ススムの同僚である石川逸郎が残した新聞を、セルティは興味深く 読んだ。彼女が日本語の新聞をみるのは初めての経験だった。
「日本語って、ひらがなやカタカナに漢字が混じってて読みづらいわ」 「そうだろうね。セルティには文字じゃなく、記号に見えるだろう」 「ねぇ、これって格付け会社のムーディーズのことかしら?」
ススムが新聞をのぞいてみると、米格付け会社ムーディーズ・インベ スターズ・サービスが、2012年8月27日に韓国の国債格付けを「A1」 から「Aa3」に一段階引き上げたとあり、見通しは「安定的」と書か れていた。
ススムはノートパソコンを立ち上げ、ちょっと検索した。今度はセルティ がススムの隣に座り、英語で書かれたPCの画面をのぞきこんだ。
「韓国は喜んでるみたいね、これでやっと日本や中国と並んだって…」 「う〜む、韓国債の金利は3.08%…、あれっ、ずいぶん高いな」 「日本は0.8%くらいじゃない?」
「そうだよ、米国債だって1%…。韓国債って、本当に大丈夫なのかい?」 「きっと、どこかのヘッジファンドが韓国の国債をたくさん仕入れてるはずよ」 「『買いたい時は格付けを下げ、売りたい時は上げる』がセオリーだからね」
「そうねぇ、ムーディーズがまいたこの餌に一番に食いつくのは、 どこの国の人たちかしら? やっぱり、日本の投資家かしら?」
「まあ、韓国や中国の経済が絶好調なんて大々的に宣伝しているのは日本 のメディアくらいだしね。可能性があるといえばあるかも。英語さえ読め ない国民だから簡単にだませる、そう思っているのかも知れないよ」
「でも、韓国って日本がスワップ停止をほのめかした程度で、株が暴落 するような国だし、主要な企業や銀行の外資率がほぼ全て5割以上 なんて異常だわ」
外資比率 -------------------- サムスン 60% LG 50% ボスコ 58% 現代自動車 49% SKテレコム 55% 国民銀行 85.68% ハナ銀行 72.27% 新韓銀行 57.05% 韓国外韓銀行 74.16% 韓美銀行 99.90% 第一銀行 100.0%
「韓国の大手で数少ない稼ぎ頭のサムスンはアップルとの特許訴訟で もめててね。おそらく、カリフォルニア州の北部地区連邦地方裁判所 はサムスンに対してかなり厳しい判決を出すんじゃないかな」
「シュアを奪うためにダンピングしまくって、結局、儲からないビジ ネスになってしまうのよね。市場ごと潰しちゃうから不況になるの。 それが廻り廻って本国の韓国の労働者が貧困にあえぐことになるのよ」
「そういえば、日本でも係争中だね。サムスンとアップルは…。おそらく 8月末には東京地裁で判決が出るんじゃないかな。でも、東京地裁での 訴訟内容は米国と違うから、訴訟の一部はサムスン側が勝つかもね」
セルティはススムの横から手をPCに伸ばして新たに検索をはじめた。
「合衆国と締結したFTPって、ジワジワと韓国の首を絞めてるわね」
「韓国が本当の地獄を見るのは、これからかも知れないよ。韓国債の 格上げの歓喜も、いつまで続くものか分からないけど、よくもまあ、 次から次へと畳み掛けるものだね、国際金融資本は…」
「『嵩(かさ)にかかって攻める』という日本語の状態じゃない?」
「セルティ、よくそんな難しい言葉を知ってるね。まあ、それにしても 今の韓国に対しては適切な表現かも知れないな。いや、まったく…」
「ウフフ、まあ、何となく、そんな言葉が頭に浮かんできただけよ」
ススムは時計に目をやり、飛行機の搭乗口に行こうと彼女に促した。
「台風15号が韓国に近づいてるわよ」 「あれっ、中国の広州や青島方面に抜けるコースじゃなかった?」 「ほらっ、アメリカも香港も台湾も日本も、韓国の西側を通るコースよ」 「じゃあ、韓国の気象庁だけが違う天気図を示しているのかい?」 「まさか…」
二人の座った席の近くのテーブルに置かれた韓国語で書かれた新聞には、 各国の気象庁とは異なる台風の進路が描かれていた。彼らは異常なほど の情報統制が、韓国社会全体を覆っているのを感じて席を立った。
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