今日のドバイは最高気温36度に達した。 6月の半ばなのにこう暑くては何もやる気がしないとススムは思う。
テレビからはシリアのダマスカスが41度になると聞こえる。
バスルームから出たセルティ・セジョスティアンはドアの隙間から 顔だけ出してススムに話しかける。ソファーに座るススムからは ちょうど真後ろにあたる。
「ねえ、イランやイラクって、45度を越えるところも多いみたいね」 「本当? そんなところに派遣されたら日射病で死んでしまうなぁ」 「日本は今頃、暑いの?」 「雨が多い時期で蒸し暑いよ」
セルティはバスローブだけを軽く羽織って、 上半身裸のススムの背後から抱きつく。
「蒸し暑いって、こんな感じ?」 「おっと、びっくりしたあ。あれっ、セルティ裸なの?」
「バスローブ、今、落ちちゃった。でも、直接肌が触れ合うのって気 持ちいいと思わない? ススムの背中に私の胸の感触伝わってるかしら?」 「うん、最高。背中だけでも、こんな快感を味わえるんだね」
ススムはセルティの柔らかなバストの感触に幸せを感じる。
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セルティはそのままススムのパソコンの画面を覗きこんだ。
「あらっ、スペインの国債、金利が7%台になっちゃたの!」
「ムーディーズが昨日スペインの国債の格付けを3段階引き下げたか ら、こうなるかなと思っていたけど、心配なのはドイツのクレジット・ デフォルト・スワップ(CDS)が拡大していることだよ」
「ホント、恐ろしい話ね。欧州の債務危機がドイツ国債の安全神話ま で破壊しちゃうなんて…」
セルティはススムの肩越しに腕を伸ばし、 ノートパソコンの画面をいくつかクリックする。
ドイツ国債が少しずつ売られてる。以前はユーロ圏からドイツ国債に 資金が流れ、それが今や米国債に資金が再移動しているように思える。
ススムはソファーから立ち上がって、裸のままのセルティを抱きしめ、 床に落ちているバスローブを彼女に着せながらキスした。
「王女さま、どうかその濡れた髪をお乾かしください」 「ススムって面白いわね、私はセルティ。王女さまではないわ。でも…」 「でも?」 「でも、何だか気持ちいいわ。そう呼ばれると」
にこやかに笑う彼女をみると、 ススムは何物にも替えがたい幸せを感じる。
「では、王女さま、お飲み物でもお持ちいたしましょうか?」 「それよりもススム。あなたもシャワーを浴びてきなさい」 「承知しました」 「それでシャワーが終わったら、私をマッサージすること」 「はい、王女さま、承知しました」
セルティとススムは微笑みながら、目線を合わせた。
ススムと入れ替わりにソファーに座った彼女は、いくつかの指標や経 済動向を眺める。ふと、英デイリー・メール紙が6月初めに掲載した 記事に彼女の目がとまる。
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