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作品名:本当かどうかは別として 作者:Sharula

第7回   『ヨハネの黙示録』
ススムは朝から出かけ、ドバイのホテルで中村美奈子は一人で聖書を
読んでいた。そんな彼女が父親からの電話を受ける。


「うん、だいじょうぶ。ススムさんがね、空いてる時間を使って観光
スポットを案内してくれてるわ。えっ? 彼が私の身体に手を出した
りしないかって? 残念だけど手さえ触ってくれないわ」


それを聞いて彼女の父、中村喜一は苦笑しながらも安堵した。


彼は娘にはまったく弱い。それで娘に一生懸命お願いされてドバイに
行くことも承知した。それに適当なウソをついて一週間ほどススムと
一緒のホテルにも泊まらせた。しかし、内心では、娘にはもっと家柄
のいい男と付き合って欲しかった。

一方のススムはススムで、彼のボスである中村喜一が、最愛の娘の旅
行先の場所や日時を把握していなかったなどとは到底思えなかった。

普段から慎重の上にも慎重を期す、そんなボスがあえてウソと分かる
ような口実を口にするのだから、“何かある”と思うのは当然だ。

                    ☆

ススムは午前中に重要な交渉をすべて終え、
午後はゆっくりするつもりでホテルに帰った。


美奈子:「おかえりなさい。父から電話がありました」
ススム:「もう帰っておいでと言ってたんじゃありませんか?」
美奈子:「いえ、台風4号が上陸して大変だって言ってました」
ススム:「そうなの?」


ススムは台風4号が愛知県に上陸したのを知らなかった。その後に台
風5号が続き、その進路も日本を縦断するのではないかと美奈子から
知らされた。


美奈子:「あの〜、ススムさん、すみません。私ウソついてました」
ススム:「お父さんにウソまでつかせてドバイに来たこと?」
美奈子:「ええっ、分かってたんですか?」
ススム:「まあ、何となくね」


美奈子はちょっとがっかりしたけれど、ススムが怒ってない様子にホ
ッとした。できれば、ここに車で送ってほしいとメモを彼に渡した。


ススム:「こちらに知り合いがおられたんですか?」
美奈子:「はい、以前、私の通う教会にいた方なんです」


ススムは美奈子の父が熱心なクリスチャンであることを思い出した。

ススム自身はクリスチャンでもなく、特定の宗教に傾倒したこともない。
お葬式のときだけ、にわか仏教徒になるのがせいぜいだった。


美奈子は移動する車の中で、聖書を片手にもって開いた。


美奈子:「ススムさんは読まれたことあります?」
ススム:「ええ、読んだことはあります。少しだけですが…」
美奈子:「じゃあ、聖書の研究会に参加しませんか、私と」
ススム:「遠慮しときますよ。たぶん、私がいると不愉快になります」


美奈子は入教の勧誘をしたつもりではなかったが、
ムリに誘うのはよくないと思い、話題を少し変えた。


美奈子:「最後の『ヨハネの黙示録』って不思議な話が多いですよね」
ススム:「たしかに奇妙な表現ばかりです」


『ヨハネの黙示録』は、ギリシャ語で語源をたどると『ベールを脱ぐ』
という意味がある。一説によればローマ皇帝ドミチアヌスによってエ
ーゲ海のパトモス島に流されたヨハネが、白昼夢の中でイエス・キリ
ストに会って書き綴ったといわれる。

ほかにも「セックスと快楽の千年の楽園が続く」と布教してまわった
グノーシス派の布教師であるという説もあるが、ベースになったのは
旧約聖書のダニエル書やエゼキエル書、さらにイエスの預言ではない
かと言われたりもする。

ちなみに万有引力を発見したアイザック・ニュートンは晩年『ヨハネ
の黙示録』の研究に没頭し、ノストラダムもこの預言書をベースにし
て四行詩を著したといわれる。


クリスチャンでもないススムがそんな話をするので美奈子は驚く。


欧米を相手にするとき、どうしても聖書を理解しなければならない。
そうでなければ彼らが次にどういう手を打ってくるのか、あるいは
こちらがどういう手を打つべきかが分からないとススムは言う。


美奈子はそんな観点で聖書を読んだことがなかったので
何と返事をしていいのか、分からなかった。


彼らが乗った車は高層マンションが立ち並ぶ地域に入っていった。





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