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作品名:ズレテモドセナイ現実 作者:原子ノ中心

第1回   1
夏休みのことである。




小学生のはしゃぎ声が聞こえる中、僕はパソコンと睨めっこしていた。別にパソコンを見つめて喜ぶ変態ではない。ただ単に、インターネットでバイトの募集を探していただけだ。僕、内幹 式兎は県内でも有数の進学校、鳴徳高校に通っている2年生だ。そう自己紹介すれば大抵の人は「凄いわね」とか「頭いいのね」と、褒めてくれるが、自身、それは苦痛であった。世間的な目が存在しないのであれば、僕は直ぐにでも退学届を提出しているだろう。僕はこの現実から逃げ出したかった。いや逃げ出さなければなかった。
ふぅと息を吐き、浅く座っていた椅子を、深く座り直してマウスをクリックした。



両親はまだ寝ている。仕事の疲れなのか、時折いびきを大きく鳴らしながら、幸せそうに熟睡。傍から見ると微笑ましい光景だが、僕は表情を変えず、そのまま玄関に向かった。今日からバイトが始まる。昨日見つけたバイトは、条件がよく、夏休みの有り余った時間を潰すのにちょうどよかった。でも、両親に見つかる訳にはいかない。ダッテボクハ、コレカラスベテヲ失イニ行クノダカラ。



バスで2時間。見慣れない風景を見渡すとそこには、昨日インターネットを駆使して見つけた、僕がアルバイトをするであろう、『鬼ノ屋』の看板があった。そして看板の隣には、店。小さな、店。古びた、店
此処が本当に時給1300円で住込み可、食費及び家賃不要という、大人でも飛びつきたくなるような、条件の良いアルバイト先なのか、怪しく思える。でも引き返すことはしない。いや、仮に此処がサファリパークでも僕は引き返さないだろう。軽く背伸びをし、古びたドアを開けた。
カランコロン、とよく耳にする入店音を聴き、中に足を踏み入れた。
「いらっしゃい」
女性が声を掛けてきた。20代後半ぐらいであろうか、浴衣のような衣服を身に纏い、気怠そうにしている。続けて女性は言葉を発した。
「どうやら客ではなさそうだね。普通の高校生の目ではない。」
「目・・?」
高校生とわかったのは、夏期講習を受けに行っていると両親を思わせる為に着てきた、鳴徳高校の制服のせいだろう。僕は目上の人に敬語を使うくらいの常識は持っていたが、普通の目ではないと言われ、自然に口が動いてしまった。
「そう。目。君は何かを叶えて欲しそうな目をしている。」
女性は笑みを浮かべ言った。

僕がこのバイトを選んだ一番の理由、それは‘過去をリセットしたい方も歓迎!’と小さく書かれていたからである。どこの一流企業も真似出来ない、凄い売り文句である。その下の注意書きにはこう書かれていた。
‘過去をリセットしたい方と、時給1300円では、仕事内容が大きく異なります。過去をリセットしたい方は、全てを失ってもいい方のみ募集します。’
自分でも馬鹿らしいと思っていた。でも僕はこれに賭けようと思っていた。2週間前の出来事に僕は異常なまでに悩んでいたのだ───


「へぇ。あんたは過去をリセットする方を希望のね。」
イントネーションがいかにも京都弁のこの店の女性にそう言われて僕は頷いた。そして軽く手を挙げた。
「えっと、質問いいですか?」
女性は何も返事をしなかったが、構わず続けた。
「なぜ僕の目を見ただけで、そこまで分かるんです?僕ってそんなにやばい目、してました?」女性は即答した。
「だってほら、私、鉄腕アトムでいうところの御茶ノ水博士でしょ?」
初耳だよ・・。心の中で突っ込みながら、はぁ、と曖昧に言葉を返した。
「府に落ちないようね兎君。」
「うさぎくん!?あなたは目を見ただけで名前まで!?そして愉快なニックネームまで!?」
女性はため息をついた。そして笑った
「違うわよ。兎君。きみが客ではないと思ったのはその膨大な荷物の量。住込みでもするつもりがないと持ってこないでしょう。名前がわかったのは、いかにも学校が好きそうな指定バックに名前が書いてあったからよ。」
いつの間にか標準のイントネーションに戻っている女性は淡々と答えた。
「や、それは納得できます。でも何故、過去の方だと分かったんです?」
過去の方、と略しても分かってくれるだろうと、僕は思い、少し早口で言った。
女性は、僕と対象的に少し間をおいてゆっくりと言った
「それは・・・カンね。女の勘ね。」
「勘・・ですか。」
僅かでも超能力や予知能力を期待した僕が馬鹿だった。
「私の名前は、しそめみとい。漢字は詩人の詩に、染め物の染。魅せる問題と書いて、誌染魅問よ。」
「最後の魅せる問題が理解しにくかったですがイントネーション」


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