皆なでお墓で手を合わせ、帰ろうとしたとき、セルティはお墓に 置いたお供え物や花など一式持って帰るように他の3人に伝えた。
それは霊界から訪ねてきた好枝が セルティに話した内容の一部だった。
「お墓や仏壇でお供えした食べ物や飲み物は、先祖と一緒に味わうつもり で持ってきてほしいと好枝さんはおっしゃってましたね。15分間くらい お供えしたら、そこに先祖たちがいると思っていっしょに食べてと…」
「好枝姉さんは、他にも何か言ってたの?」
「はい、お墓や仏壇にお供えした物を、先祖は無条件に食べたり飲んだ りはできないそうです。生きている人間が『どうぞ、食べてください』 『召し上がってください』と言ってあげないと食べれないそうです」
「心の中で『召し上がってください』と言っても食べれるの?」
「それは私も質問しました。心の中で言うのも悪くないそうですが、 それだと地上人がちゃんと言ったのかどうか曖昧になる時があるので、 ハッキリ言葉にしてあげると先祖たちはちゃんと取れる」
「あと、お線香やお花、食べ物など 奇数にしてお供えされると喜ばれるそうですよ」
「あの世って、いろいろ細かなルールがあるのね…」
「ああっ、思い出しました。好枝さんから妹の沙知子に伝えてといわ れた事があって、その一つなんですが…」
「いつも仏壇にいろいろなモノをお供えしてくれてありがとうって…。 好枝さんは特に果物がお好きだったんしょうか?」
「ええっ…、そうよ。好枝姉さんは、ぶどうや栗、リンゴ、みかん、 マンゴやパイナップル、ミルクをかけた苺…。毎朝、仏壇に供えて…」
沙知子は涙目になり、ハンカチで目をぬぐった。
「あと、ぬか漬けやお団子は、他のご先祖たちがいつも喜んで召し上 がっていると言ってましたよ。なかでもお二人のお母さんは酢の物が 大好きだったそうですね」
「ええっ、特に母は大根のなますが大好きで…。おばあちゃんは栗羊 羹とカステラを煎茶でいただくのが、至福の時間だって…」
「そうしたお供え物、毎回楽しみにしてるそうです。でも、あまりム リしないでともおっしゃってました。霊界にいる人たちは地上の人た ちのお金の事情やお仕事の忙しさも知ってるので、ほどほどにって…」
「それと沙知子さんお供え物をご先祖が食べやすいように、つまようじや お箸を添えてくれて、ラップもはがして、生きてる人を接待するように 心がけてるそうですね。たくさんのご先祖が感謝してると言ってました」
沙知子は笑いながらも、涙が止まらない。
「それから、今日、好枝さんがこうしてお墓に来れたのも 沙知子さんのお蔭だとおっしゃってましたよ」
「私の?」
「はい、沙知子さん、お家の仏壇で、一週間前から、お墓参りの 日付とおよその時間を好枝さんに告げられたでしょう? それで彼女は来れたと言ってました」
「ウフフ、面白いわね。あの世の人に会うのにもアポイントがいるのね」
「それと、お墓参りは朝6時から午後3時の間にした方がいいとも おっしゃってました。午後3時を過ぎると、たくさんの家系のご先祖 たちがお墓に戻ってくるので、たまに関係のない霊が一緒にくっついて その家にくると…」
「それ、分かる気がするわ。ご近所の、ある家族が夕方遅くなって、 お墓参りに行った後、その家の幼稚園に通う男の子が突然ひきつけ 起こしてね、それから夜中に変なモノが見えるって怯え出したそうよ」
「あと、お墓参りが終わって帰るときも、『また来ます』と言わない ようにと好枝さんは言ってました。地上の人は来年の命日に来るぐらい つもりで『また来ます』と言っても、霊界の人たちは『明日にでも来る』 と解釈して、ずっと待ち続けるそうです」
「へえ〜、じゃあ、その人たちが、一ヶ月とか二ヶ月、あるいは半年、 一年とか、お墓参りに行かなかったらどうなるのかしら?」
「そりゃあ、すごく怒るそうです。ちゃんと約束したのに、だます なんてヒドいと…。それが原因でいろいろなトラブルが家庭の中に 生じる危険性もあるって言ってましたよ」
ススムと邦彦はそれを聞いて、首をすくめた。 彼らは今まさに『また来るからね』と言いかけていた。
沙知子とセルティは彼らのその姿を見て笑った。
「さあ、そこだけのお供え物じゃ、おなか空いたでしょうから、 皆なでご飯食べに行きましょう!」
沙知子のその言葉に促され、皆、晴れやかな顔で 駐車場に停めたワンボックスカーに向かった。
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