20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:週末に見ていた夢 作者:空人

第1回   1
昨夜は、少々度を越してしまったらしい、最近は、歳のせいなのだろうか、
どうも酒が残ってしまうようだ。
もともと酒を飲むことにあれこれ理由をつけるタイプでは、ない。
だが、昨夜の酒は、少し違っていたようだ。

叫び出したい情念を酒瓶に吐き出し、コルク栓を叩きこんでは、みたものの、
あふれ出してくる思いは、とめどもなかった。

それでも7時に携帯のアラームをセットしてあるところを見ると、
「現実」というやつにはまだ、未練があるようだ。

バリバリと音がしそうな背中を、ベッドからひきはがし、
ダークスーツに袖を通す。
やっとの思いで、コーヒーだけ流し込んで、
あわただしく、腰を上げる。

キーホルダーのリングに指を引っかけ、テーブルからすくい取ると、
タバコと携帯をひっつかみ、スーツのポケットに放りこむ。

部屋のドアを一度振り返り、小さくため息をつくと、
勢いよく階段を駆け降りた。

書類の入った、会社の封筒を脇にはさみ、駅への道を歩き出す。
多分今日も、いつもと同じ歩数で、たどり着くはずだ。
すれ違う人の顔もいつもと同じ、何もかもが変らない。

満員の電車の中で、みんな、何を思って、

一人ぼっちの部屋では、何を悩むのだろうか?

車内の中刷り広告の中で、こぼれる笑顔を見せる彼女も
一人帰る部屋の隅で、膝を抱えることなどあるのだろうか?


月曜日の早朝会議なんて、一体だれが言い出したんだろうか?
まったく、どういうつもりなのか...

恐ろしく退屈で冗長な書類を、ぼんやりとめくりながら、
そんなことを毒ついてみる。
やたらと湧き出す、あくびがを噛み殺し、ミネラルウォーターをがぶ飲みする。

会議室の窓から見える、隣の生命保険会社のガラスに朝日が反射して、
やたらとまぶしい。
今朝も気分とは、裏腹に快晴といったところだ。

あたりまえのこと...
なんということは、ない。
昨日より、今日の方が、背負うものが少しづつ、増えていく。
ただそれだけのこと、

それは、しかたがないこと...


だけど今はもう、週末に見てた夢さえも、思い出せない。


あんまり、陽気がいいものだから、得意先に向かう列車を
知らん顔して、やり過ごした。

そして、反対側のホームに立つ。


線路をはさんで、後輩の営業部員が叫んでいる。

俺は、軽く手を振り、やってきた列車に乗り込んだ。

目がさめると、車窓の風景が、菜の花一色になっていた。

見知らぬ街の無人の駅に降り立つ。

潮風にやられたベンチに腰掛けて、足を投げ出し、空を仰ぐ。


あの頃の景色...過去がウインクしている。

そして俺は、置き忘れてきた、あの時を待つことにする。



陽炎の立つ、線路の果てにあるはずの、あの景色を。













次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 565