セルティはモニター越しにみるススムの姿を見て、正直心はときめ いた。だが、以前の自分とは明らかに違うと感じる。もうs、自分は デヴと一生添い遂げようと覚悟を決めているのだと、改めて自覚する。
そのデヴは、嬉しそうにススムと チャット・モードの画面で話している。
彼女は、ふと、ある事を思い出した。
ボスだったJの執務室のドアを開けたとき、偶然耳にした電話の声。 かすかに聞こえたその言葉が、なぜか気になって仕方ない。
「ねえ、ススム。もし何か知ってることがあるなら教えてほしいの、 『ウィグル人』と『天安門』というキーワードで、何か思い当たる ことってないかしら? 唐突で申し訳ないんだけど…」
「ヴァレリー、君のこと、思い出したよ。前に会ったときも、そん なふうに急に質問してきたんじゃなかったかな…。あっ、そうそう、 『ウィグル人』と『天安門』の件だったね。思い当たることが あることはあるんだけど、あくまで僕の妄想だと思ってくれる?」
「妄想…? うふふふ、そういう前置きって、私、嫌いじゃないわ」
「そうだね…。君は2001年9月11日に起きた『世界同時多発 テロ事件』を中東のテロ組織アルカイダが仕組んだ大事件だと思う? それとも、よく言われる米国の自作自演劇だったと思う?」
「そうね、あなたの妄想に付き合うからには、後者を選ぼうかしら」
「君も賢い応え方をするね…。ところで、もし君が陰謀を企てる側 の人間だったなら、中国版の『9.11』を起こせ!と言われたら どんなアイデアが浮かぶかな?」
「中国版の『9.11』? 中国で自作自演のテロ事件を起こすの? そうね…、ちょっと難しい質問だわね。何か取っ掛かりになるよう なヒントは与えてもらえないのかしら?」
「合衆国の『9.11』での悪役はアルカイダ、それじゃあ、中国 版のテロ事件を起こす犯人としては、誰もが納得しやすいのは?」
「あっ、そうか。それなら『ウィグル人』が最適かもしれないわね。 中国が東トルキスタン(ウィグル)で行ったのは、46回を越える 原爆実験で75万人が虐殺。無差別の100万人虐殺、計画育成の 名目で850万人の胎児が虐殺、政治犯として50万人虐殺よ…。 復讐するには動機としても十分だし、国家主席の習近平も彼らを弾圧 して、最高の地位にのぼったわけだから、ストーリーとしては最適よ」
「次に、合衆国の『9.11』でターゲットになったのは世界貿易 センタービルだったけど、中国でテロ事件を起こすなら、どこを ターゲットにしたら、世界的に印象づけられるだろう?」
「それは、やっぱり天安門広場なんじゃない? 毛沢東だったかしら。 大きな写真の掲げられた建物は、一番中国をシンボライズしているわ」
「次は、日時だ。いつ実行したらいいと思う?」
「そうね。『9.11』の月と日を、入れ替えて11月9日はどう?」
「でも、それじゃあ、あからさまに自作自演テロですって感じだよ」
「そうようね…。それに中国共産党の三中全会(第18期中央委員 会第三回全体会議)は11月9日から開催する予定だから、その当 日にテロを企画するのも、いかにもって感じがするから、11月9日 説はないかなあ…」
「ヴァレリー、その調子、その調子」
「ありがとう。う〜ん、そうね…。中国の背後にいる彼らは、どうしても 『11』というて数字にこだわるから10月から11月はじめで、合計が 11になる日は…、う〜む、10月19日、10月28日の二日だけかな」
思案するヴァレリーの横から、デヴが口をはさむ。
「11月6日はどうだろう? 逆さまからみれば『9.11』だよ」
ヴァレリーとデヴのやり取りを聞きながら、ススムとセルティ は微笑む。それは彼らが推測した日付と、同じだったからだ。
「実は、セルティが夢で見てたんだよ。天安門広場に自動車が突入 して、爆破炎上するさまを…。その話を聞いて、しばらく前にディ スカッションしてて、今、君たちが推測した日を、僕らも同じよう に予想してたんだ。まあ、彼女がみた夢が現実になるかどうかは 分からないけどね」
「ススム、私は、一度、ボスと一緒に天安門広場に行った事があるの。 とてもじゃないけど車で突入するなんて無理よ。人民軍が幾重にも 警戒を巡らせてて、ネコの子一匹だって、監視からはずされないと 思うわ。たぶん、崩壊前のベルリンの壁以上の厳戒態勢よ」
「おそらく、世界のメディアはそんな警戒体制のことは知らないだろうね。 だから、最初はただの事故として処理しておいて、あとから実はテロでした という展開に持っていくんじゃないかな。わざわざ観光客がスマートフォン で撮影して、動画サイトなんかに掲載したという流れにもって行って…」
「分かったわ、中国は一日に500件の暴動が起きてて、今後さら に全土に拡大したら、共産党そのものがひっくり返るでしょうから、 漢族のガス抜きの対象としてウィグル人たちに、その矛先を向ける つもりなのね」
「たぶん。そうだろうね。反日運動だけでは、もう間に合わないく らい中国国内の不満は高まってて、直接、危害を加えてイジメやす いウィグル人たちに、方向転換せざるを得ないんだろうね。でも、 軍が完全に管理してる天安門だからこそ、自作自演テロができるっ て話でもあるよね」
「それにしても、そんな演出、中国政府の誰が考えたのかしら?」
「ヴァレリー、君の顔には、どこかの国の情報機関と広告 代理店が協力して企画してる、って書いてあるみたいだけど…」
「あ〜ら、それは気のせいじゃないかしらね。でも、ススム。あり がとう。私の頭の中、少しスッキリしたみたい。それに民間人のあ なた方がそんなに知ってるのなら、私とデヴは殺されずに済むかも 知れないわ。ただ、そんな自作自演のテロで、中国共産党は延命で きるのかしら?」
「まあ、一時的にはできると思うけど、結局は、もっと深刻な状態に なって、政府や軍にその報いが返ってくるんじゃないかな。そういえば ハワイで米軍と人民軍がなかよく軍事演習する予定らしい。敵同士の ようで、本当は味方以上の味方の関係にあるって可能性もあるよね」
「ススム、ありがとう。お礼に『3.11』の情報を…。 あっ、ごめんね。夜にちょっとした結婚式で、ウェデイングドレスを 着るんだけど、その試着をどうかって、女性たちが来てくれたみたいで…」
「うん、妄想どうしの会話も楽しかったよ。じゃあ、また」
彼らのチャット・タイムは、とりあえず終了した。
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