朝、岡島がベッドの上で目を覚ましたとき、裸の素子と自分が寝てい たことに気づく。自分が緊張したのでカクテルを飲んだところまでは 覚えているが、その後の記憶がない。
「僕は酔った勢いで、彼女と一線を越えてしまったのだろうか?」
それならそれで仕方ないことだと思ったが、改めて彼女の裸身をみる と、やや小ぶりな乳房ながら均整がとれた美しい身体だった。いい においがして柔らかな触り心地がする。
毛布で隠れた下の方に関心を持ち、少し覗いてみようと毛布を持ち上 げようとしたら、毛布が上に舞って岡島の頭にかぶさってきた。
「エッチ、今私のあそこをのぞこうとしたでしょう!」 「あっ、素子さん、ごめん。つい見たくなって…」 「うふふふ、まあいいわ。もう私、自分のバストまで見せちゃったんだし」
「それにしても素子さんの身体、きれいだね。感動して声もでない」 「ありがとう。でも、私のバストちっちゃいでしょう。いつも悩んでて…」 「いや、そんなことないですよ、僕はそのくらいの方が好きです。 男が皆な巨乳好きなんて思わないでください。たぶん、ススム でも同じことを言うと思います」
素子はちょっと俯き加減になって、もう一度岡島を見つめなおした。
「ありがとう、敬一郎さん。ただの慰めの言葉とは思わないでおきます」 「ええ、私こそ芸術品のような“素子さん”を見せていただけて感謝してます」 「“芸術品”ですか…。そんなに褒められると困っちゃいますよ。でも、 本当は恥ずかしいんですよ。ちっちゃな胸をジロジロ見られるのって」
ここで素子はひらめく。
「そうだ、思いついた」 「なんです?」 「次のレッスン」 「レッスン?」
「そう、私の唇以外のところも、ていねいにキスするの。 耳たぶやうなじ、そう首筋から腕や手、それにここも…」
「い、いいんですか?」
「ええっ、ただし、私の反応を確かめながらしてくださいね。 気持ちよければ気持ちいいといいますし、イヤなやり方なら イヤだと言いますから」
「分かりました。一方通行じゃなくなく、お互いの気持ちや感じ方を 理解しながら、愛し合うってわけですね。うれしいです」
「じゃあ、さっそくはじめましょうか」 「はい、先生」
☆
午後、ホテルのラウンジを歩くススムに、エミリー・M・マイヤーから 電話が入った。彼女も仕事でドバイに来ている。夕食を共にしないか との誘いだった。
有名なドイツの作曲家と同じ名前なので、よく音楽関係者と間違われ ると笑う女性だった。ススムは先約があったので夕食は断ったが、 電話でさまざまな情報を交換することができてよかったと思う。
ところで、エミリーは日本の国債について彼に尋ねた。日本のマスコ ミや新聞は盛んに日本国債は暴落すると国民にアナウンスしているが、 本当なのか?と…
ススムの答えはシンプルだった。
「すぐに暴落するような国債に、世界中の資金が逃げ込むハズがない」
実際、今年3月の年度末時点で、海外投資家の国債保有高は国債残高 全体の8.3%を占め、過去最高を記録している。政府が増税をゴリ押 ししたいがために日本国債が危ないとウソをついて騒いでいるだけだ と彼は伝えた。
もちろん、現時点では世界でもっとも安全な日本国債ではあるが、バ ブルであることには変わらないため、いずれ弾ける運命にある。引き 金をひくのは、おそらく中国だろうと…
ただし、次にお金が逃避できる先が見つかるまでは、かつてない勢い で外国人投資家が日本の国債市場に押し寄せてくるのは避けられない だろうとも付け加えた。
エミリーはプライベートな面でも、ススムに関心を持ちつつあった。
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