7月1日の夜8時すぎ、岡島と素子は、その日5回目の交わりを終え、 ベッドでピンク・グレープフルーツジュースを飲んでいた。
「敬一郎さん、だんだん上手になってる気がする」 「本当に? 本当にそうなら嬉しいな」
「本当よ。お互いコミュニケーションを取りながら、 独りよがりじゃない愛し合い方ができた気がする」
「あれっ? どこからかメールが着てる」
岡島がパソコンの着信メールを開くとススムからだった。福島第一原発 4号機の使用済み燃料プールの冷却装置の運転が日本時間の午後3時7分 に再開したと書いてある。
岡島と素子はそれを読んで、お互い、言葉の代わりに目を合わせ、 キスで喜びの気持ちを表した。なお、メールの追伸には「温泉旅行 は楽しかったかい?」と書かれている。
さっそく、岡島はチャット・モードでススムに連絡を取ろうとした。 パソコンの画面にはマグカップでコーヒーを飲むススムが現れて驚く。
「あ、青野さん、服…、何か服を着て…」 「あっ、いけない。私、裸のままだった」
岡島はあわててウェブカメラを自分の手で覆った。
「岡島くん、君も隅に置けないね。意外にやる事はちゃんとやる男なんだね」 「ススム、この間のお前の気持ち分かったよ。かなり焦ったろう」 「当たり前だよ。しかも恋人じゃなく、上司の娘が勝手に裸で来たんだぞ」
素子はすぐに岡島の後ろに来た。 彼女は身近にあった岡島のパジャマを着たのだが、ちょっと大きすぎる。
「青野さん、きょうは楽しそうだったみたいだね」
素子は自分の裸を見られた恥ずかしさもあったが、正直楽しかった。 ニコッと笑いながら右手の親指を立てた。ススムも画面の向こう側で 嬉しそうに右手の親指を立てた。
「青野さん、今日はふたりで何回したの?」 素子はニンマリした顔で右手の5本の指を全部伸ばした。
「5回…、5回か…。頑張るね、岡島くん。一年後はパパだな」
岡島はこれから素子の自宅に送って、素子の家族に挨拶するつもり であること。それからいずれ自分の両親にも素子を会わせたいと ススムに話した。
ススムは彼らふたりなら永遠にうまくやっていける気がしてならなか った。人智を超えた何かの引き合わせのようなものが、このふたりには あるような気がしてならなかった。
ススムはコーヒーを飲み干すと岡島に話しかけた。
「そういえば、関西電力の大飯原発3号機が運転再開しちゃたね」 「西日本も危険区域になってしまうのかな…」
「仕方ないよ。大臣の首さえ簡単に飛ばせる組織が裏にあるみたいだし、 政治家も官僚も自分や自分の家族が殺されたりするのは怖いはずだ。 お金や利権が絡むと人間恐いからなあ」
「そう言われてみれば…、いつだったか、野田首相が眼帯してたよな、 あれ、やっぱり誰かに殴られたんだろう。黙って言うことを聞けって…」
「国を武器で攻めるより、国の長たちを個別に脅したり暗殺する方が 絶対的にコストが掛からないし、自分たちが悪者にならずに済むからな」
「じゃあ、沖縄や岩国のオスプレイ配備計画も何か狙いがあるのか?」
「そうそう、そうやって一つ一つの情報を自分で吟味していくといい。 オスプレイを配備するといえば、地元住民に反対される。それを分かった 上で話を持ちかけてくるアチラの意図は何か?…とかね」
「自分で答えを探せ、ということか?」
「そうだよ、最後は自分で考えないとダメなんだ。インターネットの 検索は“つくられた真実”しか、自分の目の前に引っ張り出してくれ ない。そう腹をくくった方がいい。特に今後はね。たとえばマスコミ が彼らと完全に連動してると仮定すればいろいろ見えてくる」
「ススム、いろいろ教えてくれてありがとう。じゃあ、出かけるよ」 「おう、青野さんのご家族によろしくな」
岡島はチャットの画面を切ると、素子と唇を合わせた。 素子はダボダボのハジャマの上から抱きしめる岡島と、 このまま永遠にキスしていたい衝動にかられた。
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