朝、ヴァレリーはデヴの胸に抱かれながら目を覚ました。
女としては、セックスで至福のときをすごすのも幸せだけれど、 こんなふうに肌と肌を合わせるだけで生まれる安堵感は、もし かしたら、セックス以上の幸福感かも知れない、彼女はそう 感じていた。
“ほとんどの男たちには、女がこんなことで幸福を感じるなんて 理解できないかもしれないけど。でも、あなたは、ちがうわ…”
デヴは、セックスが終わってすぐに寝てしまうような男とは違い、 彼女に優しい言葉をかけたり、手を握ったり、体を抱き締めるなど、 ていねいな後戯を施してくれる男だ。
シャワーを一緒に浴びながら、お互いの身体を清め合い、相手に 感謝の気持ちを示す言葉と、愛情のこもったキスをしてくれる…
彼女は今、彼に愛された心地よさを思い出しながら、 つくづく自分はこの男から愛されているのだと感じていた。
ペニスの大きさなんて、そんなに気にしなくていいのにね。
そう思いながら、小さくなっているデヴの下半身のそれに手を 伸ばして、人差し指で軽く上からなぞると、少しピクピクする。 その反応がおかしくて、いつまでも続けたくなる。
私って、なぜこんなに彼のことが好きなんだろう?
以前も、そんなことを思ったことがある。でも、その答えは 自分でも分かっているのに、無理にその答えを導き出すのは、 悲しい思い出が頭をもたげるようで恐かった。
それは大好きだった父の体型や面影が、彼と重なって 見えていたからだと、自分でも分かっていた。
彼女の父は、彼女が5歳のときに、母と共に射殺された。おそ らく外交官として働いていたために、何かの機密情報に触れて しまい、口封じに深夜、自宅で殺されたのだろう。
彼女が引き取られた先の親戚の夫婦が、深夜にそんなヒソヒソ 話をいたのを、寝付けないでいた彼女は、寝たフリをしながら 聞いていた。
事件当夜、彼女は両親を驚かそうとクローゼットの中で、タオ ルケットをかぶって隠れていた。それが彼女に幸いし。唯一生 き残れた。ほかに屋敷にした何人かのメイドも、お抱えの運転 手や調理人も全員殺された。
デヴの顔をみていると、ふと、写真に残る彼女の父を思い出し てしまう。今もベッドで気持ち良さそうに寝ている姿をみると、 彼女は小さな頃に見た父が、今、目の前にいるかのような気持 ちになる。
そんな思いにふけっていると、彼女の携帯電話の呼び出し音が、 どこかで鳴っているのが聞こえた。
相手が、つい最近まで彼女のボスだったJであることは分かっ ていたが、自分とデヴを暗殺しようとしている相手かも知れない …そう思うとバッグの奥で鳴りつづける携帯電話を手にすることに、 ためらう気持ちが、彼女の心に広がる。
でも、勇気を出して受話器のボタンを押すと…
「ズドラストヴィーチェ!」
Jは開口一番、ロシア語での挨拶を口にしてきた。
「お久しりぶりです。Jさま。今、ロシアですか?」
「ああ、そうじゃよ、今、モスクワにおる。ちょっと、おまえ さんに伝えておきたいことがあって電話したんじゃよ。なかな か電話に出んので、あの太っちょと朝からお楽しみだったのか と思っとったわ、うははは」
「はい、図星でしたわ。官能にうちふるえて 電話の鳴る音に気がつきませんでした」
「そうかそうか、それは何よりじゃよ。 ところで、おまえさんへの容疑が晴れてのう」
「容疑…、ですか?」
「ふん、おまえさんが知らないところで、いろいろあっての。 アメリカで核爆弾を炸裂させる計画が、思わぬ邪魔が入って ダメになったんじゃ。それで、その情報をリークしたのが、 あんたじゃないかと、組織は、にらんでたってわけじゃよ」
「そんな事があったんですか。たしか、新しく発行されるドル 札を折りたたむと、デザインの中に計画の一部が出てくるって いう話でしたよね」
「そうじゃ、ニューヨークが巨大な津波に襲われるヤツじゃっ たな。たしか10ドル札だったか…。とにかく、計画は未遂に終 わっての。陸軍の将校2人と、海軍の将校1人を処分すること になったんじゃよ」
「処分って、死刑ですか?」
「いいや、アメリカ合衆国の90%の人命を救った英雄を、死 刑にすると言ったら、せっかく眠らせた他のヤツらの愛国心まで 目覚めさせてしまうじゃろう。だから、ワシントンには『追放』 というカタチで追い出せと言うておるのよ。まあ、ワシが命じた ワケではないがな、ウォホホホホ…」
「でも、なぜワザワザ紙幣やハリウッド映画とかで、いつも予 告しちゃうんです? そんな事するから、計画がバレて、その たびに遅れるんじゃありませんか?」
「まあ、それが組織にいるヤツらの流儀なんじゃよ。予告したのに、 誰も反対せん。それは、我々の要求をのんだということじゃないか! …と勝手に思っておるのよ。おっと、このスマートフォンとやら、 すぐに充電が切れそうになる。こりゃ、ビジネスじゃ使いものに ならんなあ。悪いが話はここまでじゃ」
「いえ、Jさま、わざわざご連絡ありがとうございました」
「ああ、大切なことを思い出したわい。姪のワルキューレに、 ちょっと連絡してくれんかな。あの娘、日本に旅行したいと言 い出しての〜。放射能が危ないから止めろといってもきかんの だ。放射線量の低いところを調べて、その範囲で行かせるしか あるまいの」
「分かりました。よろしければ、私もワルキューレさまと日本に 同行いたしましょうか? もちろん、私の夫もいっしょに…」
「おおっ、そうか、そうしてもらえると助かる。 では、よろしく頼むとするか。ウッハハハハ」
Jが電話を切った後、ヴァレリーは、いつものJとは違うと思った。 彼は用心深い男で、盗聴されやすい携帯電話の類はまず使わない。 エシュロンやプリズムに引っ掛からない秘密のツールも持っている。
今の彼の会話は、世界中の諜報組織に聞かれたに違いない。いや、 むしろ彼が、あえて世界中の組織に聞かせたのかも知れない。 “ヴァレリーは無実だ。だから、おまえら、もう手を出すな”と…
でも、Jは知っていたはずだった。合衆国への核攻撃情報をリーク したのがヴァレリーだったことを…。彼女は愛する人の祖国を、 自分の祖国であると思い、死を覚悟して情報を流した。
“きっと、父も同じような生き方をして殺されたに違いない。 そして母もそんな父を愛して、共に他界したのだろう”
ヴァレリーは、そんなことを思いながら、眠っているデヴのモノを 片手で擦りつづけた。そしてそれがある程度、勃起したところで、 自らショーツを脱ぎ、左手で亀頭の先を自分の女性の中心になぞらせ 右手の指でヴァギナの扉をそっと開くと、
少しだけ、潤っている気がする。
夕べ受けた後戯の余韻を、私の身体が思い出したのかしら? …と思いながら、彼女はほほえむ。
「おはよう、デヴ。今朝一番の、 目覚めの『キス』をあげるわね」
そう、言いながら彼女は、ゆっくり腰を沈めていく。 ヴァレリーは、男のペニスにみなぎる血液の熱さを、 目をとじながら堪能していった。
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