているのだ。
その男性はおだやかな表情で、二人を見つめている。 何も口を開いていないのに、その男性の想いが伝わってくる。
「もう、その辺にしておいて、地上に戻ったらどうかな」
そんな想いがセルティの心に広がった。
セルティはその男性と一緒にいると、過去と未来が同時に見える、 いや、感じることができる、それに驚かされたという。
ひょっとしたら、彼はあえて過去と未来を 同時に見せてくれたのかも知れない。
セルティは流れる過去の映像と、未来に起こるであろう その光景を見ながら、奇妙な感覚に襲われた。
それが一体何なのか? 夢の中では分からなかったが、 今、ススムに話しながら気がついた。
ススムはセルティの、 そのヒラメキを聞きたかった。
「きっと、未来って私たちの意志や努力によって変えれると思うの。 でも、その影響が過去も及んでしまうというのはヘンかしら?」
「いいや、量子力学的にはぜんぜんおかしくないよ。たとえば、 一個の電子がスリットの右穴を抜けた後、観測者が左穴を通っ たと思ったら、軌道が左穴を通ったように振る舞ってくれたり するんだ。考えてみれば、それって過去が変えられたようなも のだよ」
「つまり、過去も未来も、私たち次第ってことなのかしら?」
「そうかも知れないね」
「じゃあ、大切なのは『今』ってことなの?」
「きっとそうだよ。夫婦仲の悪い家系に、もし夫婦仲のよい夫 婦が現れたら、その家系の先祖たちの恨みも晴れて、あの世で の夫婦喧嘩がなくなるかも知れないよ」
「それじゃあ、私たちも、これから歴史を変えましょうか?」
「それはいいアイデアだね、じゃあ、二人で歴史を変えよう!」
ススムは笑顔をみせるセルティの首筋に やさしくキスしはじめた。
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