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作品名:本当かどうかは別として 作者:Sharula

第19回   財産税導入への布石
ススムはニュースで報道されたファーストサーバ(ヤフーの子会社)で
起きたデータ消失事故に関し、利用していた5698件の顧客の中に官公
庁も多く含まれていたことを知っていた。


また、一部の市場関係者が本番となるサイバーテロが近々来るのでは
と心配していることも伝え、あくまで今回のは予行演習で、全世界の
ネットがある日突然シャットダウンする可能性があることを話した。


自作自演のサイバー攻撃によって世界の負債をチャラにしようなど
と考える者が現れてもおかしくはない。電子的な記録媒体を失えば、
どのくらいの借金があったのかも把握できない

…今はそんな時代だ。


「でも、ススム。そんなことしたら資産も消えるだろう」

「だから、先に現物をおさえていおくのさ。電気のコンセントを抜い
たら消えるような財産は全部無価値になるからね。ゴールドや宝石も
いいけど、絵画とか骨董品もいいね。株や保険、銀行預金なんかも現
金に換えて手元に置いておいた方がいいかも知れない」

「でも、各国の官僚が手を貸さなきゃ、そんなことでき・な・い…」

「岡島、おまえ、なかなかいい勘してるよ」
「やはり、財務省か…」
「噂だよ。でも、市場関係者がそう思うんだから確度は高いかもな」


政治や経済などほとんど関心のなかった美奈子だが、映画のワン・
シーンの中に自分がいるな気がして目をランランとさせはじめた。


「噂といえば、財務省が水面下で進めてるっていう財産税への布石か?」

「いくら何でも一気に20%もの資産に税金かけるっていうのは、やり
すぎなんじゃないかな。すでに財務省は海外の日本人口座も全部把握
してるらしい。いつだったか外務省の職員といってドバイに来てたヤツら、
あいつら間違いなく国税庁の職員だよ」

「懲役刑なり、罰金が科せられたりするのか?」

「ああっ、覚悟した方がいい。海外の銀行の窓口でお金を預けた瞬間、
国税庁に知られる仕組みらしいから、今後呼び出しをくらうだろう。
それにヘタをすれば預けた国にそのままお金は没収される」


「ああっと悪い。今、担当者から電話が入ったらしい。えっ? 
 復旧した? 何? 別の会社のデータが出てきた? 何だそれ…」

「岡島、やっぱりムリそうだな、完全な復旧は…。じゃあ、切るよ」
「おう! ススム、情報、ありがとう」


チャットを終えたススムの背中に、
美奈子はなおも自分のバストをくっつけていた。


「ススムさん、ごめんね。こうしていると私、幸せなの…」
「セルティもそのバスローブを着て、君と同じことを言ってた」
「ススムさん、まるで頭の中にセルティさんか住んでるみたい…」

「そうかもね…。ときどき判断に困ると彼女を思い浮かべるんだ。
『彼女ならどう考えるだろう?』って、するとアイデアがひらめく」

「そうなの…、私なんてまるで二人の間に入り込む隙がないわ」
「ごめんね」
「でも、一回くらい私に愛の思い出ちょうだい」
「セックス?」
「そう! ねえ、いいでしょう。一回くらい愛し合っても…」

「やっぱり、僕はやめとくよ」
「何で? 私も絶対黙ってるし、セルティさんにも分からないわよ」

「僕は『女の直感』を信じてる。もし一回でも君と愛の関係を結んで
セルティが気づかないはずがない。僕の身体から発する固有振動数が
変わってしまうから、彼女と気を合わせたくても合わなくなる」

「そう、残念。きょうは妊娠するのには、いい日だったんだけどなあ」
「えっ?」
「あはっ、冗談よ、冗談」


でも、実際には美奈子の言葉は冗談ではなかった。
彼女は本気で“できちゃった婚”を狙っていた。


「じゃあ、一つだけ約束して…」
「何?」
「セルティさんと別れたら私と結婚して!
 離婚でも死別でもかまわないし、年をとってからでもいいから」

「おい、本気かい?」
「ええっ、本気よ。ドバイまであなたを追いかけてきて
 最後にそんな冗談言わないわ」


ついには泣き出してしまった美奈子に、ススムは返す言葉を失った。


でも、夕方まで昼寝していた美奈子はいつもの雰囲気に戻り、一緒に
夕食を食べようとススムのところに来た。彼女は翌日帰国するので晩
餐を共にしたいという。


レストランで食事しながら、美奈子はススムに話しかける。


「明日朝に、また、あの教会へ送ってくれない?」
「プロポーズしてくれた彼氏に会うの?」
「そう、“私は相当我ままな女だけど、それでもいい?”って脅かすの」
「それはそれは…、彼氏もたいへんな女性を好きになったものだ」


二人はくったくなく笑った。





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