雅とカツミが落ち着きを取り戻して暫くの時間が経った時、カツミがふと何か に気付いた。 「そう言えば、マニアグループは・・・? どうなったんだ・・・。」
その言葉に反応して、雅もマニアグループのことを気にし始めた。
「確かに。あの奥村とかいうチビは”撃破数”稼ぎって言ってたもんね。大丈夫 かな?マニアグループのみんなは。」
「とりあえず確認しなくちゃ。」と言ってカツミは学校のほうへ走り始めた。
「身体が重いや・・・。もっと鍛えなきゃ!」と言いながら雅も後を追った。
走り出してから5分後。
学校に着いた二人はマニアグループの一人を発見した。榎本君である。
彼の居た辺り一面は激しい戦闘の跡を残していた。
カツミは心配した顔で榎本君に尋ねた。
「大丈夫だった?」
榎本は黙った後、カラカラ笑いながら答えた。「・・・ハハハ。僕、なんで生きて んだろ!?確実にあの時、狩られてたんだ・・・。命ごと。」
カツミ「ヤツは!?あのチビは・・・。一体どういう攻撃をしてきたんだ?」
「解らない。気付いたら何か凄い音がしたんだ。 振り向いた時にはアイツはプラスチックみたいな棒を左手に持ってて、侍みたいに 構えたと思ったら次の瞬間、斬撃っていうの? 見えない何かが飛んできてオレの片足が真っ二つになって・・・。 その次の斬撃で確かにオレは死んだんだ・・・。だけど、気付いときにはココに 突っ立ってた。 きっとあのアンドロイド?アプリ?の能力の中には面白い効果のものも沢山あるか ら誰かが蘇らせてくれたのかも。」 カツミ「いや、まだ憶測でしかないが、きっと・・・、あの機能だな。」 「そうだね。僕もなんとなく察しが付いたよ。」と雅もうなずいた。
校舎内から凄い衝撃音が聞こえてきた後、何かが崩れるような音が響いた。
「急がなくちゃ!アイツを説得しないとみんなが危ない。」と雅は走り出した。 「説得なんて聞くタマか?アイツは。」と言い聞かせながらカツミも後を追った。 「音が聞こえてきたのは食堂の辺りだよな!? 急ごう。」
階段を上り、食堂にたどり着いた時に、最後まで奥村に食い下がっていたのは 平ちゃんただ一人だった。 平ちゃんの後ろには、丸くなって怯えている生徒が一人。 他の皆は生々しい戦場となった床に倒れていた。 「もうお前の手の内は全部わかってる。観念して撃破されるしかないぜ。それと も、そんな単純な計算が出来る頭も持ち合わせてないのか、お前は?」 奥村は威嚇するように手に持ったプラスチックの棒のようなものを地面に叩きつけ ている。 地面は音を立てて、破壊されてゆく。 「お前に勝てないのはわかっている・・・。だけど、いくらスマホ リフレクショ ンっていう生き返れる機能が付いていたとしても、友達が酷い仕打ちを受けてい る姿を見て黙って見ていられるか!」平ちゃんは奥村を睨みつけて怒鳴った。 「吠えるなよ。弱い奴はすぐ吠えるな・・・。」 奥村は不敵な笑みを浮かべた次の瞬間、棒を平ちゃんたちの方へ振り下ろした。 「やめろ!」と声が響き渡った。瞬間。奥村の振り下ろした棒と平ちゃん達との間 に雷が走り抜ける。いや、正確には突き抜けたと言ったほうが正しい。 奥村と平ちゃんが戦っているエリアを突き抜け、雷から戻った瞬間、椅子につまず いて横転した。派手に音を鳴らしている。 「派手にやってるな。雅のやつ。」遠巻きにカツミが苦笑いした。 奥村の持っていた棒は溶けてしまっている。 奥村の注意が一瞬、雅にそれた瞬間を見計らって、平ちゃんは友達の手を引き奥村 の視線とは反対方向のカツミの元へと走り出した。 奥村は舌打ちして「コール! プラ!!」と怒鳴った。 平ちゃんの方に向かって走り出す奥村の手の中にプラスチックの棒が出現した。 「お前は頂く。」 平ちゃんの後ろを走っていた子が悲鳴を上げた。 振り向くと、その子は酷い姿で倒れて見れる状態ではなかった。 平ちゃんは覚悟を決め、加勢に来た雅とカツミに叫んだ。 「こいつは、コイツは俺が倒す・・・。だから二人とも!援護頼んだよ!」 二人は頷きながら吠えた。「当然。」 平ちゃんは奥村と一定の距離を置くと叫んだ。 「サモン! リアクティベーター!」 すると、床の上にSF映画に出てくるような機械が出現した。機械の上の方にブラッ クホールの様な空間が揺らいでいるポータルが発生した。 次の瞬間、空間の揺らぎから人間よりやや小さめの機械の兵隊が次々と出現し始め た。 「ターゲット!」平ちゃんは奥村を指差しながら叫んだ。 「認識完了。ドロイド兵 オールリアクション。」 機械から音声が出た瞬間、ドロイド兵が一斉に奥村に向かって進軍を始めた。 しかし、奥村は次々とドロイド兵を切り倒して進んでくる。 が、そうしながらも、ドロイド兵は次々と出現し続けている。 カツミも戦闘に加勢するため詠唱した。 「コール! クリーチャー、アーム、ソード、ダミー!」 カツミの周りにもクリーチャーとダミードールが召喚され、三方向から奥村を包囲 する陣形が出来上がった。 すると、カツミは雅に指示を出した。 「雅!無理に突っ込まなくていい!アイツがスキを見せた時を狙うんだ!一撃粉砕 を狙え!」 カツミの指示に雅は「了解!」と大声で返事した。 雅は奥村に最後の説得を試みた。 「どうだ。もうこの状況じゃ形勢がひっくり返る事なんてまず無い! 大人しく降参して、僕たちの仲間には手を出さないって約束しろ!」 すると、カツミが奥村の代わりに答えた。 「雅、無理だ。こいつはそんなことを言っても耳を貸す様な奴じゃないし、こんな 状況になっても、奴にとってはピンチでも何でもない。」 雅は「なんで?」と言った。 カツミ「奴は恐らく、時間軸を操作する・・・、と言うか自分の好きな時間軸を選 んで行動する事が出来る。ゲームで言ったらセーブデータを取っておくみたいなも んだ。やっかいなのは、奴はそのセーブ時から現在までの全ての軌跡を保持し ていて、それを吟味して、一番いい結果の現在を選択出来ると言う点だ。」 奥村「ご明察通り!」と笑った。 雅「え〜?ズルくない?そんなエンチャント。勝てないじゃん!意味ないじゃ ん!」 平ちゃん「確かに。」 雅「それじゃ、俺がチビに決定打を与えても意味がないんじゃない?」 カツミ「いや、そんなことはない。少なくともこの時間軸では奴を食い止められ る。それに、どんな媒体にだってセーブ出来る限界はあるだろ?今は今だ。集 中するんだ。」 奥村は三人の戦闘力を秤にかけ、この陣形のウィーク ポイントを平山(平ちゃ ん)と読み、彼のサモンしているドロイドを竜巻のようになぎ倒し、平ちゃんとの 間合いを詰めてゆく。 平ちゃんは右手に集中して力を入れ、大きく息を吐いた。 次の瞬間、平ちゃんの右腕が赤く変化して蒸気や煙を立て始めた。 「喰らえ!」 平ちゃんの腕がありえない長さまで伸びて、ドロイド兵たちを貫通した。 しかし奥村はそれを難なく軽く避けてしまった。 「シャドウ アームの・・・(紅緋:べにひ)・・・。」そう言いながら、奥村は 伸びきった腕でバランスを制御できてない平ちゃんの懐深くまで一気に間合いを詰 めて、平ちゃんに重い一撃をかました。 平ちゃんが倒れると同時にドロイド兵も転送器も消えた。 雅は悔しそうに奥村に突っ込んだ。「くっそ〜!」 轟音とともに、奥村の頭をかすめた一撃を繰り出した。 「まだその程度のシンクロ率じゃ、俺は・・・。」と、奥村の手元が光った。 次の瞬間、更なる轟音が聞こえた時には、奥村のプラスチック棒は溶けて無くなっ ていた。 「はあ、はあ。ターンって難しいな。」 奥村は焦りとともに状況を確認し、考察した。 目の前の床に雅が、アイツがいる。が、息が異常に切れている。 (!? アイツは何をしたんだ? 避けたのに、なぜアイツが前に? まさか、水泳選手のように壁でターンしたというのか? そんな馬鹿な。ほぼ普通の人間の反射神経でアクションが追いつくはず無い。まさ か・・・、奴のシンクロ率の上昇値がそこまで高いのか・・・?) 「くっ!」奥村は焦った顔をして、その場から距離を置こうとした。 次の瞬間、奥村は足元が動かないことに気づいた。 「まさか、二度も同じ手に引っかかってくれるとは思いもしなかった。」 カツミのクリーチャーが奥村の手足を絡めている。 カツミが奥村に威圧を与える様に言った。 「動揺してくれるタイミングを待っていて良かった。 敢えて、倒さないで逃がしてあげるよ。 もし、倒そうとしたら、また能力を使って最初の状態に戻ってしまう。 その時、また決定打を打てるとは限らない・・・。雅、警戒だけして、とりあ えず今回は奥村を逃がそう。」 「嫌だ!こいつはいずれ本当に友達を殺しかねない!」 雅の言動をカツミが冷静に諭した。 「今回は運が良かったんだ。また過去に戻られてみろ。同じ手はそう何度も通用し ないし、このシチュエーションでの俺たちの行動パターンを何度も観察されればそ の分、こちらがかなり不利な状況になる確率の方が高い。お前の言ってた通り、脅 すだけで十分だよ・・・。」 「違う。俺は説得に来たんだ!脅しに来たんじゃない!」 「まあ、結果は同じさ。今回は我慢だ。な?雅。」 「わかったよ。ただし、今回だけだよ!?」 カツミは目で奥村に威圧を与えながら言った。 「もうここに来るな!二度と友達を傷つけるな。」 カツミは奥村から十分に距離を置くと、奥村を解放してやった。 奥村は舌打ちして悔しそうに逃げながら吠えた。 「俺のセベラル タイム チョイスは無敵だ。今回は無かった事にしてやるよ。 ルーキーども!」 「正に、負け犬の遠吠えだね。」ふと、平ちゃんの声が聞こえた。 振り返ると、倒れていた連中がみんな満身相違で立っていた。 「みんな無事だったね!良かった良かった!」 雅に笑顔が戻り、皆安堵からか笑顔に満ちていた。 一人を除いて。
「・・・けど、僕には結局、誰も守れなかった・・・。」 平ちゃんは悔しそうに呟いていた。
平ちゃんの心の内側は、この食堂の有様と同じであった。
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