セルティは機内食のお茶を飲みながら、ススムに話しかけた。
「尖閣諸島の海底油田はサウジアラビアと同じくらい埋蔵量って 聞くけど、実際、そんなにあるのかしら?」
「実のところ、それが分からないんだよ」
「えっ?」
「何しろ、調査したのは国連だよ。事実上、アメリカの手先 だから本当にそれだけの石油があるのかどうか疑わしいんだ」
「じゃあ、アメリカが何か画策した可能性があるっていうの?」 「中東諸国での工作を思えば、そう考えてもおかしくないだろう」
ススムはバックから電子手帳を出してセルティに見せた。 それは少し古い国産品で2ギカバイトのSDカードに たくさんの情報を記録していた。
「わあ、すごく可愛らしい。小っちゃなパソコンみたい♪」 「インターネットに繋がないからセキュリティは万全だよ」
「ウフフ、少なくともスマートフォンよりは心配ないみたいね。 あれって、バックグランドでどこかと情報のやり取りをしてるから、 個人情報は漏れまくりって誰か言ってたわ」
ススムは細長い棒状のステックで、電子手帳の画面をクリック しながら、あるファイルを見つけた。
「あったあった。これはジョセフ・ナイという合衆国の国際政治学者 の書いた文書で、彼はアメリカの民主党政権でしばしば政府高官を 務めてきたんだ。たしかクリントン政権のときの東アジア担当者で、 のちに安全保障担当の国防次官補も務めていたと思う」
「この写真からして、本当に頭の良さそうな人ね」
「本当だね。ただ残念なことに、こんな優秀な人物が対日工作を 担当してる黒幕の一人らしい。これは彼が米国上院下院の200名以上 の国会議員を集めて講演した“対日本への戦略会議の報告書”だよ」
ジョセフ・ナイ著「対日超党派報告書」 ― Bipartisan report concerning Japan ―
�@東シナ海、日本海近辺には未開発の石油・天然ガスが眠っており、 その総量は世界最大の産油国サウジアラビアを凌駕する分量である。 米国は何としてもその東シナ海のエネルギー資源を入手しなければな らない。
�Aそのチャンスは台湾と中国が軍事衝突を起こした時である。当初、 米軍は台湾側に立ち中国と戦闘を開始する。日米安保条約に基づき、 日本の自衛隊もその戦闘に参加させる。中国軍は、米・日軍の補給基 地である日本の米軍基地、自衛隊基地を「本土攻撃」するであろう。 本土を攻撃された日本人は逆上し、本格的な日中戦争が開始される。
�B米軍は戦争が進行するに従い、徐々に戦争から手を引き、日本の自 衛隊と中国軍との戦争が中心となるように誘導する。
�C日中戦争が激化したところで米国が和平交渉に介入し、東シナ海、 日本海でのPKO(平和維持活動)を米軍が中心となって行う。
�D東シナ海と日本海での軍事的・政治的主導権を米国が入手する事で、 この地域での資源開発に圧倒的に米国エネルギー産業が開発の優位権 を入手する事が出来る。
�Eこの戦略の前提として、日本の自衛隊が自由に海外で「軍事活動」 が出来るような状況を形成しておく事が必要である。
「彼は米国の政治家や高級官僚養成のスクールであるハーバード大学 ケネディ行政大学院の院長でね、そこから輩出された大勢の政治家や 行政担当官たちの司令塔でもあるのさ」
「アメリカの政策を起草している舞台裏の中心人物ってわけね」
「うん、日本はとんでもない人物に目をつけられてしまったらしい」
「そうなんだ…。戦争に勝ったアメリカは尖閣諸島を米国領にしたのに、 東アジアの国々が領海問題で争うように、わざと日本に返還したのね」
「そうだと思うね。国連が1969年に尖閣列島周辺海域に1000億バレルを超 す原油がある発表した途端、今まで何の興味も示さなかった中国・台湾が 領有権を主張し出したのは、まさにアメリカの罠に引っかかった瞬間だよ」
「1000億バレル?」
「そうだよ、世界第4位のイラク、第5位のクウェートに匹敵する。 だから、中国も台湾も、そりゃ目の色も変わるはずだよね」
セルティはお茶をぐいっと飲み干しながら、ある事に気づいた。
「私、分からないんだけど…。日本政府って、日本人にさえ尖閣諸島 に上陸させないでしょ。その本当の理由って何なのかしら?」
「正直言って僕にも分からない。ただ、中国が直ちに軍事行動に出な い理由もそこにあるのかも知れない。だって、中国がその気になれば すぐにでも占拠できるよ。日本の民主党政権に『自衛隊を動かすな』 ると命令するだけで終わるだろう」
「そうね、日本の政治家の『遺憾に思う』は『国民の手前、ちょっと 怒った顔をしますけど、どうぞ好き勝手にやって下さい』と翻訳される くらい世界からバカにされてるものね。でも、中国が躊躇するものって 本当に何なのかしら?」
ススムとセルティは前方から歩いてきたCAにコーヒーを注文した。
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