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作品名:ときどき占い師の日常 作者:Sharula

第2回   2
夕方、圭介は弟子のケイトが店に来てというので出かけた。

スタンドバーの広さは、
東京の街角にある、立ち食いうどんのお店くらい。

木造平屋建てで、雰囲気的には限りなく居酒屋なのだが、
青い眼をした若い金髪の女性が、法被姿で焼き鳥を焼くのは
外国人の増えた今の日本でもちょっと見慣れない。


"Come again."
"Venez encore."
"Venga de nuevo."


彼女に英語、フランス語、スペイン語で見送られる3人の男たちは
ほろ酔い気分で手を挙げ、立ち去ろうとしている。

今日、圭介が運勢をみる相手はそのバーから近いパン屋の夫婦だった。

彼らは小学2年生になる息子の子育てで悩んでいたのだ
子供が何を考えているのか分からないし、どう接していいのか分からない。

ときどきストレスが溜まるのか家の中で暴れたりする。
それで親が叱りつけると、部屋に閉じこもってしまったり…

その子の運勢は、傷官大過(しょうかん・たいか)。
それは傷官と呼ばれる星が多い、あるいは五行食傷に星が多い命式である。

このような運勢をもつ人は、非常に繊細な神経をもち、
その多くは特殊技能を発揮して社会に貢献している。

たとえば深海探査船で地質調査をする場合、
最終的には計器の数値よりも人間の勘が頼りになるという。
その海底が砂地なのか岩なのか、傷官が強い人は不思議とそれが分か
る。

有名ホテルのシェフ、カリスマ美容師、天才と呼ばれるプログラマー、
稼ぎまくる株式ディーラー、有能なエンジアニアや建築士、同時通訳、
霊通者…

一方、鋭すぎるその神経は、相手の心を一瞬にして読み取ってしまい、
自分のことを本当に愛しているのか、人間としての真実をもつのか見
抜いてしまう。

たとえ小学2年生の男の子でも、ちゃんとした大人かどうか見抜くし、
友達同士の関係でも、言葉一つで深く傷ついたりする。


圭介はパン屋の夫婦に、徹底的に息子をほめることを勧めた。
100のうち99ほめて、場合によっては1叱るくらい。

彼らの息子が将来、その素晴らしい才能を発揮して世の中を明るくす
ると心から信じて、何か言いたいときもグッと我慢して見守ってほし
いと圭介は話した。


パン屋の店主はその話をよく理解した。

何しろ、彼自身が傷官が強い人だったので、自分の小さい頃を思い出
しながら、自分の息子にどう接したらいいのか分かる気がしたのだ。


「そういえば、僕も父親や母親にもっとほめてほしかったですね」
そう言って照れ笑いする夫の姿を、嬉しそうに彼の妻が見つめていた。


“もう、あの家庭は大丈夫だろう。”
圭介はそう思いながら帰宅した。



それから二週間後…



圭介とケイトはパン屋の親子と夕食を共にした。

夫婦の間に挟まれて嬉しそうに座る男の子…
その姿が、この家庭の今を物語っていた。





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