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作品名:ときどき占い師の日常 作者:Sharula

最終回   子供を産むのによい時期
圭介はいったん帰宅してから、
ケイトと彼女のバイト先であるスタンドバーに寄った。


彼女は料亭でもらったお土産をどうしても届けたいというのだ。


「大将、新鮮な魚もらったから、皆なで食べて!」
「おう、ケイちゃん。ありがとう。デートは楽しかった?」


ケイトと店長の会話に常連客たちが反応する。


「ケイちゃん、好きな人いたの?」
「何言ってんだよ。こんなに可愛い娘に彼氏の一人や二人居て当然だろう」
「ああ、俺、ケイちゃんに憧れてたのになあ」
「おい、もともとお前じゃムリなんだよ。
 世の中釣り合いってものがあるんだよ」


「ごめんね、皆な。でも、赤ちゃんできたらお祝いちょうだいね」


彼女の言葉に皆驚いた。
でも、一番動揺したのは圭介だった。


常連客は彼女が子作りのためにデートしてきたと思い込み、
ケイトの傍にいた圭介に皆なの視線が集まる。


「いえ、違うんですよ…」


ケイトは圭介が言い訳しようとする隙を与えず、昨日も一晩中、
彼女を抱きしめていたことなど話すと、常連客は歓声をあげた。

昨晩、圭介がソファーでケイトを抱きしめながら寝ていたのはたしか
だ。まあ、正確にはケイトが圭介を抱きしめていたのだが…


“ひょっとしたら昨晩、無意識に僕は彼女に何かしたのだろうか?”


圭介の心の中では、自分に対する疑惑の念がふって湧いた。


スタンドバーからの帰り、圭介はケイトをおんぶしながら自分のマン
ションに向かった。ジャンケンで彼が負けたのだ。そのときケイトの
顔はいつもの甘えん坊に戻っていた。


「今日の鑑定は見事だったね。でも、どこで勉強したの?」
「えへへ、実はこれがその秘密なの?」


ケイトはポケットからボイスレコーダーを取り出して彼に見せた。


彼女は彼が鑑定する場面でこっそりそれを録音し、それを何度も繰り
返し再生しながら勉強したのだ。話し方の間の取り方やその流れも、
彼女は彼をそっくり真似ることができる。


「ケイト、本気で僕の奥さんになるつもりかい?」
「うん」
「そっか…」


マンションに戻ってからは、ゆったりとした時間を過ごた。ケイトが
彼女のアルバムを見ていたので圭介は見せてもらう。すると日本人
らしき女性が一人写っていた。


それは父方の祖々母だった。
具体的にはケイトの「お父さんのお母さん」の「お母さん」である。


どんな縁で祖々父と結婚したのかをケイトは知らされていない。でも、
昔、日本政府が戦争で資金を調達するために、たくさんの日本女性を
売り飛ばしたという噂を彼女は聞いた。

それで、ひょっとしたらと思ったことはあるという。


一方、その女性の顔に圭介は見覚えがあった。
小さな頃に彼を可愛がってくれた祖母にひどく似ていたのだ。


“おばあちゃんが、彼女を日本に連れてきてくれたのかな…”


圭介は心の中でつぶやいた。まさか自分と彼女が
家系的な縁で引き合わせられたとは思いもよらなかった。


「ねえ、師匠。子供を産むのには、どんな運勢のときがいいの?」


占いに関する質問をしてくるとき、彼女は好奇心に満ちた顔をしている。
なにがそんなに楽しそうなんだろうかと圭介は思うほどだった。


「僕は財星の頃、特に正財の時期がいいと思うな。財は繁殖する時期
 でね、受精卵が子宮内膜に着床しやすくなるといわれるんだ。なかな
 か妊娠しないカップルにはお勧めの運勢期なんだよ」

「へえ、そうなんですか。私の流年で財星が来るのは?…」
「再来年だよ」
「ありがとうございます。師匠! 私の運勢、覚えてて下さったんですね」


圭介は微笑みながらケイトに答えた。


「ケイト。君は僕のことを『圭介』と呼んでいいよ」
「えっ?」
「だって、ケイトは僕の奥さんになるんだろう」


"Yes! I am very happy, I am delighted to hear it."


ケイトは彼に抱きついて泣いた。


翌日、両親に彼女のことをどう説明しようかと圭介が迷っていると、
ケイトはすでに彼の母親と電話で話したという。青い目の孫ができる
のも、彼の母親にとっては楽しみだという。

一方、カナダに住むケイトの両親のもとには、この夏、二人で挨拶に
出掛けることになっている。

それから圭介は弟子を取らないタイプだが、教育者の両親をもつケイ
トは教えるのが上手で、いつの間にか外国人の弟子を数人教育していた。


ケイトと出会ってから、圭介の仕事はとても順調に進んでいる。
大きな失敗と思った出来事も、気がつけばもっと大きな実りに
つながるキッカケにすぎなくなる。


『女性を喜ばせる男は成功する』


圭介にはその格言が成就する予感が十分していた。


(了)




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