ススムはスイスから日本にいる同僚の岡島敬一郎とチャットした。 岡島は週末、再び婚約者の青野素子と高知県に出掛けていた。
「やあ、岡島。温泉にでも泊まっているのかい?」 「ええっ、高知の温泉とお酒は最高です。もちろん素子さんと一緒です」
「せっかく、高知に行ったのなら、四万十町でカッパの造形を見たら 面白いかも知れないよ」
「カッパ? …ですか?」
「そう、昔からの伝説に出てくるあの河童だよ。四万十川の山奥に打 井川(うついがわ)というところがあってね、海洋堂かっぱ館という 記念館が先月オープンしたばかりだ」
「あの〜、日本の地元の人が言うのなら分かりますけど、ずっと中東 やヨーロッパにいる先輩が、なぜ、高知のカッパ記念館のオープン なんか興味あるのですか?」
「実はね、僕、UFOの話題とか好きなんだよね」 「カッパとUFO? … ですか?」
「そうなんだよ。雑誌とかに出てくる宇宙人で有名なのが『グレイ』 と呼ばれる種なんだけど、どうやらそれは米国の、でっち上げらしく てね、全世界に生息しているカッパみたいな種族らしいんだ」
「グレイって? あのアーモンドみたいな目をして、 カップ焼きそばのCMに出てくる、あれですか?」
「そうなんだ。もともと地球上で生息してる両生類らしい。 希少種族なんだけど、米軍はもう何匹も捕獲に成功しててね…」
そのとき、突然岡島の後ろのドアを開けて青野素子が入ってきた。 彼女は濡れた髪をタオルで拭きながら、パソコンの画面のススム に挨拶してきた。
「ススムさん。お久しぶりです。オリンピック見にいってるのですか?」 「いいえ、今はセルティとスイスです」 「わあ、いいな〜。そうだ、ススムさん。開会式で日本の選手団見ました?」
「強制退場させられた場面ですね」
「そうです。係員が横に何人も並んで通せんぼしてましたよね。あれは 東京都が説明するような誤誘導じゃないですよ、絶対。そう思いません?」
「海外では日本選手団に特に関心を持ってなかったので、 ほとんど話題にもなってなかったと思いますよ。ただ…」
「ただ?」
「英国のセキュリティが、放射能汚染の拡散がどうとかいう噂があって…」 「放射能汚染って…。日本の選手団が放射能汚染者として差別されたのですか?」
「そうじゃなくて、壮行会で野田首相がお守りにあげたバッジが問題だったらしい。 放射能汚染された可能性のある福島のガレキでできたものらしくてね、それが BBC放送で流れてIOCやセキュリティは許さなかったみたい」
驚く素子の隣で、岡島が口を開いた。
「先輩、その壮行会、僕もテレビで見ましたよ。被災地の子供たちが 作ったっていうメダルですよね。それ、一人一人に手渡してましたよ」
「えっ? じゃあ、日本の選手団は皆被曝しながらオリンピックに 参加してるのですか?」
「おそらく…。よくそんな状態で選手たちはまともな試合ができると思うよ」 「それじゃあ、開会式で女王陛下の前に出すわけにはいかないですよね」
「ヒースロー空港のセキュリティは放射能まで感知できないだろうからね。 言葉を変えれば日本選手団は、放射性物質を身につけたテロリストといえ る状態だよ」
「野田首相はいったい何を考えているのかしら? 日本をオリンピックで 負けさせたくてやったのかしら? 噂通りの在日政権だから?」
「さあ、それは分からないけど、誰かの入れ知恵かも知れないね、うっ…」
ススムはいつの間にか後ろからやってきたセルティに、突然キスで口を 塞がれた。彼女はときどきこの手の悪戯をススムに仕掛けるのが得意だ。 そして皆なの会話に割って入った。
「日本の天皇陛下が今年5月にエリザベス女王に会ってるわ。そのときの やり取りが、今回の日本選手団に対するバッシングとして与えられたの かも知れないわよ」
「セルティ、君は突然現れては鋭い指摘をしてくるね。でも、それは あるかも知れない話だな。例のお金を貸してほしいと言ったのを日本 の天皇陛下が断ったという…、ゴホン、ゴホン」
青野素子はセルティの真似をして、岡島にキスしようとしたが、謎の 開会式の話に、エリザベス女王と天皇陛下という名前が会話に出てき て、キョトンとしてしまった。
代わりに岡島が素子を抱きしめてキスを交わした。ススムとセルティ の会話はいつもこの調子だと微笑みながら…
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