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作品名:本当かどうかは別として 作者:Sharula

第50回   生い立ち
ススムは飛行機の中で彼の父から来た携帯メールを読み直した。
セルティは彼に寄り添うようにそのメールを見た。



「お父さん、今夜は松山には来れないそうね」
「まあ、用事があるっていうけど、きっと釣りだよ」
「釣り?」
「そう、東京から高知に引っ越したのも、釣りがしたかったからだよ」
「あなたのお父さん、むかしから、そんなに釣りが好きだったの?」

「最初興味はなかったらしいけど、松山にある母さんの墓にお参りした後、
友達に誘われて高知に行ってから病みつきになったらしい」

「私、テレビで、港の防波堤でたくさんの人が魚釣りをしているのを
見たことがある。たしか日本を紹介する番組だったわ」

「僕の父さんも最初はそれで満足してたんだけど、『渡船』(とせん)
といって沖合いの島に船で渡る釣りを経験してから、もうハマってね。
週末になると東京から何人かでワンボックスカーに乗って、神奈川や静岡、
千葉の沖に出かけるんだ。本当に遠いのに、子供みたいに楽しそうで…」

「He's a fishing enthusiast.」
「日本ではそういう人を『釣りバカ』と呼んでるよ」



そのとき、ちょうど機内サービスでやってきたCAに、二人は
缶ビールを注文して受け取り、プルトップを起こして乾杯した。



「ウ〜ン、最高! 本当、おいしいわ」
「すごく冷たくて気持ちいい。生きた心地がする」
「あっ、いけない。新聞に少しこぼしちゃった」



セルティは勢いあまって、膝の上に載せていた新聞にビールを
少し濡らした。それは機内に搭乗する際、手にしたものだった。



「日本語の新聞?」
「そう、少しでもあなたの国を愛するために、勉強しようと思って…」
「ありがとう…。セルティ」



ススムは彼女のななめ後ろから顔を近づけ、片手でアゴをやさしく愛
撫しながら自分の方に向けつつ、彼女の唇の端にキスをした。次に
上唇だけにキスして、下唇だけにキス…



「ススムはキスが上手ね」
「お褒めに預かって光景です。女王様」
「ウフフ、また私、女王様なの? おかしい」
「実は、このキスの仕方、父さんから教えてもらったんだ。義母さん
を実験台にして、兄さんと僕の目の前で実演してくれたんだよ」

「えっ? ご両親が子供たちに性教育したの?」

「そうだよ。人生に必要なことは学校任せじゃなく、親がちゃんと見
本を見せて、学ばさせなければならないというんだから驚きだろう。
本当かどうか分からないけど代々の家訓らしい」

「へえ、おもしろい家訓ね」

「キスというのも武道の立ち会いと同じで、真正面から行こうとする
と無意識に防衛する本能が働くから良くないらしい。セックスという
行為も衝突を避けて、いかに相手と調和しやすい状況をつくるかを、
まず考えなさい、って教えてもらったんだよ」

「そういえばお義母さんって?」

「ああっ、話そびれてたね。僕を産んだ本当のお母さんは、僕が3歳
の頃病気で亡くなって、その後、父さんは母さんの妹を後妻に迎えた
んだよ。母さんの遺言に従ってね」

「お母さんの遺言?」

「もともと母さんはすごく身体の弱い人だったらしく、医者から余命
一年って言われたときに、父さんがプロポーズして急いで結婚したんだ。
最初母さんの両親は、結婚しても母さんが早く亡くなったら父さんの
その後が不憫だからって反対したらしいんだけどね」

「じゃあ、ススムのお母さんはそれから一年後に亡くなったの?」

「いや、それがね。父さんとの結婚生活があまりに幸せだったらしく、
それから5年も生き延びれたって、母さん喜んでたんだよ。僕は幼くて
母さんの面影も覚えてないけど…」

「ステキな話じゃない」

「生涯結婚できないと思っていたのに、結婚もできたし、大好きな人との
間に男の子を二人も産むことができて幸せだったって遺書に書いててね。
ただ、母さんは妹が自分の夫に惚れてるのを知ってたらしくて、自分が
亡くなったら是非二人に結婚してほしいとも書き残してたんだ」

「それでススムには母親が二人いるのね」

「そうだね。でも、今思えば両親にあんな性教育してもらえててよか
ったかも知れない。最近の日本の学校で教えてる性教育なんて、肝心
の愛が伴わないフリーセックスとか性器教育としか思えないし…」

「じゃあ、今夜、私を実験台にして、その復習をしようね。ウフフ…」



二人は笑いながら缶ビールを飲み干した。セルティは先ほど濡れた新
聞の写真を見ながら、ススムに尋ねた。



「この人相の悪そうなおじさんは何をしたのかしら?」

「その人は尖閣諸島の島に上陸して英雄扱いされてる香港の男性なん
だけどね、彼の正体がCIAの手先だってことがバレて、それがまた
おもしろい話で…」



ちょうどそのとき、CAが二人に機内食を手渡してきた。少し奇妙な
感じのランチだったが、彼らは興味津々な思いでそれらを食べ始めた。






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