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作品名:本当かどうかは別として 作者:Sharula

第116回   2〜3分の時間旅行
ワルキューレとヴァレリーが先頭に立って、境内を進むと途
中の階段で、一人の女性がにこやかな顔で彼らを待っていた。


ワルキューレが来日する連絡を受け、出雲大社の遺構を案内
するよう日本政府が内々に呼んで準備していた女性、山本真
奈美だった。


ヴァレリーがワルキューレに問いかける。



「ワルキューレさま、出雲大社の遺構ですか?」


「ええ、そうよ。以前、出雲大社は拝殿準備室を地下に造ろ
うとしたの。それは拝殿に昇る前に、神主たちが衣服を整え
たり、いろいろな準備をするための部屋だったんだけど、
その工事中にとんでもないモノがたくさん見つかってね。工事
は断念されたんだけど、私の目的はそこにあるの。発掘場所
はどこかしら? 山本さん?」


「はい、発掘場所は八足門前、拝殿裏のところで、発掘区の
西側にあたります。どうぞ、ご案内しますので…、えっ? 
どうかなさいましたか? ワルキューレさま」


「ああ、いえ…。大丈夫、気にしないで…。ちょっと眩暈が
しちゃっただけ。それにしても拝殿の周りが光でつつまれて
いるのは、なぜかしら?」


「あの…、光ですか? 私には、いつもの拝殿と同じように
しか見えませんが、ワルキューレさまには、そう見えるので
すか?」


「ええっ、特に拝殿の後ろに立つ3本の光の柱は、天にまで
通じているわ。あらっ、もしかしたら私だけなのかしら? 
あの光が見えるのって…。ねえ、見えるヴァレリー?」


「私にも少し見えます。そんなにハッキリではありませんが、
たしかに拝殿の周りにおぼろげながら、光の膜があるように
見えますね」



その場にいる3人の男たちには、まったく見えなかった。


ワルキューレは、女性たちだけで、その先に進むと宣言して、
男たちは境内で待たされることとなる。ただ、その3人の男
たちにしても、ワルキューレが拝殿に近づくつれて、彼女の
身体が強い光を放つように見える。


セキュリティーの男たちがふとつぶやく。



「気のせいかな。ワルキューレさまの白い服が光で透けてみ
えるんですけど…。何か裸で歩いてるみたいに見えません?」


「ああ、オレにもそう見える。やっぱり、いい女だよね」


「ねえ、君たち、ワルキューレさまの警備してて、ときどき
性欲を我慢できなくなるときってないの? あれだけいい女
で、平気でヌードになったり、すごい露出の状態になったり」


「デヴさん、そりゃあ、オレたちも男だから、そういう誘惑
にかられることもあるけど…。まあ、オレの場合は、ほかの
女で十分に性欲を満たしているから大丈夫だよ。今晩泊まる
京都のホテルのまわりには、風俗街がわんさかあるって聞い
てるしさ。今から夜が楽しみだよ。でも、おまえさんは…」


もう一人のセキュリティーの男は返事をためらいながら、
デヴの質問に答える。


「ううん、オレはね…。勃たないんだよ。医者には勃起障害
とか勃起不全って言われてる。彼女ができても、それが原因
でその後がうまく行かない。それに…」


「それに?」


「ちょっとサイズが…。まあ、はっきり言って、オレのペニス
が小さすぎてさ。コンプレックスなんだよ。オレの父親も
爺さんも、兄弟の男たちもも皆デカいんだけど、なぜオレ
だけ小さいのか…」


「そうか、そっちの悩みか。分かった。今晩、京都で泊まり
だから、だまされたと思って、僕のアイデアに乗ってみないか?
たしか日本にすごくいい薬があるんだよ」


「それって、バイアグラか?」


「いや、ふつうの漢方薬で自然のエキスばかり使ってて、
たぶん、日本のちょっとした薬局なら、どこでも売ってると
思う商品だよ。媚薬の研究をしてる際に偶然見つけたんだけど、
安いし、バイアグラより効き目があるかも知れないな」


「でも、オレってフルで勃起しても、たいした大きさにもな
らないから、女を悦ばせるのってムリなんじゃないかな?」


「大丈夫だよ、そっちの方もいくらだって、やり方はあるのさ。
セックスは下半身だけでやるもんじゃないよ。要は頭の使い方
次第だよ」


「デヴさん、オレ、期待していいのかな?」



デヴは自信なげに笑うセキュリティーの男に、右手の親指を
立てながら、大丈夫だよ、というアイコンタクトを投げかけた。



一方、柱跡の発掘現場に立ったワルキューレの姿に、案内役
の山本真奈美は驚きを隠せない。光につつまれた人間が、
自分のすぐ傍に立っているのだから…。


そのワルキューレが口を開く。



「久しぶりに興奮するわね。まさか、極東のこんなところに
彼らがやってきたのだとは思わなかったわ。ねえ、山本さん、
ここはかなりの人が調査に来たのかしら?」


「はい、記憶では神道史・歴史学・考古学・建築史学・地質
学などの専門家や研究者の方がおみえになったはずです。
ただ、どなたもこんな奇抜な、というか常識外の作事構造など
見たことがないと驚かれていらっしゃいましたけど」


「そうでしょうね、地球の科学では、これが何のために作ら
れ、何のために役立つのかなんて、想像もつかないと思うわ。
エジプトのピラミッドさえ、いまだに解明できてないくらい
だから…」


「地球の科学では…ですか?」


「あら、ごめんなさいね。突飛な言い方して。でも、気にし
ないで、いずれ分かるときが来るわ。それより、ちょっと二人
にお願いしたいんだけど、3人で手をつないでほしいの。
大丈夫、ほんの2〜3分間祈るだけだから」



ワルキューレがそういうと、ヴァレリーと山本真奈美は彼女
と手を結び、3人が両手を結んで輪をつくるカタチとなった。


ワルキューレの祈祷は、英語でも日本語でもない。どこの国
の言語なのか、山本真奈美にはまったく分からなかった。
でも、どこかで聞いたような懐かしい響きを感じるのが不思議だ。


彼女が目を閉じると、目の前に真っ暗な宇宙にほのかな星の
光が見える。どこの星なのか、小さな点が、急速に近づいて
くる。いや、正確には自分がその星に近づいているのだった。


その星の名前は分からないが、太陽系の中にある惑星の一つ
であることはたしかだと感じた。超古代文明が築いた建築物
がみえる。でも、この建築様式はどこかで見たことがある。


山本真奈美がそう思ったとき、ワルキューレの祈りは終わった。



「時間旅行に付き合ってくれてありがとう。さっき見たのは
何となくヨーロッパのゴシック建築に似てるような気がない?」



ワルキューレはそう言った後、笑いながらその場を去る。
ヴァレリーは彼女のあとに続いた。山本真奈美は、時間旅行
というより、長い長い宇宙旅行をしてきた気がしていた。


実際には2〜3分という
短い時間しか経っていなかったにしても。



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