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作品名:本当かどうかは別として 作者:Sharula

第3回   消費税増税
ドバイはとにかく日差しが強い。

直射日光の当たるところは50℃くらいになるのかも知れない。
車で移動するにもサングラスと帽子は必需品となる。
逆にショッピングモールやホテルは寒いくらいの冷房が入る。


ススムはどこのレストランにする?とセルティに言われて、
海に突き出たアラブの塔にあるアル・ムンタハが頭に浮かんだ。


しかし、途中で友人のサイラス・アナキアンズから電話を受け、
『喜作』(Kisaku)に変更した。彼は大の和食好きなのだ。


『喜作』は入り口に入るだけで“リトル日本”と思える風情があり、
焼き魚、味噌汁、漬物、日本の新聞、日本語のテレビ放送…と、食事
している間は、ドバイにいることを忘れてしまうかも知れない。

            ☆


とにかく、サイラスは上機嫌だった。


「僕は日本、大好きだよ。僕のビジネスは日本によって救われた」
「ただ単に日銀の介入のおかげで儲けたんだろう?」
「ススム、違う。神様が僕に救いの手を伸ばしたんだ」


微妙に話しがかみ合わない二人の会話に、
セルティは可笑しさを感じながら寿司をほうばる。


「消費税増税法案を通すまでは、国民に株価をよく見せなければなら
ない。それは分かるが、それにしても一日だけで260億円もの国費を、
気前よくばら撒いてくれるのは日本だけだよ。現代の奇跡さ」


ススムはサイラスの腕時計を見て日本時間であることに気づく。


「ああ、僕が礼拝の時間を守るように、日銀は午後1時15分頃に市場
介入してくれるから、それにあわせて行動しなければならない」


「テレビは逃走犯逮捕のニュースで、ネットは関西の原発再稼動で
うまくカモフラージュできたみたいだし、消費税増税にはほとんど触
れないで済んでる。消費税は予定通り値上げになるんじゃないかな」


「分かってる。神の恵みは十分いただいた。だから、ここは僕がおごるよ」

「Thanks, Cyrus」

            ☆


セルティは店内の日本人と思われるお客たちを見まわした。


「せっかく消費税を増税しても、それが日本人自身のために使われな
いというのは、ちょっと気の毒な気もするけど…」

「まあ、可哀想だけど仕方ないよ。僕らにはどうしようもできない」

「まさか、韓国の銀行があんな事態になってるなんて誰も思ってなか
ったしね…。その穴埋めを日本がしてくれるなんて、まさしく“世界
のATM”だよ」


ススムは少し食べる手を止めた。


「案外、日本は損をしたようで、実はそうでもないかも知れない」
「ススムの日本人としてのメンタリティーがそう思わせるのかしら?」


ススムは笑って分からないと答えた。それにしても彼女がススムを見
つめる視線はいつも優しい。サイラスは二人を見ながら微笑ましさを
感じた。


「サイラス。もしかしたら今の君の時計は6月18日の朝5時に
アラームがセットされてるんじゃないか?」

「ああっ、ギリシャ総選挙の大勢が判明する日本時間だからね」

「さ〜て、来週はどんな一週間になるのかしら…」


三人は静かに温かな緑茶を飲み席を立った。
彼らは再会を約束してレストランをあとにした。






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