セルティはそれまで何度か地上をさまよう霊人を見たことはあった。 しかし、邦彦の前に現れた彼の先妻、好枝の姿は、今までのどんな 霊たちとも明らかに違っていた
何が違うのかと言えば、彼女は自ら光を発していることだった。 その輝きは決して強くはないが、全身が極めて明るく温かい。
邦彦も彼女の明るい雰囲気を感じてか、いつの間にか深刻な表情 は消え、視線を前に向けた。
そのとき、彼女は彼に抱きついた。すると二人を包む光は大きく強く なった。邦彦は何かを感じたのか、目をつむって気持ちを集中させた。 もちろん、彼の目に霊となった彼女の姿は見えないはずだが…
おもむろに好枝の霊はセルティの方を向いて話しかけてきた。話すと 言っても彼女は口を開いてはいなかった。セルティは邦彦とテレパシー で会話したときと似た感触を彼女から感じた。
“はじめましてススムの母です。あなたにお会いできて光栄です” “彼女と私の波動が共鳴して会話できてるのね。あっ、はい、私こそ…”
“あの世に行ったら、言葉が通じるのだろうかと心配しましたが、 心情で全部通じるんです。日本語も英語もフランス語も関係なし”
“ススムのお母さんって、すごく品のある方なんですね” “ありがとうございます。私はあの子に何もしてあげられなくて…” “いいえ、素晴らしい息子さんです。私、彼と結婚するつもりです”
その言葉に彼女は嬉しそうに笑顔で応えた。
セルティは彼女とさまざま会話をした。彼女が生前体験した光景も見 たり、霊界に行ってからの出来事など、あまりにたくさんの情報を浴 びたような感じだった。
それはすごく長い時間だったとセルティは思ったが、実際にはほんの 数秒間に過ぎなかった。しかし、沙知子はその時間、セルティの顔が 姉の好枝そっくりに見えていた。しかも官能的な恍惚とした表情さえ 見てとれた。
ふと、我に返ったセルティが手元の時計をみると、 しばらく秒針が止まっていた。
もう時計が壊れたのかな…と思った次の瞬間、 秒針が突然動き出した。
「セルティさん、ひょっとして好枝姉さんが…、ここに着てたの?」 「はい、ちょっとビックリしましたけど、来られてました」
邦彦はやっぱり…、という思いで再び目をつむった。
「聖書には『天国ではめとったり嫁いだりはしない』とありますけど、 好枝さんが言うには、最近、あの世ではめとったり嫁いだりする準備 が整いつつあるようです。ただ、その場合、相手は神様がを決めてく ださるので、誰が相手になっても御意のままにという思いでいて下さ いと言ってましたよ」
「まあ、神様が決めてくださるなら、それが一番いい」
邦彦は、ほっとした思いで言葉を発した。
「原則では地上での夫婦が一緒にいるハズですが、心情のスレ違うカ ップルが多くて、霊界に行ってもほとんどバラバラ。たとえ夫婦でも、 お互い会うことがないそうです。つまり、独身だらけらしいです」
「でも、本当に仲が良くて一緒にいる夫婦もいるんでしょ?」
「はい、いらっしゃいましたね。好枝さんに案内された場所では、 ご主人の霊体に奥様が入って行かれたり、逆に奥様の霊体にご主人 が入って行かれたりしてました」
「夫婦どちらの霊体に入ってもいいのね」
「そのようでしたね。ただ、配偶者の霊体に入るときって、すごい快 感らしいですよ。地上でセックスして感じるエクスタシーなんて比べ ものにならないくらいだそうです」
「えっ? 好枝姉さんは、それ、霊界で体験したのかしら?」 「本当かどうか分かりませんが、お見合いなさったみたいで… ひょっとしたら、その方と一緒になられたのかも知れませんね」
「お見合い? あの世で?」
「ええっ、そうおっしゃってました。それから…ぜひ、 妹には邦彦さんと永遠に一緒でいることを望んでいるとも…」
沙知子は、思わず目に涙をためてしまった。それを見た邦彦は 彼女を後ろから抱きとめ、彼女と自分の頬を合わせた。
「『天国』という漢字を分解すると「二人の国」となるのは啓示的 ですね。天国は夫婦単位でなければ、入国手続きができないそうです。 それは、どんな立派な霊でも例外ではないと、好枝さん言ってました」
ススムが右手を差し伸べると、セルティは微笑みながらその手を握り、 そのまま彼に抱きついた。この人は私のために神様が準備してくださ った伴侶…と彼女は思った。ススムも同じ思いで彼女を見つめていた。
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