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作品名:本当かどうかは別として 作者:Sharula

第41回   『8.11』に関する噂
ススムとセルティはパリのオルリー空港でレンタカーを借り、高速
A6Nordをパリ方面に向かっていた。セルティは乗馬が大好きで、彼女
にとっては車やバイクを運転するときも馬に乗るような気分らしい。


彼らの車がポルト・ドルレアンから西環状線に入ろうとするとき、ススム
の携帯電話が鳴った。彼のボス中村喜一の娘、美奈子からの電話だった。


セルティはハンドルを回しながら、気にしないで…という表情を浮かべた。


「お久しぶりです。マイ・ダーリン」
「相変わらずですね、美奈子さん。そんな言い方。婚約者に失礼ですよ」
「いいんです。私はまだススムさんのこともあきらめてませんから…」

「まったく……。お父さんに僕の電話番号を訊かれたんですね」
「はい、その父も、今、私の隣にいるんですよ」
「えっ? ボスが?」


セーヌ川を渡ろうとしたとき、道路は急勾配になり、車の先には青い空
だけが見えるような状態になり、ススムは前を見ながらちょっと驚いた。


「私は長崎なんですけど、ススムさんは今はどちらにいらっしゃるの?」
「ここはセーヌ川ですね。タンカーも見えて、川というより海みたい…」
「今はスイスじゃなくて、フランスですか?」


ススムがセルティの母親の実家へ行くつもりだと話すと、美奈子は祖
母の慰霊祭に参席するために長崎へ来たと告げた。


キリスト教会の上に米軍が原爆を投下したのは偶然とはいえ、キリス
ト教国家としてあってはならない事実であったと思われる。その日そ
こには礼拝でたくさんの女性たちが祈っていたという。美奈子の祖母は
その中の一人だったらしい。


中村喜一が美奈子に電話を替わってほしいとジャスチャーした。


「やあ、小林。休暇、楽しんでいるかい?」
「はい、ボス。特別休暇とボーナスありがとうございます」
「君がパリにいるという事はロンドンでのテロはないと考えていいのかな?」

「それは分かりません。でも、危険性は高まったかも知れません。
私は明日ソウル経由の便で日本に向かうつもりです。父に会うので…」

「そうか…、ロンドン・オリンピックで未だにテロの可能性があるのか」
「可能性はあるにはありますが、私もセルティも“ない”と思ってます」


ススムは各国で流れるテロの噂を、かいつまんで話した。


もっとも危険と噂されるのは8月11日で、当日はブラジル対メキシコ
の男子サッカー決勝戦が行われる。テロが実行された場合、マスコミ
は表向き「シリアやイランによるロンドン核テロ」として報道する
だろうと噂されている。


実際には『9.11』と同じく何年も前から組織的に計画されたもので、
欧米各国がシリアやイランと戦争するための大義名分をつくるため。
それはブッシュ前大統領が『9.11』後に、アフガニスタンやイラク
に戦争を仕掛けたことと同じやり方をするだろうと…。


スタジアム自体、ナチス・ドイツが投下した不発弾が多く埋められて
いて、さすがの中国人もその場所の開発を異様に避けてきたと評判の
場所らしい。また、オリンピックの警備を担当しているイスラエル系
の民間軍事警備会社はこれまでにも数々の自作自演の事件に関わって
きたとの噂のある会社だといわれている。


会場ないし、会場の近くで小型核爆弾が炸裂し『9.11』当時のレスキ
ュー隊の代わりに英国軍による懸命の救出劇が新聞の見出しを飾る…


ふつう、世界中にこうした噂が広まれば、さすがに中止するものだが、
すでに金融市場でテロを見越しての莫大な金額の取引がなされている
ため、今更、止めるに止めれないのが実情だろうとの噂だ。


テロが中止されたら、莫大な借金に追われる資産家も少なくないだろう。


それらの話は巷に流れるただの噂だが、開会式をはじめ、カルト染み
た宗教儀式の様相を示したセレモニー、奇妙なマスコット・キャラク
ター、会場の外にある不気味なモニュメント、それに米国から輸入し
た20万個の棺桶といった異様な風景は、それらの噂が真であるかのよ
うに思わせるに十分な演出だ。


ススムとセルティは、ロンドン・オリンピックのテロよりも、合衆国内
で内戦が起こる可能性を心配している。自由の国であるはずの合衆国は、
現在、高度な情報統制下にある。


各州の市町村に戦車や装甲車が訓練と称して走りまわっている
光景を二人は動画サイトでみながら恐怖を覚えたのだ。


『8.11』に関する噂の本命は、意外と首都東京を狙った人工大地震
かも知れない…。セルティはそれをススムに話すことは躊躇った。
彼らが行くのは西日本ではあるものの…



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