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作品名:本当かどうかは別として 作者:Sharula

第115回   出雲大社にて
ワルキューレとセキュリティの男たちは、出雲大社の鳥居を
くぐり、その特異な光景を見渡しながら驚嘆の声をあげる。


噂には聞いていたが、極東の細長い島国に、ここまでイスラ
エルを想起させる場所があるとは思わなかったのだ。


『失われた十部族』の一部が、この地までたどり着いたのは
間違いない。そう思わざるを得ない光景が出雲大社にある。


ワルキューレは境内の中央と思われる場所で、静かに目を閉
じ、両手を合わせて小さく何をつぶやく。


おそらく、祈りの言葉だ。


少し遅れてきたヴァレリーはそう思う。おそらく彼女の遺伝
子が霊妙な空気の中にただよう“何か”に反応したのだろう。


次の瞬間、曇った空に細い隙間ができる。


太陽の光が地を這う生き物のように、まっすぐワルキューレ
に向かって延びていく。そして次の瞬間、その光は祈りをさ
さげる一人の女性をとらえ、神々しい光を反射させた。


傍で見ている者たちには、人知を超えた世界にいるような空
間が突然現れたように思えた。それから数秒後、女性の祈り
が終わると、光の道は再び雲にさえぎられて消えてしまった。



「ヴァレリー! すぐにオランダ空軍に連絡して! ハーグ
で開催される核サミットに、貨物機を装った飛行機が襲うわ。
例の南シナ海で失踪した旅客機よ」



ワルキューレは、突然何の説明も前置きもなく、ヴァレリー
に大声で叫ぶと、指示を受けたヴァレリーは、ヴァレリーで、
何のためらいもなく、ハンドバッグから携帯電話を取り出し、
オランダ政府当局に電話をかける。


セキュリティの男たちもデヴも呆気にとられるが、瞬く間に
事は進行していく。ワルキューレは目を閉じ、大きく深呼吸
をすると、本殿に進んでいく。


ヴァレリーは小走りで彼女のそばに近づき話しかける。



「先ほどの光から、他にも何かメッセージがありましたか?」


「ええ…、この出雲大社と、伊勢神宮は、すでに天ではつな
がっているから、あとは地でつながる必要があるらしいわ。
近々、この2つの社を代表する男女が結婚して、子供を産む
ことになるでしょうね」


「それでは、あの光は、伊勢神宮から来たのですか?」


「そうだと思うわ。伊勢神宮を護る祈祷師が差し向けた光よ。
おそらく、かなり高齢の女性ね。彼女はものすごい霊力の持
ち主よ。この日本という国には強力な結界がはられているけ
れど、その中心が彼女だわ」



ヴァレリーはワルキューレの感性を信じていた。ときどき突
拍子もないことを口にするが、最終的には、それが一番正し
かったことを、彼女は経験してきた。



「ワルキューレさま、あれが本殿ですか?」


「ええ、これから私たちはこの神社の子宮に入るのよ」


「子宮ですか?」


「うふふ、さっきのあの赤い鳥居は、女性の膣口をあらわす
の。それで産道は、膣道よ、そしてその先にあるのは…」


「あっ、わかりました」


「この出雲大社と伊勢神宮が、天と地でつながることには、
歴史的に深い意味があるんじゃないかしら。また、そのこと
で、世界に真の意味での平和がもたらされるとしたら素晴ら
しいことだわ」


「では、ワルキューレさまはそのために日本へ」


「そうね、そうなるわね。出雲大社と伊勢神宮もそうだけど、
失われたイスラエル12部族の歴史も、一つの区切りを迎え
なければならないのかも知れないわね」


「イスラエルの12部族ですか…」


「そうだ、ヴァレリー。セルティ・セジョスティアンに連絡
を取って! あなたが彼女のデータを持っているんでしょう
それで彼女が妊娠しているかどうか確かめて。もし、妊娠し
てたら、次は、私が彼女のボーイフレンドの精子で妊娠しな
いといけないから」


「えッ? ええっ?」



さすがのヴァレリーも耳を疑い、戸惑った。



「だいじょうぶ、きっと彼女にも伊勢神宮からのメッセージ
が届いているはずよ。それに彼女のボーイフレンドにも…」


「そ、そうですか…」


「ええっ、イエス・キリストのお母さん、つまり、聖母マリ
アと、彼女のお姉さんのエリサベツが失敗したことを、失敗
しなかったことにしなおさないと、イスラエルが本当の意味
での新しい出発なんかできないと思うの」


「ちょっと意味は分かりませんが、とにかく。2人の女が同
じ男の種で身ごもらないといけないってことでしょうか?」


「そうよ、エリサベツの夫の子種で、彼女と聖母マリアが妊
娠したんだから、その歴史をいったん再現させないといけな
いよ。でも、問題はそのあとよ。その二人の女同士が調和で
きたら、いい方向に歴史がひっくり返るけど、失敗したら、
それこそ大変になってしまうわ」



ヴァレリーは黙って処分しようと思っていたセルティのデー
タを、タブレット画面に表示し、携帯電話で彼女に連絡を取
りはじめた。



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