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作品名:本当かどうかは別として 作者:Sharula

第100回   18カ月と4年間
デヴとヴァレリーがテラスから部屋に入ってくると、そこにいた
メンバー全員が、彼らに祝福の声と拍手を送った。ヴァレリーは、
いつの間にかデヴの左腕を取って寄り添っている。ただ、笑顔
なのに涙が止まらない。


女性たちがもらい泣きする姿に、ベルホルトもお膳立てした甲斐
があったと思い、デヴに“やったな!”と、目で意思を伝える。


ベルホルトは少ない人数ながら、二人の門出を祝おうと、
簡単なパーティを準備していた。


ヴァレリーは、結婚指輪も純白のドレスもないけれど、もう、
この場が結婚式のような気がしてならないといい、手にして
いた花束を、ブーケトスのように未婚女性たちに向かって
背中越しに投げた。


それを見事に受け取ったのはエマ。そしてそのエマが次に視線を
向けた先には、“次は僕たちの番だよ”と、右手の親指を立てて
合図を送るベルホルトの姿がある。


デヴはシャンパンを飲んでいる最中に、ボスからの電話を受ける。


彼に特別のボーナスとして、今日から一ヶ月間休暇を取れとの連
絡だった。当初は半年くらいと思われたものの、スケジュールの
関係で早期の復帰を願われた。また、それを聞いたヴァレリーの
喜びようといったらなかった。


最後に全員で、もう一度シャンパンで乾杯すると、治験のデータ
を持ち帰るメンバーは急いで車に向かい、残りのメンバーは彼ら
を見送り、それぞれが自分たちの部屋に向かった。



ベルホルトは、前を歩くヴァレリーに声をかける。



「ねえ。知ってる? どんなに情熱的に燃え上がる恋も、
 長く続いて18カ月で冷めるそうだよ」


「ええっ、知ってるわよ。恋愛も一種の興奮状態なんだから、
それが18カ月以上続いたら身体の方が参ってしまうって話でしょう」


「そうだよ。さすが、ヴァレリー。よく知ってるね。」


「ウフフ、ずっと昔にね、ちょっと好きだった男から聞いた受け
売りよ。燃えるような恋も自然に冷めるようにできているなんて、
最初は、なんて意地の悪い神様の悪戯じゃないかと思ったけど、
免疫の防御機能の一つなら仕方ないわよね」


「まあ、老婆心だけどさ。今の君って、デヴに夢中になって、
その『18カ月』を送る乙女みたいに見えてね、ちょっと
心配になってたんだよ」


「心配してくれてありがとう。でも、そうやって恋が冷めた頃に、
ようやく相手のことを、ちゃんと見られるようになるわけでしょう。
お互いの違うところを理解し、それを受け入れられるかどうかで
次の4年間が始まるわ」


「えっ、4年? それって何なの?」


「情熱的に燃え盛る炎で炒める料理が食べれるのは18カ月。
それからは、とろ火で煮込む料理に変わるの。でも、それを
食べれるのは4年間って話なのよ」


「ふうん、じゃあ、あとの結婚生活は惰性ってわけ?」


「まあ、率直にいえばね。だから、相手の中に、自分とは異質なものが
たくさんある男の方がいいなかって、私は思うの。年齢が行っても、
自分にないものを見つける楽しみを取っておけるじゃない」


「そうなんだ。でも、そんな事、考えたこともなかったなあ」


「若い頃は、女は誰だって、見てくれのいい男に行くわ。やっぱり
『男は外見じゃない』っていうのは、本音じゃないと思う。でも、
女を長くやってると、癒されたい気分になってくるのよ」


「癒される?」


「ええっ、そうよ。あの太っちょのデヴを見てると、何だかとっても
可愛く思わない? 真面目で誠実だけど、妙にダメなところがあって、
それを隠さないの。もう、何をやっても堪らないくらい可愛いの♪」



ヴァレリーの笑い声に、先を歩くデヴは、理由も分からず
振り向いては、満面の笑顔で、彼女に手を振って返してくる。



「そうか、僕は、あの男のダメさ加減に負けたのか…」



そう言って肩を落とすベルホルトを尻目に、早くもデヴに追いつ
いたヴァレリーは、手をつなぐと、自分たちの部屋に早く行きま
しょうと言い、彼の腕をグイグイと引っ張っていく。



「彼は、完全に奥さんの尻に敷かれるタイプだな。まあ、それも彼に
とっては幸せなのかも知れないが…。そういえばエマはどこだ?」



ベルホルトは、すでに寝室に着いて、着替えはじめているエマの
ことを知らなかった。それに、まさか、それからそこで3日間も
休みなく、愛し合うなどとは夢にも思わなかった。


一方、デヴとヴァレリーは部屋に入ると、大きなベッドに、片手
をつないだまま、大の字で寝そべった。二人とも晴れやかな顔で
笑いが止まらない。嬉しくて嬉しくて堪らないのだ。


デヴはおもむろにヴァレリーの上に覆いかぶさると、彼女の唇や
頬やオデコに、ていねいなキスを繰り返す。ヴァレリーは微笑み
ながら目を閉じて、その感触を楽しむ。


ところが、それがなぜか、中断したので、ヴァレリーが目を開け
ると、デヴはベッドの脇の方をみている。どうやら彼は下に落ちた
書類に目が行ったらしい。



「ああ、それ…。エマが調べてくれた報告書で、まだ中身は見て
ないんだけど、昨日の夜、ベッドの上に置いたのが落ちたのね」



デヴは、ブリーフケースから飛び出した
その書類の一枚を手にして、ヴァレリーに告げる



「この男が、あなたに話していた男です。
私がアメリカの大学にいたときに友人だった男です」



ヴァレリーは、その書類に印刷された写真を見て驚く。



「運命のイタズラって、あるのね」



二人は、しばらくブリーフケースの書類を見続けた。




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