カツミが帰った後、雅はスマホを取り出し”銀河図書館ネット”を開いた。
画面がぱっと切り替わる。
雅は詳しく情報を得るためコマンド一覧を見てみた。
================================== [ コマンド ] ==================================
[エンチャント発動]
[再発動:リ・キャスト]
【1ボタン】 【2ボタン】 【3ボタン】
[音声入力機能:ヴォイス コントロール モード]
[マイ ステータス]
[フレンド情報確認 登録・削除]
[マジック エンチャント]
[歴史上の人物]
[エンチャント情報の購入:撃破数の使用]
[フリー マジック エンチャント]
[スマホ リフレクション] [ON・OFF設定]
[シンクロ率:求道アプリ ja について](プリインストール済み)
[プレイヤー ガイド]
[はじめてのかたへ]
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じっくりとアンドロイドを見返してみると、分からない単語がある。
よく見ると色々な機能が備わっているようなのだが、それが何をさしているのか分 からない。 ”スマホ リフレクション”ってどういう意味だろう? スマホで反射? 撃破数って事は、相手のスマホを壊しちゃうって事なのかな? こうして調べてみると色々と”?” マークが出る機能が多い。 雅はまず一番気になった”スマホ リフレクション”をタップしてみた。
=========================== [スマホ リフレクション] [ON・OFF設定]
【簡易説明】 あなたの命、守ります。 ・・・、いざという時には。
【詳細情報の購入:撃破数による購入】 支払い : 10撃破数
ON・OFF設定をOFF設定にしますか?
【はい】 【いいえ】
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命を守ってくれるんだからOFFに設定するヤツなんかいないのに。と思いながら 雅は【いいえ】を選んだ。 そして頭をポリポリとかいた。 うーん。何だろう。このアバウトな説明は。 ”撃破数”ってのを支払わないと情報すら、ろくに教えてもらえないんだなぁ。 じゃあ、”撃破数”ってのがどういうものなのか調べてみる必要があるな。
次に雅は”撃破数”について調べてみた。
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[撃破数:げきはすう]とは … 相手プレイヤーの使用スロットを破壊した数のこと。 また、相手プレイヤーのサモン エンチャントを破壊する事によっても”撃破数” を得られる。 相手プレイヤーを殺しても”撃破数”が増えるわけでもないし、相手プレイヤーの スマホを直接破壊したからといって、相手の持っているスロット分の”撃破数”を 得られるわけでもない。 あくまでも、装備しているスロット分の”撃破数”を得られるだけである。 なお、戦闘の意思が無いプレイヤー同士がお互いにポイント稼ぎの為にスロット・ クリーチャーを撃破しても”撃破数”にはカウントされない。 イヤホンを切断した場合、エンチャントの効果は消えても”撃破数”カウント の対象にはならない。
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なるほど。 何らかのカタチで相手のエンチャント スロットを破壊しさえすれば撃破数を得ら れるのか。 とりあえず、今一番重要なのが”撃破数”を得るって事だね。 分かった事は、本気で戦わないと”撃破数”は手に入らないんだ。
その後、雅は30分ほど”銀河図書館ネット”で調べ物をして、 いつも通りLHKの歴史番組を観たりしながら床に就くのだった。
次の日
雅がいつものように通学していると前方に見知った顔を二人ほど発見した。 一人は毎度おなじみの顔。カツミだ。 もう一人は”平(へい)ちゃん”の愛称で知られるクラスの癒し系、兼正義漢で 通っている 平山 武義(ひらやま たけよし)である。
雅は二人の下へ小走りで駆け寄ると陽気に挨拶した。
雅「おはよ〜。平ちゃん!カツミもついでにね。」 「俺はおまけか!」 カツミがすかさず突っ込みを入れる。 平ちゃんは笑いながら挨拶を返してくれた。 「ハハハ。おはよう。相変わらずだね、二人は。」 平ちゃんはいつものようにニコニコと笑った。 雅「おっ!? 出たね。平ちゃんの仏スマイル。」 平ちゃん「やめてよ。僕はそんなに優しくないし!」と謙遜する。
平ちゃんは、いつもニコニコしてみんなを和ませるキャラだがその反面、正義感が 強い人物としても学校内で認識されている。 特に気の弱い人が苛められていると、勇気を振り絞り、断固として戦う。 そんな所も彼がクラスのみんなから好かれる理由の一つである。 普段は、クラス内のマニアックな連中とつるんでいることが多いから異性からもて るといった場面は少ないようだ。
カツミ「今、昨日の”アレ”について平ちゃんに話してた所だったんだ。」 カツミはスマホをポケットから取り出してさりげなく強調した。 雅「まぁ、平ちゃんになら問題は無いと思うけど、あんまり噂が広まるとあの力は ものによっては犯罪とかに繋がる可能性も秘めていると思うんだよね。」 カツミ「確かに。悪用すれば恐ろしい戦力となるね。」と言いながら、うなずいた。 そして、カツミは取り出したスマホの画面から”銀河図書館ネット”を開き、笑顔 を見せた。 カツミ「俺もゲットしたもんね!俺好みのエンチャントを。あと諸葛孔明も。」 雅「へぇ。どんなエンチャントになったの?」と興味津々でスマホを覗いた。 平ちゃんも興味があるようでスマホを見つめている。
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アート オブ パートナー LV 56
クレッシェンド ソード LV 32
グロー エンチャント
ダミードールアーマー LV 18
シャドウ アーム(エンプティ) LV 24
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================================= アート オブ パートナー 出現率:汎用エンチャント 複数発動
【アート シリーズ】
【簡易説明】頭の中で描いた、一緒に闘ってくれる仲間を 具現化するエンチャント スペル。
【詳細情報の購入:撃破数による購入】 支払い : 7撃破数
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================================= クレッシェンド ソード 出現率:汎用エンチャント 複数発動
【クレッシェンド シリーズ】
【簡易説明】 対象のエンチャント1つの攻撃威力が徐々に上昇。
【詳細情報の購入:撃破数による購入】 支払い : 15撃破数
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================================= グロー エンチャント 出現率:汎用エンチャント 複数発動
【簡易説明】 ”撃破数”に応じてエンチャントが進化します。
【詳細情報の購入:撃破数による購入】 支払い : 5撃破数
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================================= ダミードールアーマー 出現率:レジェンド 複数発動
【簡易説明】 ダミードールをあらかじめ召喚しておけば、 被弾時に1体のダミードールが犠牲となり攻撃を守る。 ダミードールが召喚できる数は、ダミードールアーマーのレベルと同数。
【詳細情報の購入:撃破数による購入】 支払い : 25撃破数
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================================= シャドウ アーム(エンプティ) 出現率:レジェンド 複数発動
【シャドウ シリーズ】
【簡易説明】 無の属性。属性が無いわけではない。 全てを無に取り込む。
【詳細情報の購入:撃破数による購入】 支払い : 18撃破数
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カツミ「何回かダウンロードし直したんだけど、これが一番使いやすそうかな? って思ってコレにしたよ。」 まあ、1時間に一回しかダウンロード出来ないから、ちょっぴり夜更かしするハメ になったけど、このスロットが出たときは思わず興奮して、眠気が吹き飛んだね。」
平ちゃん「なんか、いかにもゲームに出てきそうな能力ばっかだね。ホントにゲー ムとかの類じゃないの? エイプリル フール?」と、疑った顔で平ちゃんは二人 を見つめた。
カツミ「ようし。証明してあげるよ。みんなに気づかれない程度にね。」
そう言うとカツミは、歩きながらスマホにイヤホンを差込み耳に付け、手のひら を上に向けた。 [ヴォイス コントロール モード]をタップし、カツミは小声でつぶやいた。
「コール クリーチャー」
その直後、カツミの手のひらの上に小さなロボットが2体出現した。 「どう?平ちゃん、こういうの好きでしょ?」とカツミは平ちゃんにロボットを見 せて笑った。 手のひらの上の小さなロボットは、カツミの手のひらの上で辺りを警戒するように 動いている。 平ちゃんはただただ呆然と、その様子を見ている。そして一言。 「あ、あれ? いつの間に!?」 カツミは補足説明を入れた。 「召喚しようと思えば、もっとでっかいのも召喚できるし、数も沢山出せる みたいなんだ。ただ、昨日調べた限りでは召喚できる数に上限があるし、大きいク リーチャーを召喚するとクリーチャーの大きさに応じて召喚できる上限も減ってい くみたいなんだ。勿論、宇宙人だったり、モンスターっぽいのも召喚できるよ。」 と指をくるくる回している。
平ちゃん「う〜ん。まだ半信半疑だけど、ホントにそんな魔法みたいなのが使える んなら、アンドロイド欲しいかも。ゲームの中の戦いと違って迫力ありそうだよ ね。マニアにはたまらないな〜、きっと。」
雅は真剣な顔をして、平ちゃんに言い聞かせるように語りかけた。 「コレを使ってどうこうしようってのは無いんだけど、これがあればなんかの時 の防衛手段に役立つかなって思ってさ。平ちゃんの場合は特に?ね。」
「確かに。」とカツミも平ちゃんへ目線を向けながらあいづちを打った。
「弱い者イジメ、ダメ、ぜったい。」と平ちゃんはガッツポーズをとって二人へ気 合の入った顔を見せた。 「ハイ。平ちゃんの人生の抱負、いただきました。」と、カツミと雅は声をそろえ て平ちゃんを指差した。
カツミは七校への登校中に平ちゃんへ”銀河図書館ネット”の事を細かく説明し た。そして時々、説明をしていない方から「へぇ〜、知らなかった!」と声が聞こ えるたびに突っ込みを入れるのだった。
放課後、雅とカツミが帰宅するとき、マニアグループは早速”銀河図書館ネット” を検証していた。
「あんまり広めないようにって言ったのにね。」と雅は苦笑いを浮かべた。
「きっと、それだけあのアンドロイドに魅力があったってことじゃない?」と当然 のように答えた。 「どの時代でも”チカラ”ってのは結局、使う側の価値観、教養、お国柄によっ て変わってくるでしょ? まあ、平ちゃんなら、いざという時にはどうすればいい かは十分分かってると思うよ。」と冷静に答えた。
「おぉ〜。」と歓声が上がっているのを横目に二人は家路へと足を進めた。
通学路である 車1台くらいが通れる路地を歩いて暫くすると、二人の背後から声 が聞こえた。
「はっ、お前らプレイヤーだろ。・・・コール タイム! セット。」
不振に思い、声が聞こえた方に振り返ると中学2年生くらいの小太りの少年がコチ ラを見てニヤニヤと笑っていた。
「・・・なんか用か? 少年・・・?」と雅は警戒しながら質問した。
「ふん、毎回、毎回、失礼だな。オマエらは。」と見知らぬ少年はこちらの質問に 答えた。
そして、見知らぬ少年は雅を指差した。。 「オマエはなかなか面倒なエンチャントだが、コイツさえいなければ、タダの暴走 トラックと変わらないな。」と、次にカツミのほうに首を向けた。
「雅、コイツの顔に見覚えはあるか?俺は無いぞ!」とカツミは顔を強張らせ質問 した。 「いや、ない!」と言い、雅も警戒し臨戦態勢をとった。
雅とカツミはスマホを取り出し、イヤホンを装着した。
「コール クリーチャー、アーム、ソード!」とカツミは唱えた。
カツミの前に無数のサモン クリーチャーが出現し、右腕が蛇のような動きをして いる。
「もうパターンは読めた、お前らは俺に勝てない。」と見知らぬ少年は答えた。
「おい、そこの雷男(かみなりおとこ)!戦いてぇなら、まず俺に攻撃当ててみろ よ。まあ、当たらないけどな。」と見知らぬ少年は”来い来い”と挑発している。
雅は脚に力を入れて少年の方に突進した。
瞬間。身体が進んだ方へ引っ張られる。ガラスが何十枚も割れるような音がした。
次の瞬間、雅はハッとして辺りを見渡した。
周りの景色がかなり変わっている。接触した周りの塀が黒く焦げていた。
身体全体を疲労感が襲う。
その時、ふと不安がよぎった。(もしかして、人殺ししちゃった!?)
すると、遠く後ろから少年の声が聞こえた。「ばぁか。死なねえよ!当たりもしね
え。ルーキーなだけに慣れてねぇな、戦闘に。」
カツミは少年に質問した。
「初対面なのに何でそんなに俺たちのことを知っているんだ?調べたのか?」
少年は馬鹿にした口調で問いに答えた。
「馬鹿じゃねえか?何もお前らのことなんか知らねえよ。雑魚相手にいちいち情報 収集なんてやってられっか。ただの”撃破数”稼ぎだよ。」
「それから、”さっき”お前らに質問した時、他の知り合いにもアンドロイドのこ と教えたって言ってたよな?どうせ使い方なんてろくになっちゃいないだろうし、 ついでに狩っていくか。」
「何でそんな事まで知っている・・・!?」
カツミは記憶をさかのぼってみたが、どう考えてもあの短時間にそんな質問をされ た覚えが無い。それに自分たちの能力について知っているのはおかしい。 これらの話を筋が通るように説明する能力を考えたところ、候補がいくつか挙がっ た。
これらの候補を絞るためカツミは一か八か、一番有力だと思われる能力に絞り込ん だ。相手の核を突く質問をして探りを入れてみた。
「お前・・・、時間操作系のエンチャント使いだろ・・・?」
少年は少し考え、腕を組むポーズを取り、言葉を選びつつ問いに答えた。
「お前、・・・やっぱり頭が切れるな。”今までの質問”で核を捉えた確率、7割 強ってトコだな。”お前”とは敵対せずにいたほうが得だな」
少年は後ろを振り返って雅をチラッと見た。
「”アイツ”は正直、今のところ敵じゃねえ。能力に振り回されすぎだ・・・。 だが最初の数回、ヤツを狩ろうとした時、ヤツは今まで狩ってきたターゲットの 中でも群を抜いてシンクロ率の成長が早かった。ああいう輩はむきになって相手を すればするほどグングンと厄介な存在に成長しちまう。 だから”今回”は適当にあしらっておいた。」
「もう判ったろ?餓鬼でも判るように教えてやったんだ。感謝しな。」
カツミは少年の後ろから不意を付いて攻撃させようとサモン クリーチャー1体 を忍ばせていたが、この少年にはまだ情報を引き出す余地があると悟り、交渉に 打って出てみた。
「俺らのクラスメイトを襲うのは後でも出来んだろ?どうせならもっと有意義な時 間の使い方をしないか・・・? 恐らくそんなに便利な能力だと、十中八九、単体 発動のエンチャントだ。しかも使用スロットも相当高いと踏んでいる・・・。 だからその分、戦闘面へ割けるスロット数はかなりの確率で1または0。戦闘面の 能力は低い可能性が高い・・・。”この銀河図書館ネットのアンドロイドの情報” と”お前への戦闘面のバックアップ”を交換条件に手を組んでみる気はないか? あくどい事以外なら手伝ってやってもいいぞ。」
少年は失笑し、交渉に応えた。
「勘違いするな。俺の能力は無敵だ。それに、お前らみたいな雑魚が集まったとこ ろでルーキーに上級者は討てない。・・・恐らくな。」
カツミは忍ばせておいたサモン クリーチャーをここぞと使ってみた。
少年の足元の地面が少年の両足に絡みついた。
カツミ「お前・・・、もう両足が動けないだろ?」
少年は不意を突かれて身動きが取れなくなった。
カツミは再び交渉を持ちかけた。
「ルーキーだって頭を使えば動きを封じるくらいの事は出来る。どうだ?交渉して みないか?」
少年は笑いながら質問に答えた。
「ははは。やはりお前は面白い。まさかサモン クリーチャーを地面と同じ色合 いにして忍ばせるとはな。まして、普通こんなに薄っぺらいクリーチャーを作ろう とは思わない。しかも、こんなにグルグルと巻きつけることまで計算していたと は。」
カツミ「・・・で? 交渉はどうする?」
少年「俺にとっては、こういう不意打ちも想定内だ。・・・だが、考えておこ う。”お前”は役に立ちそうだ。」
カツミはうなずくと少年を解放した。
そこへ雅が走りながら駆け寄ってきた。
「大丈夫か?カツミ。」
息が切れているが臨戦態勢をとっている。
カツミ「大丈夫だ。今、交渉が終わったところだ。」
雅「交渉? つまり決着がついたってことだな。」
カツミは首をかしげながら少年へ目配せした。
少年は二人に名を名乗った。
「俺は奥村伸吾(おくむら しんご)。今、高1だ。」
雅とカツミは声をそろえて驚いた。
「高校生!?」
奥村「ふん。人を外見だけで判断するとは浅はかだな。まあ、外見で馬鹿にされる のは慣れてはいるが。」
奥村は雅を指差し、命令するような口調で指示した。
「オマエ!もっとエンチャントを磨け。シンクロ率どんだけ低いんだ。そんなまま じゃ、いつまでもお荷物のままだぞ。」
雅はムッとして反論した。
「お前、俺らに命令するつもりかよ。年下だろ?」
奥村は雅の言葉を流して続けた。
「人物エンチャントは? 誰使ってるんだ?」
雅「宮本武蔵だよ。」
「・・・、剣士系のエンチャントか。だったら余計、シンクロ率上げには徹底 しろ。・・・じゃあな。」と言い、奥村は去っていこうとした。
雅は去っていこうとする奥村に質問した。
「俺だけ教えて終わりは無いだろ。お前は?何の能力のエンチャントを使っている んだ?」
奥村は振り返り不敵な笑いを浮かべ答えた。
「・・・おれ? 俺はセベラル タイム チョイスを使う。それだけだ。
じゃあな、”光る 武蔵”さん。」
奥村はそう言い残すと、スタスタと去っていった。
我に返り落ち着いた時に、二人はお互いの制服が汗だらけになっていることに気付 いた。 いつも差し込んでくる夕日の色が、今日は心なしか暗く感じた。
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