20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:ときどき占い師の日常 作者:Sharula

第3回   3
朝、圭介は目を覚まして驚いた。

ケイトの顔が目の前にあったからだ。

「おい、なんだ。おまえ、朝から…」
「何かうなされてるみたいだったから顔見てただけですよ〜」

「で、でも、あまりに近すぎないか」
「知ってます? 昨日の夜は部分月食があったんですよ、師匠」
「えっ? でも、それとこれとは話が違うだろう」

「いえいえ、これは奥が深いんです。
 太陽と地球と月が重なるのを私は再現したんです」

「えっ? 太陽と地球と月?」
「そうなんです。天井の蛍光灯が太陽、それで私が地球で、師匠が月」
「……」

「どうしたんです? 師匠」
「いや、何って返事していいのか分からなくなって…」
「うふふ、師匠って可愛いですね。
 いいんですよ、私のこと好きなら好きって言っても…」

ケイトは含み笑いしながら台所に行ってしまった。
圭介は上半身を起こして、しばらく呆然としていた。


「太陽と、地球と、月ねえ…」


圭介は頭の中がグラグラして、眩暈を起こしそうな気がした。
ふとベッドの横にあるテーブルをみると、命式表が2枚ある。


「これは…?」


「あっ、師匠。それ最近話題の芸能人なんですよ」
「えっ? どこからか依頼が来たの?」
「いえ、私の個人的な興味です。占ってください」

「ふうん…、芸能人ね。
 そういえばしばらくそういう業界の人とは縁がないなあ」

「師匠、前にそんな人たちの運勢も観てたんですか?」
「ああ、赤坂の芸能プロダクションに呼ばれていったこともあるよ」
「へえ、すごいじゃないですか!」

「でも、ケイト。ケイトは芸能界には縁を持たない方がいいよ」
「ええ? 何でですか? これからも縁はないと思いますけど…」

「あまり詳しくはいえないけど、占い師って世の中の裏側からモノを
 見たりするだろう。その中でも特に芸能界はとんでもない世界で…。
 それを知ったら、自分の好きな人には絶対縁を持たせたくないと思う」

「師匠、それって、もしかして私への愛の告白ですか?」
「ちがう、断じてちがう!」
「ええ〜、そうなんですか? 今の顔はマジでしたよ」


圭介はちょっと困った顔をしながら、命式表の一枚を手にする。


「ところで、この女性の流年(りゅうねん)、冠帯(かんたい)だね」
「流年?」
「ああ、一年だけの運勢のことだよ、その年の節分から翌年の節分までの運勢」
「そういえば師匠は、いつも四柱本体の話を最初にしないですよね」

ケイトはベッドに座る圭介にコーヒーを運びながら話しかけた。

「うん、まずは五行図と流年に目が行くんだよね。重要だから…」
「えっ? やっぱり四柱本体じゃないんですか?」
「まあ、初心者向けの本を読んでいると、皆なそう思っちゃうよね」


ケイトは少し首をひねりながら、その命式表をのぞき込んだ。


「私はどっちでもいいんです。でも、生年月日でその人の性格や
 一生がある程度判断できるって、本当に不思議な気がします」

「まあ、そう言われてみれば、
 たしかにどこから判断してもいいものなのかも知れないな」

「それで冠帯がどうかしたんですか?」
「女性にとっての『冠』(かんむり)は花嫁の角隠しを意味するんだよ」

「角隠し?」

「日本では婚礼のときに、花嫁が白い絹の頭飾りをかぶる伝統があって、
 それが一般的には『角隠し』と呼ばれる。もしかしたら、この女性は
 結婚するか、結婚するような状況にあるんじゃないのかな?」

「さすが、私の師匠。大当たりです」

「しかも、その上に印綬(いんじゅ)があるから、自分の家系よりも
 上の家柄から婿をいただける。それに五行の安定もいいね、この娘…」


「師匠!」

「どうした?」


「あの、私の流年と五行の安定はどうなんでしょうか?」
「ああ…、どうだったけ?」
「どうだったけ、じゃないです」
「まあ、そう焦らなくてもね。それより、こっちの男性が結婚相手なの?」

「そうですけど、私の運勢を先に見てください!」
「おおっ、面白いね、この人。このカップルは今燃え上がってるよ、きっと」


圭介が夢中になってみている2枚の命式表をケイトは奪い取り、


「I have a strong desire to get married.」
「えっ? 結婚願望ありって…。まずは大学卒業しなきゃいけないだろう」

「あの、師匠…」
「何?」
「時間が…、いつもだと朝食を食べ終わって出かける時間です」
「No way. ヤバい。なぜ、はやくそれを言わないんだあ!」

圭介はあわてて着替えて、車に飛び乗り職場に向かった。


その姿をマンションの通路から見送っていたケイトはつぶやく。


"I'd like to have a church wedding with you."


彼女はやっぱり教会で式をあげたいのだ。




← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 3699