ヴァレリーは、明後日、韓国の首都ソウルで行われる囲碁の 団体戦について、デヴにお願いして調べてもらっていた。
参加するのは日本、中国、韓国の三カ国で、下馬評では、韓国 の大将をつとめる青年が最も強いとの噂だった。だが、先ほど ワルキューレとネット上で対戦した日本のプロ棋士は、前回大 会で韓国との大将戦で、彼に惜敗している。
一週間前、韓国ではネット上に韓国の大将を つとめる青年のインタビューが掲載された。
「そりゃあ、少女を助けようとして事故に遭った勇気はたたえ るよ。だけど、ヤツの怪我はもう治っているんじゃないのか? きっと、オレと対戦するのが恐くて、おじけづいて韓国に 来れないんじゃないかな?」
…と挑発している。この発言については、普段、礼を失すること が少ない青年だけに、心から日本のプロ棋士との再戦を楽しみ にしていたのではないか、と見る向きも少なくない。
ヴァレリーは、何とか、この二人の再戦を、ワルキューレに 見せてあげられないだろうかと、一計を案じた。
彼女は元助手だったエマに電話をする。
エマとはヌーシャデル湖のコテージで会ったのが最後だが、 今頃は、また、婚約者となったベルホルトと愛し合っている かも知れない…なかなか電話に出ないエマに対して、 ヴァレリーの脳裏にはさまざまな想像が浮かんでくる。
そんなヴァレリーが、もうダメかとあきらめかけた頃、エマが 電話に出た。呼吸が少し乱れている。走ってきたのか、あるいは 婚約者といいところだったのか?
現実は後者だった。
ヴァレリーは軽く謝ると、ワルキューレさまのために協力して ほしいと話し、指示事項を3つ告げて電話を切ろうとした。 その直前、エマの婚約者であるベルホルトが、伝えたいことが あると、その電話を替わった。
エマはハダカのまま別の部屋に行き、コンピューターを立ち上 げ、そのデータを見ながら、矢継ぎ早に電話をかけていく。彼 女は用事が終わったら、そのままベッドにベルホルトを連れ込 むつもりだ。
「ウフフ、ベルホルト…。どう、エマとは、うまく行ってる?」
「ええ、おかげさまで…。でも、愛し合うのはいいけど、あま りに精力的なんで驚いてますよ。学生の頃、ドイツとロシアの 女性とつき合った時期があって、二人とも一日最低5回は要求 してきてたんです。でも、エマはその二人をいっぺんに相手し てるような感じで、年齢がいったら、ちょっと恐いな」
「あらッ、よかったじゃない。彼女のおかげで、あなたの浮気の 虫も当分、息の根をひそめるじゃないの。もっと、たっぷり精を 吸い取ってもらうといいわ。それで何なの伝えたいことって?」
「実は、ヘンドリックスさまに、君から連絡してほしいんだ」
「えッ? Jさまの甥の方から? たしかまだ18歳か19歳 くらいの若さで、米国の広告代理店のオーナーも務めていらっ しゃる方ですよね。3〜4年前に会いましたわ」
「そうです。何でもヘンドリックスさまがおっしゃるには、 自分の童貞を奪ったは、あなただという話でしたが、ちょっと 教えてほしいことがあるそうです。私がいつかあなたに会ったら 連絡してほしいと、おっしゃってたのを思い出したんです。 えっと、連絡先は…」
「ああっ、だいじょうぶ。私、分かるから。ありがとう」
ヴァレリーは再び電話を切ろうとしたが、その直前に、エマが ベルホルトから電話を受け取り、依頼された内容を報告する。
日本、中国、韓国の三カ国による囲碁の大会を主催しているの は、日本のある中堅クラスの通信社で、彼らは中国や韓国での 市場をターゲットにしていること。
次に、ワルキューレと日本のプロ棋士が対局したネットの運営 会社は、ほかのゲームも含め、広告収入が減りつづけており、 経営面で苦境に立たされていること。
また、双方の会社の資金状況と経営状態をみる限り、およそ魅 力的な収益を挙げるのは困難との見方が強く、株式を買い占め るよりも、まずは広告収入をエサに接近し、一時的な取引にし た方がよいのではないかとの分析を伝えた。なお、姪のワルキ ューレが喜ぶことなら、両方の会社をいっぺんに買ってしまえば いいと、Jが答えたという。
「えっ! Jさまが……。わざわざ連絡取ってくれたのね。 ありがとう、エマ。さすがに仕事が早いわね。詳しいデータも タブレットで、今、見てるわ」
「それじゃあ、私、電話、これで切りますね。さっき、ベルホ ルトと今日5回目の絶頂に向かう途中で中断したんので、もう 一度最初から頑張るつもりです。あっ…、あと、ヘンドリック スさまからの要件ですが、クリトリスへの愛撫の仕方を詳しく 教えて欲しいとか言ってましたので、よろしくお願いします」
「…ク、クリトリスへの愛撫の仕方?」
ヴァレリーのうわずった電話の声に、飛行機内の一同は、少し 驚く。彼女がビジネスの話をしている途中で、突然生々しい 言葉を発したのだから、それは当然だが、彼女はいったい何の 電話をしているのだろうかと興味をそそった。
それに気づいたヴァレリーは、両手をひろげながら笑って誤魔 化すも、ちょっと気乗りしない気分で、機内からヘンドリック スに電話をかけた。
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