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作品名:本当かどうかは別として 作者:Sharula

第30回   坂本龍馬の街
ススムの同僚であり、後輩でもある岡島敬一郎は、週末、高知県の桂
浜に青野素子と来ていた。彼女とは正式に婚約し、来春には結婚する
予定となった。


曇り空の下、二人は広い太平洋を見ながら、その壮大さを満喫した。
太平洋を見つめる巨大な坂本龍馬の像の写真も撮った。岡島は以前
来たとき、こんな観光用のものはなかったと苦笑した。


「敬一郎さん、桂浜に連れてきてくれてありがとう」
「僕こそ、素子さんのお父さんが好きだった場所に来れて嬉しいですよ」
「朝お墓参りしたので、父も私たちと一緒にここに来れてると思います」
「ええっ、きっとお父さん、喜んでいらっしゃいますよ」


風があったので、二人は少し大きな声で会話した。


「坂本龍馬って、本当に英雄だったんですか?」
「高知の人に聞かれたら怒られますけど、一応はそう信じてあげて下さい」
「じゃあ、事実は違うのですか?」

「話はちょっと事情が事情で複雑なんですけど、僕は彼が好きですよ。
彼はフリーメーソンにうまく操られていることに気づいたと思うんで
す。でも、自分が間違っていることに気づいたら潔く方向を変えたんです」

「わ、分かりました。それで暗殺されたのですね」
「は、はい、そうだと思います。日本人のエージェントを使って…」
「風が急に強くなりましたね、車に、も、戻りませんか?」
「ええっ、そう、そうしましょう」


ふたりは車に戻って安堵した。お互いに見つめ合い、キスと抱擁を交
わす。付き合いはじめた頃では考えられないほど、ごく自然に愛の行
動に移れる。


「ねえ、敬一郎さん、坂本龍馬の奥さんってどんな人か知ってます?」
「そういえば、素子さんはNHKの大河ドラマで感動したって言って
ましたね」

「ええっ、入浴してて全裸で龍馬に危険を知らせて命を助けたって…」
「お龍さんと龍馬の結婚に関しては、その話が有名ですね」

「たしか彼女のお父さんは医師で、安政の大獄で獄死してたと思いま
す。それで一家は経済的にすごく苦労するんですが、その後、倒幕集
団の賄をするなど放浪しているときに、龍馬に出会って寺田屋で働く
ことになったんです」

「でも、龍馬が暗殺された後の話はあまり聞きませんね」

「まあ、そうかも知れませんね。彼女は横須賀の行商人と再婚するの
ですが、結局アルコール依存症になってしまうんです。龍馬がいなく
なったショックから立ち直れなかったのでしょう」

「まあ、かわいそうに」

「ただ、墓碑には再婚した男性が『坂本龍馬の妻』と刻んであげたら
しいですよ」

「お龍さんって、本当に龍馬のこと、愛してたんですね」


それから二人は高知市内中心部を探索した。
商店街のあちらこちらに『龍馬』の文字を見つけることができる。


「わあっ、どこも『龍馬』だらけですね。ここはまさに坂本龍馬の街ですよ」
「本当ですね、ここで坂本龍馬の悪口を言ったら殺されますね」

「そんなことを言う人がいるのですか?」
「それがいるんです。今頃、ドイツで彼女と観光してると思いますよ」
「アハハハ…、分かりました。ススムさんですね」

「まあ、彼なら西郷隆盛の妻、いとさんの話をしてくれますよ。あの
フリーメーソンがアジアで最も恐れたのは西郷隆盛だったこととか…」

「へえっ、おもしろそう。ねえ、敬一郎さん、そのあたりの話、
ご存知なら教えてくださらない。愛し合う前に…」

「もちろん、喜んで。でも、その前にちょっとあそこのアイス食べて
みませんか? 高知のアイスってメニュー見ただけでも変わった味つ
けが多いですよね」

「本当だ……。ナス? ナスのアイスクリームってあるの?」


その後、ふたりはカツオ丼が美味しい店があると言われて、
探すなど高知市内をさ迷いながらの観光を楽しんだ。


その頃、ススムはアムステルダムの田村正人とチャットしながら、大
きなクシャミをした。彼らは LIBOR(ライボー:London Inter-Bank
Offered Rateの略でロンドン銀行間取引金利のこと)の話題で盛り上
がっていた。


「誰かが僕の噂をしているのかな?」


セルティ・セジョスティアンはココアの入ったカップをテーブルに
置くと世界地図を指差して、ススムに噂の発信源を特定した。


「Japan!」


その瞬間、ススムの脳裏に岡島と青野素子の顔が一瞬浮かんだ。
何となくだが、彼らが自分のことを褒めていない気がした。





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