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作品名:感情 作者:ひるあんどん

第2回   好青年
 彼と初めて出会ったのは3日前。ごく最近、スーパーくぼむらの近くにあるマンションに越してきたらしい。第一印象ではとても爽やかな好青年だ、と思った。それに加えて端正な顔立ちをしており、身長も高く、モデル体型であった。当然近所のおばさん連中の注目の的となった。

「あの人の名前は何て言うのでしょうね」

「何歳なのかしらね」

「ウヒヒかりんとう美味いぺろり」

 若干変な人も交じっていたが、とにかく誰もが彼に注目していた。それほどまでに彼は周りの人物の目を惹いた。それに加えて社交性もある。しがない一店員である私にも礼儀正しく挨拶をしてくれた。

「おはようございます、私は神無(かみなし)と申します。ええ――最近あそこに見えるオレンジ色のマンションに越してきたのですよ。ええ――部屋も広くて結構気に入っています。これから何度もこのスーパーを利用すると思いますのでよろしくお願い致します」

 不思議だった。彼は私だけではなく他の店員達にも私と同じように話をしていた。結局彼が帰ったのは全員と話し終えてからなので、約2時間後のことだった。通常であれば彼がとった行動は異常とも言えるが、なぜだか何も感じなかった。それどころか好印象を受けた自分がいた。とても不思議だった。

 羨ましい――と思った。彼のすべてが羨ましい。妬ましい。

 そしてこの感情は歯止めが効かなくなり、頭の中心にすっと落ちて留まり、消えようとしなかった。


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