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作品名:感情 作者:ひるあんどん

第3回   みじめ
 数週間も経った頃、神無と私はよく話すようになっていた。どうやら彼の仕事先もこの辺りにあるらしく、売店や食堂がないため、お昼時はお弁当を買うためにスーパーくぼむらへと足を運ぶからだ。

 神無が来たら、同時にそれは私の休憩の時間でもある。

 「山本さん」

 相変わらずの好青年だ。よう、好青年と言ってやったら、やめてくださいよ、と軽く流された。私は彼に嫉妬しているので、つい嫌味に近いことを言ってしまう。その度に神無は悪意がない返事をしてくるので、私の心はもやもやしていた。

 神無の話はどこか人を惹きつける魅力があった。それは彼の穏やかな話しぶりに相反して、話す内容が実にどうでも良いことだからだったのかもしれないが。

 たとえば、こんな話を彼は真剣にしてくる。

 「山本さん、たとえばここに大きな金玉があるとしますよね? この金玉の主は当然これより大きいわけです。では、この主より大きな存在とは何なのでしょう。」

 前提からおかしい。好青年らしくない内容だ。しかし、神無はこれを真剣に話してくる。すると、内容がどうであろうと、こちらも真剣になるというものである。

 色々話していくうちに分かったことがある。

 私と神無は同い年だということ。
 彼は生まれてすぐに施設に預けられ、15歳までお世話になっていたということ。
 通常、施設は18歳まで居られるのだが、神無は自分から出て行ったのだと言う。横着したくない、と彼は言った。
 
 私は横着だなどと思わなかったが、彼は極端に他人に借りをつくるのをよしとしない傾向がある。そのため、10歳の頃からお金の稼ぎ方を学んだ。法律、マーケティング、お金の動き、心理学等々。本を読み、企業を訪問し、より実践的な稼ぎ方を学んだ。

 その結果、彼は自分一人だけであれば十分に暮らしていける知恵を手に入れたのである。
 最近ではその知識を見込まれて、企業に技術指導に行ったり、講演を開いているそうだ。

 同い年でこれほどまでに差が開いているのを感じると、嫉妬せざるを得ない。よりいっそう自分がみじめに思えた。 


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