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作品名:本当かどうかは別として 作者:Sharula

第5回   11,000人の原発再稼働反対デモ
ススムが空港からホテルに戻ると、
美奈子は自分のブログを更新していた。


「へえ、英語で記事を書いてるんだね。素晴らしい」
「ありがとうございます。でも、英語ってぜんぜん自信がないんです」
「そんなことない。使うだけでも大したものだよ」


美奈子は電子辞書で単語を調べながら文字を入力する。


「あれっ、いつの間に僕の写真撮ったの? すごく上手だね」


その写真はショッピングセンターで、ススムが彼女のシャツを値切っ
たときに撮影されたものだった。写真に写る人物や背景の構図などを
みれば、とても素人とは思えない。


彼女は黙ってデジタル一眼レフを彼に見せた。それが彼のボスのカメ
ラよりも高い気がした。どうやらカメラ好きは父親ゆずりらしい。


ところが、ススムは彼女の英文を読みながら顔を曇らせた。


こんなに写真を撮るのが上手なのに、英語はちょっとどうかなと思える
レベルだった。この点も父親ゆずりかも知れない…と彼は思った。


「美奈子さん、僕が君の“恋人”?」
「あっ、見てくれました。写真の下の英語」


“This is my lover.”


「この lover という表現だと『恋人』のほかに『愛人』『情夫』と
いう性的関係を暗に表すので、ブログを見た人に誤解されるかも知れ
ませんよ。ですから『恋人』と表現するなら boyfriend の方がいい
と思います」


「ススムさん、私のこと恋人にしてくれるんですか?」
「いえ、そういう意味では…」


ススムは美奈子が“ボスの娘”という意識もあってか、
どこか遠慮がちな物の言い方になってしまう。

結局、美奈子はススムを lover のままにした。いずれはそうなる運命が
待っているかも知れない、そんな希望的観測を捨てないのが彼女だ。


“彼女のブログをセルティが見たら、きっと怒るだろうな…”


               ☆


ススムがそう思った瞬間、セルティが電話をかけてきた。彼女はまだ
移動する飛行機の中だが、同乗したビジネスマンたちから東京の情報
を聞いたらしい。


内容としては、6月15日の午前中、官邸前で原発再稼働反対のデモが
行われ、11,000人が参加したにも関わらず、ほとんどのテレビや新聞
は沈黙した。また、記事にした新聞でも「300人」というウソを
書いたらしい。


日本の人たちが、もっと英語を自由に操れたら、海外の記事を見なが
ら政府のウソやごまかしにもっと早く気づけるのに…とセルティは残
念がった。


「飛んでる飛行機から携帯電話かけても大丈夫なんですか?」


美奈子はススムが電話を切った後、ちょっと意外な顔をして尋ねた。
今の時代、日本以外の航空会社はほとんど大丈夫なのだと彼は話した。

一方、多忙なビジネスパーソンたちにしてみれば、携帯やパソコンも
使えない不便な日本の飛行機が、最も避けられるのは当然だと説明した。


“ススムさん、電話しながら何だか嬉しそうだったわね。
 やっぱり、セルティさんが一番の強敵だわ”


美奈子は内心そう思いながら、ススムを見つめた。




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