ススムは、セルティの言葉を思い出しながら、あることに気がついた。
「分かった! 聖書の中の『天国ではめとったり 嫁いだりはしない』という話は正しいんだよ」
「えっ? 何? どうしたのススム…」
「めとったり嫁いだりするのは、天国に入る前の段階でやっておか なければならない必須条件なんだ。いったん天国に入ったら改めて 結婚式を挙げる必要がないって意味なんだと思う」
「ああっ、そうか…。そう言われてみれば入国審査の段階だものね」
沙知子の肩を後ろから抱きながら 邦彦は、セルティに尋ねた。
「じゃあ、独身のまま霊界に行って、神様の推薦して下さる方と結婚 して天国に行けるなら、必ずしも地上で結婚する必要はないのかな?」
「いいえ、実はそれが大問題なんです」
「大問題?」
「はい、好枝さんは天国への入国申請の際、彼女と担当事務官 との間で交わされた質疑応答の場面を私に見せてくれました」
「担当事務官?」
「ええっ、最初、私はふつうの人間の霊だと思ってたんですけど、 違ってました。好枝さんにお伺いしたら“天使”だっていうんです」
「天使?」
「はい、日本語で『天からの使者』と書くエンジェルのことです」
「天使って本当にいるんだ…」
「よく絵画に描かれるような頭の上の光の輪とか、背中の羽根みたい なものはなくて、ふつうの人間の男性に見えました。でも、しばらく すると、ふつうの人間とは、ちょっと違うなって分かりました」
今度は沙知子がセルティに質問した。
「天使って男性だけなのかしら?」
「それ、私も同じ質問したんです。好枝さんによれば、女性格の 天使は、もうそろそろ創造されるかも知れないとの情報でした」
「えっ? これから?」
「私もその件に関しては詳しく教えてもらえませんでした。ただ、天 地創造の際に起こった出来事は、すでにイエス・キリストの義理の妹 さんが、ススムさんに伝えたので、それを参考にすれば分かるとか…」
「ああっ、あれか…」
ススムではなく、邦彦がその言葉を発した。
「父さん、僕の書いたメモやノートのことを知ってるの?」
「ああっ、東京から引っ越す前に、おまえの荷物を整理したときに、 偶然見つけてな。全部読ませてもらったよ。ついでに、あの中の 一部を英文にして、アメリカの友人にも送ったんだ」
「父さん、そのアメリカ人って、ピノックっていう人じゃない?」
「おおっ、よく知ってるな。あいつ、おまえには本名を名乗ったのか…。 とにかく、あれはすごい話だったよ。まるで御伽噺のようだったが、 時が経つにつれ、真実味を感じるんだ。今、銀行の貸金庫に預けてる。 高知の自宅にはコピーを置いてあるよ」
「銀行の貸金庫?」
「それだけの価値は十分ある。父さんはそう思うぞ。ああっ、そうだ。 セルティさん、入国審査の天使の話はどうなったんでしたっけ?」
「はい、好枝さんが確認された中の一つには子供の人数がありました。 天使からは『あなたにはお子さんが3人以上いらっしゃいますね、 この項目はOKですよ』と言ってもらってました。天国に入るには、 3人以上の子供をもつことが絶対条件なんだそうです」
「おかしいな。好枝は私との間には、アキラとススムの二人の男の子 しか産んでいないぞ。子供が3人以上とはどういうことなんだろう?」
「ええっ、好枝さんも同じ質問を担当の天使に言ってました。天使の 話では、たしかに男の子二人では審査基準に引っかかるけれども、あ なたは保育士として、実にたくさんの子供たちを我が子のよう愛して きた。一方でそれらの子供たちも、実のお母さんのようにあなたを慕 っていた。霊界ではそれが考慮されたというのです」
「へえ〜、そんなルール、初めて知ったわ」
「そうかも知れません。でも、聖書には『二人または三人が集まるな らキリストもその中にいる』とあります。きっと夫婦と三人の子供が 心一つになった状態が“天国の最小単位”という意味なんでしょうね」
「人数もそうだけど、親子、夫婦、兄弟姉妹、それぞれが強い信頼と愛情 で結ばれる家庭を築かなければ、天国には入れないのかも知れないね。 お金も、地位も、名誉も…、天国とは直接関係ないものなんだね」
「それじゃあ、イエス・キリストが“私はまた来る”と言ったのは?」
「う〜む、その話が本当なら、彼も奥さんをもらって、子供を三人以 上つくらなければ天国へのパスポートとビザを取得できないことにな るなあ…。でも、クリスチャンがそんな話を聞いたら卒倒しちゃうぞ」
邦彦の言葉に一同は笑った。
セルティも沙知子も、イエス・キリストの義理の妹から教えられた というメモの内容をすぐにでも知りたいと思った。
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