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作品名:本当かどうかは別として 作者:Sharula

第109回   フレンチ・キス
その日の午後、ヴァレリーとデヴは、Jの姪であるワルキューレ
とプライベート・ジェットに乗って日本に向かっていた。


午前中、乗馬を楽しんだワルキューレは、旅客用ヘリコプター
で軍施設に待つヴァレリーとデヴを拾い、彼女の父が所有する
プライベート・ジェットに乗り換えた。


ヴァレリーが飛行機の後方席をみると、セキュリティと思われる
大柄な2人の男が席に座り、コーヒーを片手にサンドイッチに
舌鼓を打っている。


ヴァレリーは軍の施設までデヴの車を追跡していたのが
彼らだと、出会ってすぐに分かった。


彼らはJの命令を受けて、ヴァレリーとデヴを護っていたのだ。
実際、彼らは2人を狙うスナイパーを一人確保していた。


一方、ワルキューレ嬢は、インターネットの画面を見ながら、
衛星回線でつながる電話で、あちらこちらに問い合わせをかけ
ている。どうやら伊勢神宮と出雲大社がそろって遷宮すること
に関する詳細な情報を手に入れたいようだ。



「ワルキューレさま、日本の文化に
 ずいぶんとご関心があられるのですね。」


「ああっ、ごめんなさい。ちょっと夢中になっちゃってて…。
でも、すごいのよ。この日本という国は。私が今まで抱いてき
た人類の歴史認識なんて、完全にひっくり返されたわ」



ワルキューレを見つめるヴァレリーとデヴは、彼女の言わんと
する具体的な内容は分からなかった。でも、彼女の目を輝かせ
て話す姿をみると、何かすごい発見であることは理解できた。


ヴァレリーは彼女が手にするメモに興味を持った。



「ワルキューレさま、その記号のようなモノは何ですか?」


「これ? ああ…。これは『ひらがな』と『カタカナ』ってい
うの。日本語よ。私も最初なんだろうって思ったんだけど、こ
れがスゴイの。あと、これがね…その元になってる超古代文字
のリストで、そちらのファイルにあるのが、ボリビアで発見さ
れた古代文字と、アルファベットの元になった字のリストよ」



デヴが、少し離れた座席にある、分厚いファイルに気づくと、
ワルキューレは本当に、嬉しそうな顔で微笑む。



「あっ、それはね、紀元前3世紀前ごろに南インドにあった
 グラフィティという古代文字なの…」



ヴァレリーとデヴは、その分厚いファイルをめくりながら、
奇妙な感覚に襲われた。世界に点在する古代文字が何となく
『ひらがな』と『カタカナ』の一部と似ている気がしたのだ。


ワルキューレは文字、あるいは言葉の起源自体が、『ひらがな』
と『カタカナ』ではないかと、二人に告げると、おもむろに服
を脱ぎ出した。


「あっ、ごめんなさい。ちょっと申し訳ないんですけど、私、
ここで裸になりたいの。こうした古代文字を見てると、不思議
に身体が燃えるように熱くなって…。私はお二人に裸を見られ
ても気にならないけど…。お二人はお気になさるかしら?」



ヴァレリーは、自分たち夫婦は、これから二人だけの愛の時間
をもつので、こちらこそ、まったく気にしないでほしいと言葉
を返す。


ワルキューレは、これは訊いた相手が悪かったと苦笑しながら、
両手をひろげ、すべての衣服を脱いで、ふたたびコンピューター
の画面に向かう。


すると、後部席にいたセキュリティーの男の中の一人が、慣れ
た手つきで彼女の着ていた服を丁寧にたたみ、日本製の竹で
できた網カゴに置くと、ふたたび後部席に戻っていく。


デヴが、ワルキューレの美しい裸体に見とれていると、それを
察したヴァレリーは、ニコッと笑って、片手で彼のパンツの上
から彼自身をさすり、驚いて横を向いた彼の唇に、自らの唇を
合わせる。


それは小鳥がくちばしをあわせるような、唇をすぼめて突き出し、
軽く触れあわせるキスの仕方で、一般的には“バードキス”
と呼ばれる。


恋人同士が別れ際や、より深いキスをするために
交わす、もっとも軽いキスだ。


それを少し繰り返しながら、デヴの唇が半開きになったところで、
ヴァレリーは彼の唇を舐め、舌を侵入させていく。そして
さらに彼の下側の歯ぐきや上あごの裏を舐める。


デヴが、キス一つでこんな快感を得られることに驚くと、その
反応を確認したヴァレリーは、さらに舌を深く入れて、彼の舌
の下側を左右に動かしはじめる。


彼女は、まんべんなく愛撫するように彼の舌を舐めつづけ、
それを十分楽しむと、次に彼の舌を自分の口の中へやさしく
誘導していく。デヴは生まれてはじめて経験するフレンチ・
キスに陶酔するような快感を覚えた。



「すばらしい! それこそ愛し合う者同士に許されるキスだわ」



ヴァレリーとデヴは、いつの間にか自分たちを見ている
ワルキューレの声に照れた。



「ワルキューレさま…。おほめいただいて光栄です。今のは
フレンチ・キスですが、舌と舌とを絡ませるキスの仕方で、
私がもう一つ好きなのは、マライヒン式というのがあるんです。
二人がお互いに大きく口を開いて、できるかぎり相手の口の奥
深くに舌を挿入し合いながら、口の中をかきまわすやり方です」



ヴァレリーはデヴに合図を送ると、ワルキューレに見えるように、
二人でマライヒン式のキスを実演してみせる。それはまるで、
性に関する実技教育を施しているかのようだ。


ヴァレリーはJからの電話を受けた時点で、彼が彼女に真に伝
えたかった意図を理解していた。この期間、ワルキューレに
“女”としての教育をほどこせ、ということだと…。


また、そのためには、たとえ最愛のデヴでさえ、ワルキューレ
に差し出す覚悟をしろと、Jは彼女に言いたかったのに違いない。
ヴァレリーは、それこそが自分たちが生き残れる唯一の道だと
本能的に察知していた。



「ねえ、ヴァレリー。セックスはテクニックが重要なの?」


「いいえ、まちがいなくメンタルこそが重要です。その証拠に
ビジネスであれ、プライベートであれ、日常の人間関係でぶつ
かるような男は、生身の女をイカせることができませんから…」



ワルキューレは、ヴァレリーの真剣な言葉に、ハッとさせられた。
人間の性は、学校の勉強やインターネットの情報で学べる類の
ものではないのかも知れない。それなら、この機会にいろいろ
教えてもらおう…彼女は本気でそう思いはじめていた。



「そういえば、ワルキューレさま。そちらのコンピューター
 の画面に点滅が見えますが? 何かなさっていたのでは?」


「あっ、いけない。忘れてたわ。
 インターネットで囲碁の対戦をしている最中だったのよ」


「相手はススムですか?」


「いいえ、今回は違うんですの、デイビッドさん。昨晩初めて
対戦したんですけど、チャットの情報では、その方は日本のプ
ロ棋士らしいんです。なんでも大きな大会の前に、女の子を助
けるために交通事故に遭ったらしく、今は足を折って入院して
いるそうです。しばらく動けないので、いつでも対戦できます」


「それで今日が、その人との2回目の対戦ですか?」


「はい、最初は英語でチャットを申し込んだのですが、返信が
なくて、二回目にようやく返事をいただいたんです。ネットで
碁を打つ方自身は十代の男性ですが、チャットの文章を書かれ
たのは、その人のガールフレンドのようです。でも、ものすご
く強い方ですよ、この棋士の男性…、まったく予想してない手
を次々繰り出してくるんです」



デヴは、モニターを見ながら唖然とする。




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