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作品名:本当かどうかは別として 作者:Sharula

第6回   ギリシャ総選挙
美奈子はテーブルのコンピューターで、チャットしているススムの
横顔を見ていた。それに気づいたススムは何か飲み物を用意しよう
としたが、彼女は気にしないでほしいと答えた。


「美奈子さん、私、あなたと以前どこかでお会いしたことあります?」
「ススムさんは、私のこと、見たことはないと思います」
「僕は…、ですか?」
「ススムさん、ウチに来られて父と口論になったのを覚えてらっしゃいます?」


「そういえば…。そんなことありましたね」
「あのとき私、台所でそのやり取りを母と一緒に見てたんです」
「そうだったんですか。それはお恥ずかしいところを…」

「でも、あのとき、父はぜんぜん怒ってなかったんですよ」
「えっ? そうなんですか? あの後から海外に飛ばされたので、
 てっきり、あなたのお父さんを怒らせた罰かと思ってましたよ」

「『あいつ、ただのダメ社員かと思ってたが、意外に骨のあるヤツだ』
 なんて言ってたんですよ」

「『ただのダメ社員』ですか。まあ、否定はしませんが…」


美奈子はススムのちょっとガッカリした姿が可愛く思えた。


「でも、私も母も初めてだったんですよ。父に真正面から意見する人見るの。
 しかも、あの父が議論で押し負かされるなんて想像もできなくて…」

「そうだったんですか」

「私、あのときススムさんのこと、カッコいいって思ったんです。
 それで父にススムさんのこと聞こうとしたら、『あれは悪い男ではない。
 だが、あんな男を義理でも身内にするのは好かん! あんなのに関心
 持つな』って言われちゃたんです」

「そうでしたか。あなたのお父さんらしい言葉ですね」


                ☆


ススムはダイニングに行って、トレイに二人分のアイスコーヒーの入
ったグラス、それにシロップやクリームの入った小さな籠を載せてきた。

美奈子はグラスの中の氷の隙間に、白いクリームが落ちていくのを見
ていた。その姿を見て、ススムはマドラーかストローをもってこなけ
ればと思ったが、真剣にグラスを見つめる姿が美しくてドキッとした。


ススムは改めて美奈子を一人の女性として眺めてみた。


頑固な父親の面影がなくはない。でも、親に似ない可愛い女性だと思う。
もちろん、彼はそんなことを口に出すつもりはなかったが…


                ☆


美奈子:「そういえば、ギリシャの総選挙はどうなったんですか?」
ススム:「さっきテレビ見てたんじゃ…。あっ、英語でしたね」


ススムは余計なことを言ったと後悔したが、美奈子は気にしない。


美奈子:「ススムさんの口から聞きたいわ」

ススム:「まあ、結果からいえば、緊縮政策を支持する政党が勝って、
     ギリシャは当分の間、ユーロにとどまることになりましたね」

美奈子:「それは善いことなの、悪いことなの?」
ススム:「その結論は、これから出るんじゃないでしょうか?」
美奈子:「セルティさんと話す時とは、まるで雰囲気が違いますね」
ススム:「えっ? ああっ、そ、そうですか…」
美奈子:「かわいい〜。その困った顔、超可愛い〜」
ススム:「……」


人を困らせて喜ぶのも、父親ゆずりかとススムは思う。
彼は笑ってその場をごまかし、チャットに戻る。


今日のギリシャ危機を招いた張本人が第一党となる現実は何なのか、
そればかりでなく、急進左派連合(SYRIZA)や全ギリシャ社会主義運動
(PASOK)独立ギリシャ人などといった各政党の実情や主義主張を
知ったら、世界はどう思うのか?


週明け6月18日の欧州市場は、ギリシャ選挙に好感して始まったが、、
スペインの不良債権比率8.7%で暗転。さらにスペイン国債の利回り
が7.3%に達するとフランスやイタリアなどの市場も連動して下落。
市場の関心は、すでにギリシャよりスペイン危機に移ってしまった。


そんなチャットのやり取りの向こう側にいる一人に、
セルティ・セジョスティアンがいるのは言うまでもなかった。





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