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作品名:本当かどうかは別として 作者:Sharula

第20回   福島原発4号機の冷却装置が停止
ドバイの2012年6月30日朝、ススムにメールが届いた。
彼のボスの娘、中村美奈子からのものだった。


添付された写真には首相官邸前の道路を埋めつくす“原発再稼動やめ
ろ!”と集まった人々がみえる。主催者は15〜18万人規模の参加者数
と発表したそうである。


彼女が夜7時ごろのニュースをみていたら、TBSとテレビ朝日が短く
ニュースを流し45,000人と報道。6/30の朝刊では警視庁が約17,000人
と発表したという。


ススムは岡島とのチャットで、
美奈子からのメールについて話し合った。


「彼女は日本のニュースがドバイに流れないと思っているのかも知れないな」
「ススム、そう言うなよ。彼女はそうやってお前とつながっていたいんだよ」
「お前な、彼女には婚約者がいるんだぞ」

「でも、ススムはセルティと別れたら再婚するって約束したんだろう?」
「いいや、約束してないよ。ただ、何も言えなかっただけなんだ」
「残念だけど、彼女はそれを信じてるぞ。ボスも驚いてた。
 まだ結婚してない娘に、将来の再婚相手が決まってるって聞いて…」

「マズいな…」

「それに帰国する前日の夜に、彼女の裸をほめたんだって?」
「えっ、彼女、それをお前に話したのか?」
「でも、セックスしたわけじゃないんだ。彼女が…」

「大丈夫、分かってるよ。彼女もそう言ってた。夜、自分から全裸に
なって『私、そんなに魅力がないのかしら』って抗議したんだって?」

「まあ…、そうなんだ」

「おまえ、『それだけの胸があれば、何も着ない方がずっと美しい』
って彼女に言ったんだってな。彼女、それで喜んじゃったみたいだぞ」

「それもボスに言ったのか?」
「さあ、そっちの方は知らない」

「とにかく早く結婚してもらって、子供たくさん産んで、再婚なんて
夢にも考えられないくらい、幸せになってもらうしかないな」


ススムはため息をつきながら美奈子への返信を書いた。
デモに関する記述には以下の3つを要点としながら、
できるだけ情緒的な表現を避けた。


@海外メディアでは官邸前のデモをすでに15万人であると報道している。

A野田佳彦首相が日本時間の6月29日夜、首相官邸を出て徒歩で公邸
に移動する途中、デモ隊の掛け声や鳴り物の音を耳にして「大きな音
だね」と傍らの警護官に語った。

Bすでに運転許可が出て再稼働の作業が始まっているため、これを止
めるには電気事業法にもとづく技術改善命令が必要で、デモは役に立
たない。


でも、あのおとなしい日本人にも自らの意志があり、いざとなれば
決意して行動を起こすことができるのだと世界が認識しはじめたと…


日本時間で6月30日の深夜、岡島と美奈子はほとんど同じ時刻に、
ドバイのススムとチャット・モードに入った。


ススム:「やあ、日本は無事かい?」
岡島:「えっ? 大丈夫。首相官邸に火炎瓶なんか投げ込まれてないよ」
ススム:「違うよ、福島原発4号機燃料のプールの冷却装置停止だよ」
美奈子:「私、それ知らない」

ススム:「日本時間で今日の午前6時25分から停止してたはずだよ」
岡島:「本当だ。ニュースサイトを検索したらあった」
ススム:「予備の冷却装置も起動できないらしいんだ」
美奈子:「冷却停止からどのくらいの時間が大丈夫なの?」
ススム:「どうだろう? 30時間くらいもつのかな?」

美奈子:「テレビとかのニュースは報道してなかった気がする」
岡島:「保安規定上の管理温度の上限の65度に達するまで約60時間とあるな」
美奈子:「デモどころか、どこかに早く避難した方がよかったの?」
ススム:「4号機だと逃げ場がないよ。北半球全体が危なくなるから…」

美奈子:「グスン…、ススムさんと再婚できない」
ススム:「その前にまず婚約者と結婚でしょ」
岡島:「僕も素子さんと結婚して子供の顔見たかったな…」
ススム:「だから、まだダメって決まったわけじゃないんだから」

美奈子:「そうですよね、何とかなりますよ、絶対」
岡島:「週明けに電源復旧と言うニュースが流れるといいな」
美奈子:「やっぱり、ススムさん…。先に再婚しません?」
ススム:「いや、だからね…」



その後、三人のチャットは延々と続いた。




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