ピシャ〜ッ ド〜ン
雅が生きてきて、味わったことの無い緊張感が襲っていた。
ガタッ
誰かが自分の部屋に入ってきた。
「何したの!?こんな大きな音出し・・・。」と母(朱美:あけみ)の声が聞こ えた。言葉が途中で切れた。
部屋の中が焦げ臭い匂いで充満している。
母 朱美がドンドンと音を立てながら自分の背後に近づいてくるのが分かった。
次の瞬間、頭部に強い衝撃が走った。
ごつん
雅「痛っ!」
朱美の鉄拳制裁に、雅は思わず悲鳴を上げた。
朱美「何を燃やしたの!?家の中で火遊びしちゃいけないなんて今のご時勢、小 学生でも知ってるよ。」
雅はとっさに振り返って抗議し始めた。
雅「ちょっと待って。俺はただ武蔵の資料を聴こうと思っただけだよ!」
雅は両耳に付いていたイヤホンをワザと強調するように取り外して抗議を続け た。
雅「こんなイヤホン付けながら、自分の部屋で火遊びする高校生が何処に居る ってゆうんだよ!」
雅が抗議すると、朱美が更にもう一発、雅の頭をはたいてこう言った。
「現に、アンタが、やらかしてるじゃない!!」
雅「俺じゃない・・・。これはたまたま・・・。」
朱美「俺じゃなかったら、誰がやったって言うのよ?たまたまで火なんか点かな いわ。」
言い返せるだけの説明が出来ないと悟った雅は、大人しく朱美の説教を聞くほか なかった。
説教も終わってようやく自由になった。
スマホを手に入れて2日目。使い方がようやく少し分かって、これから楽しくな る予定だったのに、いったい何故こうなってしまったのだろう。 何が原因であんなことが起こったかを考えねば解決しないと雅は思った。
(コレは彼の専門だな。)
雅はスマホを手に取った。
暫くすると、ウチの玄関前から聞き覚えがある声が聞こえた。
声「お邪魔しま〜す。」
朱美「あら〜。いらっしゃい。どうぞどうぞ。」
声の主が玄関からすたすたと足音を立てて近づいてきて、ドアを叩いた。
声「はいるぞ。」
ガタッ
ドアの方へ目をやると、声の主があきれた顔をしながら部屋の真ん中に進み、腰を 下ろした。
雅はその声の主に助けを求めたのだ。
雅「カツミ〜!どうなってんだよ〜。タスケテ〜!!」
雅はちょっと甘えるような言い方でカスミに答えを求めた。
カツミ「いや、コッチがどうなってんのか聞きに来たんでしょ。」と困った顔で 答えた。
すると、雅は焦げた机を指差し、消え入りそうな声で一言発した。
「一瞬でこうなりました。」
「だから、何でこうなったのかを聞いているんだけど。」と言いながらカツミは机 を眺めた。
雅「う〜ん。・・・とね、家に帰ってきて・・・、スマホいじってて、・・・アン ドロイド?アプリ?をダウンロードして、聴こうと思ったら聴けなくて・・・ん で、イラッとして軽く机を叩こうとしたら腕が光って、こうなってた!」と片言で ジェスチャーを交えつつ説明した。
「腕が、光る・・・?」と不思議そうな顔を浮かべながらカツミは話を聞いた。
カツミ「アプリって何のアプリをダウンロードしたの?聴くってことは音楽ファイ ルか何か?」
カツミは更に不思議そうな顔をした。
雅はスマホを手に取ると、少し操作をして、カツミに画面を見せた。
雅「これこれ。さっきメールで送った、面白そうな音声再生型アンドロイド。」
カツミ「音声再生型とは聞いてないが、あぁメール来てたっけ。」
カツミは雅からスマホを渡されると、まじまじと観察し、こう言った。
「ちょっと、いじってみても良い?」
雅は首を縦に振った。
「・・・んと、まずは”はじめてのかたへ”を読んでみるか。」と言いながら、 カツミは黙々と画面を見つめていた。
暫くするとカツミは興味深そうな顔から急変し、突然声を上げた。」
カツミ「・・・え?ほんとにこんな事が出来るのかな?・・・出来たらすごい事に なるんだけど!」
雅はカツミの顔を見ながら質問した。
「何か分かった?・・・ってか何がそんなにすごいの?俺のスマホ、故障してるみ たいだから、そのアンドロイドが凄くても何も聞こえてこなかったんだけ ど・・・。」
するとカツミは興奮しながら答えた。
「何も聞こえなくていいんだよ!ってか、それが普通の使い方なんだよ!」
雅は眉をしかめてまた質問した。
「・・・どういうこと?なんで何も聞こえないのに凄いの?」
カツミは興奮して返事した。
「例えばだよ?・・・例えば、自分に歴史上の人物と同じ才能があったとしたら、 どんな事が出来ると思う?」
雅は戸惑いながら返事した。
「そりゃ〜、ソコソコ世の中で活躍が出来るんじゃない・・・?でも、歴史上の人 物の生きていた時代とは状況が違うし、同じことが出来たって・・・。」
カツミは雅の言葉をさえぎるように言葉を発した。
「同じじゃないんだよ。歴史上の人物の才能+超人的な技が使えたら、世の中を変 える事だって可能だろ?」
「まあ、凄いことが出来るだろうね。・・・って、え?じゃあ、さっき腕が光った のって、このアンドロイドの効果なの?」答えながら雅の表情が途中から変わっ た。
カツミ「エンチャントって言って、外国語の古い意味で、〜に魔法をかけるって意 味なんだけど。ゲームなんかでも、よく使われている魔法のことだよ。そのエン チャントを使えるって書いてある。」
雅「へえ〜。」
カツミ「雅の机の焦げ跡が何よりの証拠だ。・・・ところで、さっき電話で話して た内容だと、人物エンチャントで宮本武蔵をダウンロードしてセットしたんだろ? 感覚とか違ったりしなかった?」
雅はあの時を思い出しながら答えた。
「う〜ん、若干身体が軽かったような・・・。」
カツミは疑うような目で雅を見つめて、こう提案した。
「もう一回、アンドロイドを起動してみよう。百聞は一見にしかずだよ。」
雅はスマホの画面を操作して”銀河図書館ネット”を起動した。
カツミ「どう?感覚は・・・?いつもより体の切れが良かったりする?」
雅は考えながら答えた。「・・・いや、・・・いつもと、変わんない・・・。」
カツミは落胆しながら返事した。
「なんだ。ただのでまかせだったか・・・。」
雅はふと何かに気づいた表情をしてこう言った。
「・・・そういえば!・・・イヤホンを付けろって説明があったな。」
カツミは雅の顔の方に視線をやり、「それだよ!」と言った。
雅はイヤホンを耳に装着してみた。
カツミ「どう?何か感覚は違う?」
雅「うん。なんていうか、いつもと違って心が静かな様な、それでいてどこかに熱 い部分があるような・・・。落ち着いている感じ?」
カツミ「う〜ん、表現が漠然としていて分からないな。ちょっと体を動かしてみよ うよ。何か違うかも。」
カツミは立ち上がると、雅と適度に距離をとり、構えながら言った。
「とりあえず、俺に向かって軽くパンチを打ってみて!」
「りょ〜かい。」と言いながら立ち上がると、雅はカツミの顔に向かって軽くパン チを打とうとした。・・・瞬間、右手がパッと光った。
(ヤバイ。さっきのと同じだ!これがカツミに当たったら、カツミが死んじゃ う・・・!)
雅は軌道を逸らそうと思いっきり別の方向に力を入れた。
ピシャ〜〜ッ
・・・。 ・・・・。 ・・・・・。
パンチの軌道は逸れ、カツミの顔の真横を空振りしていた。
雅の右手を中心に、また体中に疲労感が襲った。
カツミ「う・・・お。・・・本物、だ。それ・・・!」
カツミは顔を強張らせながら後ずさった。
雅「ご、ゴメン・・・。そう言えば、雷化(らいか)っていう マジック エン チャント、一緒にセットしてたんだった・・・。」と申し訳なさそうに謝った。
カツミ「うおぉ、殺されかけた・・・。でも、本物だ・・・!」
二人の動悸が落ち着くまで暫く沈黙が続いた。
雅はその間、”銀河図書館ネット”の画面を調べていた。
何かに気づいた雅が先に声を発した。
「人物エンチャントの項目も、よく見ると色々書いてあるよ。」
カツミ「どんな事が書いてあるの?」
「こんな感じ!」と雅は画面を見せた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 人物エンチャント 【宮本武蔵】 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 剣士系エンチャント
シンクロ率 : 10.2%
付属エンチャント : アート オブ アーム LV30 : 孤闘 : 町割
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
カツミ「へえ、なんかいろいろスキルがありそうだね。・・・諸葛孔明の人物エン チャントなんかもあったりするのかな・・・!」と言いながら嬉しそうな顔をし た。
雅「カツミもこのアンドロイド欲しくなった?」
カツミ「勿論よ!!帰って早速、取得するとしますか。」
雅「え〜!今インストールすればいいじゃん!・・・他のマジック エンチャン トにどんなものがあるか見てみたいし!」
カツミ「まずは面倒くさがらずに”はじめてのかたへ”(取説:取扱説明書)を読 みなさい!」と注意した。
雅は「以後気をつけます。」と言いながらコクンとうなずいた。
雅「でも、ちょっとは教えてよ。」と笑顔。
カツミ「取説によると、基本1人で最大3スロットまでマジック エンチャント をダウンロード出来るって書いてあったよ。 基本的に1スロットっていうのは、[1回の”マジック エンチャント”のダウン ロード]時にダウンロード出来る、複数のエンチャントの集まりを言うらしい。 1スロットにダウンロード出来るエンチャントはLVや種類、一回にダ ウンロード出来るエンチャントの数も全部ランダムらしい。物によっては出現率が やたら低いものもあるって書いてあった。こうやって、複数ダウンロード出来るエ ンチャントを”複数発動”エンチャントって言うらしい。」
カツミ「だが、例外もあるらしい。雅のダウンロードした”雷化”っていうマジッ ク エンチャントは今見てみたら”単体発動”って書いてあったでしょ?この単体 発動ってのは、文字通り1回のダウンロードにつき一つしかダウンロード出来な い。単体のエンチャントでも十分に強力だからだ。しかし厄介なのは”単体発動” のエンチャントは強力な分、必要とするスロットが1つで収まらないものもあるら しい。実際に雅のマジック エンチャントを見てみよう。」
・雷化 (レア)[単体発動 必要スロット数:1]
カツミ「ほら、単体発動ってなってて、必要スロット数:1ってなってるで しょ? つまり、必要スロットが2のも存在するって言ってる。 もしかしたら、必要スロットが3つ全部埋まってしまうような強力なエン チャントも存在するかもしれないよ。」
雅「ふ〜ん。取説も捨てたもんじゃないね!」
「いや、読むの当たり前だから!」とカツミは冷静に突っ込みを入れた。
カツミ「取説読んでないんじゃ知らないだろうから教えとくけど、ダウンロード は1時間に1回以上出来ないって書いてあったよ。」
雅「え〜!ナニそれ。めんどくさいね。・・・ってか、LV(レベル)もランダム に決まるって事はLVアップとかって出来ないのかな〜。それじゃつまらないよ ね。」
カツミ「何度も言うようだけど、取説を読んでから喋って欲しい。・・・まあ、 LVアップが出来ないというわけじゃないらしいよ。エンチャントの中には同じス ロット内のエンチャントのLVをアップさせるものがあるって書いてあった。どう やってLVアップするのかは書いてなかったけど・・・。」
雅「つまり、そのLVアップさせてくれるエンチャントをゲットすれば強くなれ るってことね。・・・じゃあ、せっかく強いエンチャントが出て喜んだのにLV アップ出来ないって時は相当悩むハメになるね。」
雅・カツミ「・・・・・。」
カツミ「俺が気になっているのは、宮本武蔵のエンチャントの所にある”シンクロ 率”って項目なんだけど。つまり、本物の宮本武蔵の力の10.2%しか、今引き出せ てないって事だよね!?」
雅「シンクロって名前だから、つまりそういう事なんじゃない?」
カツミ「じゃあ、目指すは本物の強さを手に入れろって事になる。そこを目指そ う!」
雅「そうだね。シンクロ率が100%になったら、相当強いもんね!」
カツミ「ああ、それだけじゃないしな。魔法みたいな力もある。」
雅「そうそう!雷の力を持ってる宮本武蔵だよ!」と雅は目を輝かせた。
カツミ「なんか楽しくなってきたな。俺はやっぱり、一旦家に戻って、銀河図書館 ネットについてもう少し調べてみるわ。早く諸葛孔明様もダウンロードしたい し♪」と笑った。
そして、帰り支度を済ませると雅の方へ振り返り
カツミ「じゃあ、また明日学校でな!」と元気良く挨拶をして帰っていった。
一人になった雅はつぶやいた。
「目指すは100%かぁ!頑張るぞ。最強になるために!・・・でも、100%になっ ちゃったらどうするんだろう・・・。100%・・・。」
雅「100%を超えたらどうなるんだろう・・・? どうなるのかな・・・。」
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