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作品名:本当かどうかは別として 作者:Sharula

第104回   地下室でのチャット
車を駐車場に停めて、建物に入ったデヴとヴァレリーは、
歓迎のために集まってくる若者たちと、彼らの笑顔に圧倒された。


さらに、彼ちに遅れて、所長のビョエルンも顔を見せたとき、
デヴはヴァレリーが、彼のプロポーズを受け入れてくれたと報告。


それを聞いた一同は歓声をあげ、二人に拍手を送った。


ビョエルンは所内で簡単ながら結婚式を挙げてはどうかと提案。
彼は自分の妻がウエディング・ドレスを持っているので、それを
ぜひ使ってほしいと申し出た。


ヴァレリーは、こみ上げてくる涙を抑えながら、彼の提案を受ける
ことにした。ビョエルンは牧師の資格も持ち、以前も何件か結婚式
の司式を務めたことがある。若者たちは会場づくりの準備に取り掛
かるべく大騒ぎとなった。


ところで、デヴと男性の営舎に向かおうとしたヴァレリーだが、
エントランスの中央付近に飾られた大きな油絵に目が止まる。
その絵の中央に描かれた女性には見覚えがある。



それは若かりし頃のヴァレリーだった。



「ヴァレリーさん。気がつかれました? あの絵、デイヴィットが
描いたんですよ。僕ら、毎日ここを出入りする度に、あなたの笑顔
をみているんです。何度見ても見飽きない素晴らしい絵です。そう
そう、僕らの部屋にも、彼が描いた絵があるんですよ。それもみんな
モデルはあなたなんです」



なぜ、初めて会ったはずの人たちが、自分のことをよく知っている
のか、ヴァレリーは、その答えがこれだと理解した。彼女が振り向
くと、デヴは、ちょっと恥ずかしそうな顔をしている。


彼はいつから私を見てくれていたのだろうかと彼女は思う。


あの絵の背景は、たぶんアメリカに旅した頃に見たものだ。マンハ
ッタン島から一時間ほど車で行ったあたり…。もしかしたら、
デヴの故郷はあの辺なのかしら? 


そんなことを彼女が思ってると、満面の笑顔を浮かべた若い男女の
兵士たちがいろいろ話しかけてくる。なかには写真をとらせてほし
いとお願いしてくる者や、サインを求める者まであらわれる。


それから、しばらくしてエントランスの集団から解放された二人は、
部屋に向かうのだが、なぜかデヴは地下に向かって階段を下り始める。
彼は他の人たちとは違う場所に、自分の部屋があるらしい。


地下の広いフロアの正面には、実験室と思われる部屋があり、彼は
その隣の準備室らしい部屋のドアを開けて入っていく。すでに先客
がいる。続いてヴァレリーが部屋にはいると、利発そうな男性が
コンピューターのあるデスクから席を立とうとしていた。



「ありがとうな、デイヴィット。上の階のコンピューター、全部
ふさがっててさ、助かったよ。それにしても、おまえさんのマシンは
ぶっとぶくらい早いけど、なぜなんだ? おっと、女のお連れさんかい…。
えっ? ヴァ、ヴァレリーさん? って、ホンモノかい? 
よくできているけど、実は動く彫刻とかいうんじゃないだろうな」



ヴァレリーは、その男の言い方がおかしくて笑い出してしまい、
デヴは、またはじめから説明するのも面倒だと思い、話を別の
方向に振ろうとする。



「それにしても、いったい何が起きたんだい。
 上の階がそんな騒ぎになるなんて、よほどの事だろう」


「でも、民間人のいる前では、ちょっと話せなくてな」


「大丈夫よ。私みたいな女でも、つい最近まで、そういう情報を扱
うところにも縁があったから…。もしかしたら、スペインにある空
軍基地からシリアに向けて発射された二発のトマホークが、地中海
にいるロシア艦隊に迎撃されたっていう話かしら? たぶん、GPS
が狂わされてミサイルが無力化したから大騒ぎなんでしょう?」


「えっ、ご存知だったんですか? GPSの件って本当ですか?」


「うふふ、元アメリカ合衆国大統領
 フランクリン・ルーズベルトも言ってるじゃない」



それから三人は、息を合わせて
ルーズベルトの言葉を発した。



『政治においては何事も偶然に起こることはない。もしそんなこと
があれば、それはそうなるようにすでに計算されていたと、私は
あなたに賭けてもよい』



三人は言い終わってから、顔を見わせて笑い、
男は上の階へと戻って行った。



「こんな情報を当たり前のように知ってるんだし、組織にしてみれ
ば、私みたいな女、さっさと消してしまいたいかも知れないわね。
いつの世も『知りすぎた者』は始末される運命なのかしら」


「ヴァレリーさま、いえ、ヴァレリー。実は、私、しばらく前から、
尾行されたんです。むしろ、私の方が、あなたを巻き込んでいるの
だと思います。ごめんなさい」


「へえ〜、そうなんだ。でも、結局、どっちが狙われていのか分か
らないって事かもね。意外と私たち両方が狙われているのかも…。
でも、嬉しいわ。あなたが私のこと『ヴァレリー』って呼んでくれて」



二人は微笑みながら抱き合い、うっとりと見つめ合いながらキスを
しようとした瞬間、デスクトップから短い信号音が鳴る。デヴを呼
んでいる。今日はこんな邪魔ばかり入るとヴァレリーはイラつく。



「すみません。ススムにネット碁の対戦が終わったら、メールを送
ってほしいってお願いしてたんです。でも、よりによってこのタイ
ミングに来るなんて、何って間の悪い…」


「もう、メールなんだし、放っとけばいいのよ。私、我慢できない」


「すみません。もうチャット・モードに入るボタンをクリックしちゃ
 いました。もうじき、モニターに日本側の画像が出てきちゃいます」



ヴァレリーのご機嫌を損ねてしまい、ちょっと気まずそうなデヴ。
でも、その恐縮した表情が、また可愛いと彼女は思ってしまう。



「やあ、デイヴィット。今日もネット碁で全勝だったよ。ちょっと
脳ミソが疲れちゃった。ワルキューレってハンドルネームの人が、
もう一度やろうって聞かなくて、連絡遅れてごめん。あれっ? 
お友達かい?」


「ススム、お久しぶり…。私のこと覚えているかしら? ド・バ・イ
 あらっ、そちらにいる女性は、セルティ・セジョスティアンね」



さすがのススムも、すぐには思い出せなかった。だが、
ヴァレリーの口から『ドバイ』という単語を聞いて思い出した。


セルティは初めて会って、いきなり自分の名前を呼ばれ、
しかも、ススムとただならぬ関係を持った女性かも知れない
と思い、ただちに警戒モードに入る。


一方のデヴは、嬉しそうに自分と彼女と婚約したことや、今夜仲間
が結婚式を挙げてくれることを伝える。ただ、ススムがヴァレリー
を振ってくれたお陰で、今日があると付け加えると、セルティの顔
は晴れ、ヴァレリーの顔は曇った。




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