ススムはドバイ空港にセルティ・セジョスティアンを迎えに行き、 彼女を助手席に乗せて車を市内へと向かわせていた。
「ドバイ空港はいつ行っても人がいっぱいだね」 「週1000便以上のフライトが発着してて、真夜中でも早朝でもごった返しだし…」 「ゲートが頻繁に変わったり、広い構内を移動するだけでも大変だよね」 「そうそう、空港内に男女別の『祈りの部屋』があったの。さすが信仰心の厚い国だわ」
「もうそろそろ市内だね、空港から20分かかってないよ」
「そういえば、ススム、サングラス変えたのね」 「ああ、例の女の子にドバイの記念品にちょうだい、と言われて取られた」 「美奈子ね。なかなかやるじゃない。そうだ、ススム、海を見に行こう!」 「賛成! やっぱりドバイの海は世界一美しいよ」
ススムは車内に流れる音楽を変えた。
「う〜ん、なかなかいい曲じゃない。ちょっと古い気もするけど」 「ボブ・ディランの『Black Diamond Bay』って曲で、父さんが若い 頃によく聞いてたらしい。1976年にリリースした『欲望』というアル バムの中に入ってる」
「お父さんのね…。この景色と何かマッチしてる気がするわよ」 「そう、ありがとう」
ふたりは海沿いで車を止め、広い砂地を歩いた。透明度の高い 海の波打ち際ぎりぎりまで近づいてみると魚が泳いでいる。
「セルティ、お父さんとお母さんは大丈夫なの?」 「ええ、大丈夫よ。早くあなたのところにお行きなさいと追い出されたわ」 「僕は、嬉しいよ。また君に会えて…」 「ありがとう。私もよ」
それから二人はレストランで食事した後、ホテルに向かった。 ススムのドバイでの駐在勤務はあと一週間もなかったが、 セルティと一緒にどこへでも行くつもりだった。
ふたりがホテルに着いてロビーを横切るとき、 広げられた英字新聞の見出しがススムの目に入った。
“イランは攻撃を受けた場合、直ちに中東にある米軍基地、 およびイスラエルに対する攻撃を行うと警告した”
「中東地域で米軍基地があるのは、バーレーン、 アラブ首長国連邦、クウェート、トルコくらい?」
「そうね、イランの弾道ミサイルの射程距離が最大2000kmって 聞いたから、アフガニスタンやキルギスタンまで届くかしら?」
「いずれにしても開戦したら、ホルムズ海峡封鎖とミサイルの打ち合いだね」
エレベーターが階について、ふたりは部屋に入るとすぐ荷物を降ろし、 そのまま抱擁した。でも、さすがに汗が気になり、一緒に裸になって シャワーを浴びた。
「ねえ、美奈子が夜、裸であなたに迫ったんでしょ?」 「そ、そうだよ。僕も焦ったよ」 「よく我慢できたわね」 「ああ、自分でも偉かったと思うよ」 「違うわよ、美奈子の方よ」 「ええっ?」 「私なら絶対に止めたりしない。こんなふうにするわ…」
セルティはススムに抱きつき、彼の唇を奪い そのまま彼を床に押し倒して馬乗りになる。
「私ね、この位置からあなたの顔を見るのが好きなの」 「僕はこの位置からセルティを見上げるのが好きだよ」 「うふふふ、相変わらず上手ね。お返事が…。ウッ!」
「ごめん、ごめん。ちょっとだけ入っちゃった」 「うん、大丈夫。でも、ちょっとだけじゃ物足りないから、 ベッドで本格的に戦闘開始しましょう」
「戦闘開始しましょうって、セ、セルティ、前戯もなしに もう自分から入れて…戦闘モードに入ってるじゃないか」
「せ、先、先手必勝っていうでしょう。に、日本では…。 あなたは、もう、わ、私のものだからね。覚悟して…うっ、アッ」
セルティの積極的な姿を見ながら、ススムは嬉しかった。彼女が ここ数週間、何を思い、どう過ごししたのか? … 言葉ではなく、 直接肌と肌を触れ合わせながら分かるような気がした。
“これは細胞同士のコミュニケーションだな…”
たぶん、「愛」と「性」は別々のものじゃなく、 密接な関係を持つものであるとススムは感じた。
「I like it on top!」
セルティが感極まる声がバスルームに響いた。
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