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作品名:ホントになかった怖い話 作者:ウー・シンチー

第2回   2

第十一話『墓穴を掘った話』

 親友のTの親父さんが老衰で亡くなり、セレモニーホールで施行された葬儀に出席した時のこと。Tの菩提寺は日蓮法華宗の中でも位の高い大僧正格の坊さんが収める寺ということで、葬式の間、参列者の最後部に座っていた私は、頭巾を目深に被ったその大僧正の顔を拝むことができなかったのだが、葬儀が粛々と進行し無事閉幕を迎えたとき、進行役の葬祭業者の「只今よりT家の菩提寺である、○○寺のご住職様より、御講義がございます。今しばらくの間、ご静聴お願い申し上げます」という、おごそかな声と共に、祭壇からこちらに体を向けた大僧正のお顔を拝見してアッと驚いた。
 なぜかというと、コント赤信号の渡辺正行さんに瓜二つだったからである。その後およそ30分にわたって、お釈迦様の生涯や色即是空の意味などを説法してくださったのだが、まったくありがたみを感じなかったのはいうまでもない。
 さて、大僧正ということもあって、お布施を相場よりも奮発したTであったが、四十九日の法事で実家を訪れた住職が廃品状態なった仏壇を見て激怒。住職自らタスキがけをし、仏壇の大掃除をしたまではよかったが、離れて暮らすTの住居まで押しかけ、住職が懇意にしているらしい仏具屋から仏壇を購入させられ、朝晩欠かさずお題目を唱えるよう、レクチャー。さらに墓石の脇に据え付けられた石灯籠が少し傾いているとかで、「こういうところから、少しずつ幸運が逃げてゆくのです」と説教され、至急修繕されたし!との指導。
 仕方なしに墓石屋を呼んで石灯籠を直そうとしたところ、その下の地面が陥没、大穴が開き、祖父さんだか曾祖父さんだかの土葬時代の骨が出て来てしまい、その骨を火葬し直し、墓も全面改修して莫大な費用がかかったのであった。「墓穴を掘るとは、このことだな」後日会ったTが苦笑いして言った。

第十二話『ベンチ』

 山田台で中華料理店を営むYさんの話。ある日近くにある公園を散歩していた時の事、真新しい白いベンチが4つ並んでいるのを見たYさんは、自分の店の椅子が古くなっていたので、代わりにそのベンチを一つ調達しようと考えた。
 夜中に、店のライトバンで公園に乗り込んだYさんが、4つのうちの1つをライトバンに積み込み、店に戻ってテーブルの前に置いてみると、あつらえたように高さがピタリと合ったので、味をしめたYさんは、次の日も夜中の公園に忍び込み、3つ残っていたベンチの1つを盗んだのであった。
 その帰り道Yさんがライトバンのバックミラーをフト覗くと街灯に照らされた道路を、なにか白い物が猛烈な勢いで追跡してくるのが見えたので、振り切ろうとライトバンのスピードを上げたのだが、一向に引き離すことができない。「あれはいったい、何だろう」と、赤信号で停車した時に後方の物体をよく見ると、アスファルトの上を白いベンチが2つ並んでいた。
 どうやら公園の管理人が、盗んでゆけないようにベンチの脚を鎖でつなぎ、3つをひと続きにしたらしかった。もちろんYさんは3つとも持って帰り、店の備品に加えたのであった。

第十三話『釜爺』

 電車の中での話、夜八時過ぎ、総武線のほどよく混んだ車内で、小柄なお爺さんが酔っ払ってグダをまいていた。禿げ上がった額から深いシワが寄った顔にかけて、サルのような赤ら顔になっており、入れ歯を外した口をモゴモゴさせながら、そばを通る青年に「おい、そこの若いの、ちょっと俺の話を聞け。5分だけでいいから」などと、ろれつの回らぬ舌で盛んに呼びかけている。
 もちろん誰も相手にせず、早足で爺さんの横を通り過ぎていたのだが、そのうち、よせばいいのに学生風の真面目そうな青年が足を止めて、爺さんにつかまってしまった。ここぞとばかりに爺さんは「近頃の若いもんは……」などと、説教を始め、気のよさそうな青年は愛想笑いを浮かべて「ハア、ハア」などと、生返事をしながら頷いていたのだが、駅に停車した時、突然爺さんが「いい男!」と叫んで、青年の唇にブチューッと音を立ててディープキスをしたのである。
 それはおよそ10秒ほど続き、ドアが閉まる直前に爺さんだけ駅に降り立ち、発車した車内に取り残された青年は、ハニカミ王子のような純朴な顔に恥じらいの表情を浮かべ、周りの乗客たちの視線にさらされ続けたのであった。

第十四話『湿疹』

 2年ぐらい前から手湿疹になり、しつこい痒みに悩まされている。それも普通の症状ではなく、掻いた場所が硬く盛り上がり、掻けば掻くほどこぶのように大きくなってゆくのである。「ナントカ、カントカ」と医者は病名を告げたが、難しい病名だったので忘れてしまった。「なにか、原因になるような心当たりはありませんか?」と尋ねられたのだが、手が荒れるようなことはした覚えがない。
 しかし、よくよく考えたら一つだけ思い当たるふしがあった。ちょうど2年ほど前、早朝に強風が吹き荒れJRの電車が停まってしまい、いつもは利用しない京成線に乗り換えた事があった。出勤客で混雑する車内で、僕から三人ほど隣に位置する場所で、吊り革につかまった色白の美人が僕のことをジッと見ている。僕はよく、女の人から見詰められるのだが『俺に惚れちゃいけねえぜ(W)』、その女の人は僕と目と目があっても視線をそらそうとはせず、少し吊りあがったパッチリとした目で僕を見続けるのだった。
 キツネのように細面の真っ白な顔が、サラリーマンの黒いコートでごった返す車内で浮かび上がって見える。やがてその美女は、僕のことを見詰めたまま形のよい赤い唇に笑みを浮かべると、吊り革につかまっていないほうの手を自分の顔の所まで上げて、手の甲を口で噛み始めたのだ。手の甲一面には醜いイボのようなものがボコボコと点在し、その一つ一つから黒く硬そうな毛がまばらに生えている。その女の人の美しい顔とは似ても似つかないグロテスクな手を見たとたん、僕は目をそらし、そのまま駅に到着したので電車を降りた。あれから時が過ぎ、毛こそ生えないものの、女の人と似たような手になった僕は、痒さのあまり手の甲を歯でカミカミしたりしている

第十五話『口裂け女?』

これも電車の中での話、深夜喫茶に勤めていた頃、稲毛から最終の総武線快速の東京行きに乗ったら、津田沼からレインコートを着た背の高い女の人が乗り込んできた。ロングヘアーの水商売っぽい人で、ボックス席に座っていた僕の横で立ち止まり、顔の下半分を覆った白いマスクの上から覗くパッチリした二重まぶたの目で、僕をジッと見下ろした。僕はよく女の人から見詰められるのだが『俺に惚れちゃいけねえぜ(W)』その女の人は、最終電車でガラガラの車内だったにもかかわらず、僕の隣に腰を下ろし、体を寄せてきたのだが、話しかけるでもなく無言のまま前方を見詰めている。そのうち手を握ってきたので「どこまで行くの?」と話しかけたのだが、返事をしない。なんとなく魅入られたようになり、錦糸町で降りるつもりが終点の東京まで行ってしまった。東京に着くと、女の人は立ち上がってマスクを剥ぎ取り、青々とした髭剃り跡のついた口元を見せて「あたし、きれい?」と、男の声で言った。

第十六話『空飛ぶ婆さん』

 僕が小学生の頃の叔母さんの話。もともと家の近所に住んでいた叔母さんが、千葉市内に引っ越してから大分経つのだが、僕と同い年の従兄弟がいて、夏休みに泊まりにいったところ、ちょうどお盆だった時期もあって、夕食の時ビールでほろ酔いかげんになった叔母さんがこう言い出した。「シンちゃん、悪いけど家に帰ったら、あたしの代わりにカネダの婆さんの墓に線香と花を供えてきてくれないか」いきなりそう切り出されて僕は面食らってしまった。カネダの婆さんというのは、僕の祖母の姉であり、つまり叔母さんにとっては伯母に当たる(ああ、ややこしい)。
 100歳まで生きた人で僕が幼少の頃亡くなったのだが、認知症がかっていたせいもあり嫁や孫に疎ましがられ、ふた言めには「海の藻屑になっちまえ!」と罵られ、虐められていたらしいのだが、じつは叔母さんまで一緒になって虐めていたのだという。そのカネダの婆さんの夢をなぜか最近頻繁に見るようになったのだと。それは、こんな夢だそうだ。
僕の家の近所に凍坂(こおりざか)という、田園地帯から山中に続く広い坂道があるのだが、その坂を夜中に30人ほどの町内の人たちが列を作って上って行くのだという。その行列の中に叔母さんも混じっているのだが、坂の頂上付近に差し掛かった行列の前方にいる人たちが突如「ああっ、来た!来たぞー!」と叫び声をあげ始め、何事かと夜空を見上げると、白髪をなびかせたカネダの婆さんが、白装束をはためかせながら低空飛行して来て、逃げ惑う人々を見下ろしながらグルグルと空を舞い、叔母さんの姿を見つけると「ちょっとおいで〜、ちょっとおいで〜」と手招くのだという。
 その夢を見ている間は、死ぬかと思うくらいとても苦しいのだそうだ。「だから、頼むよシンちゃん。あたしの代わりに墓参りに行って来ておくれよ」真剣な顔で頼まれた僕が、もちろんそんな恐ろしい因縁がある人の墓に、近づこうとしなかったのは言うまでもない。

第十七話『オイデオイデ』

 父親の通夜の時、妹の嫁ぎ先の人々とセレモニーホールで一晩明かしたのだが、その時に聞いた妹の旦那のお兄さんの話。深夜の三時頃、千葉のY市内の川に船を浮かべ夜釣りをしていたところ、葦が茂る川原の上に設けられた遊歩道で、近所に住む奥さんが子供二人を連れて、こちらに向かってオイデオイデをしていたのだという。三人とも髪や服がビッショリと濡れており、周囲は真っ暗なのに、その三人だけスポットライトを浴びたように明るく照らされていたのだと。
 気味が悪くなったお兄さんがすぐに家に帰ると、その母子三人が川の上流で入水自殺しているのが発見され、町内は大騒ぎになっていたのだという。
 後日その話を、あらためて確かめたところ、オイデオイデをしていたのは奥さんではなく、子供たちだったのだと訂正された。「奥さんは、子供たちの真ん中に立って、両手に子供たちの腕を握っていたので、オイデオイデをできるはずがない。母親に手をつながれた子供たちが両脇で、残った方の手でオイデオイデをしていたのさ」とお兄さんは語った。

第十八話『ネコ』

猫は超常現象に敏感で、魔物を祓うという言い伝えもあるが、僕もアメリカンショートヘアーを一匹飼っていた。夕方昼寝をしていた時、金縛りに遭い薄暗くなった部屋の隅に奇妙なものを見た。それはピンク色の子供布団を被った赤ん坊の姿で、小さな掛け布団の端から短い手足を出し、ジタバタと暴れているのだった。しかし、その手足をよく見ると萎びたように細く筋張っており、顔はシワだらけの白髪頭で、赤ん坊ではなく小さな老人なのだと気づいた僕は、枕元で寝ていた愛猫に助けを求めたのだが、猫はいっこうに起きる気配がなく、僕は自力で金縛りを解いたのだった。老人の姿が消え、自由を取り戻した僕が枕元の猫に視線を移すと、何事もなかったかのようにスヤスヤと眠りこけているのだった。

第十九話『ネコその2』

 愛猫が子猫の時分、よく僕の上に乗ってきて胸をフミフミすることがあった。それは授乳期の記憶が残っていて、母親のおっぱいを前足と後ろ足で踏みほぐしながらお乳を吸っていた時の名残りだといわれており、微笑ましい行動だと思っていたのだが、ある日の晩、金縛りが起こっている僕の胸に猫が乗ってきてフミフミし始めた。
『おいやめろ、こんなときにフミフミしている場合じゃないだろ』と思ったのだが声も出せず、首も上げられないので、胸に乗っている猫の姿を見ることもできない。そのうちパジャマの上から爪まで立ててきたので『イタタタ、やめろやめろ』と思ったのだが、まもなくおかしなことに気づいた。
 爪は両胸と下腹の4ヶ所に立てられているのだが、体の大きさから考えて、子猫が四肢を目いっぱい広げたとしても、胸の上の子猫の後ろ足が下腹まで届くはずがないのだ。そう気づいた瞬間、胸と下腹ばかりか両腕と両太股8ヶ所同時に、巨大な爪が食らいついてきたような痛みが走り、思わず僕が飛び起きると、子猫は枕元でスヤスヤと眠っているのだった。それにしても、痛みまで感じた金縛りは初めての経験だった。

第二十話『ヤギさんいますか?』

 20年ほど前、ホイチョイプロダクションが雑誌に連載していた漫画に、上野動物園に「セイウチさんいますか?」と電話を掛けさせる悪戯が載っていて、それを実行したことがある。
 手口の詳細はこうだ。当時、僕が勤めていた船橋西武のコーヒースタンドのすぐ後ろにアイスクリーム屋があり、一休というあだ名のハタチくらいの青年が店長をしていたのだが、彼が休憩に行っている間に、千葉動物公園の電話番号を書いたメモ用紙に『八木様よりTELあり、至急電話されたし』と伝言を添え、アイスクリーム屋のレジに貼り付けておいたのである。
 当時開業したばかりの千葉動物公園は、めぼしい動物がおらず、子ヤギやウサギなどが自由に触れる『子供動物園』というのがウリであった。休憩から帰ってきた一休さんがメモに記されてあった番号に電話すると、「はい、千葉動物公園です」と女の人が応答してきたので、その時点でだまされたと悟ったのだが、念のために「八木さんいますか?」と尋ねたところ「八木という者はいませんが、八木沢という人物ならおります。代わりますか?」と聞いてきたので、慌てて電話を切ったのだという。




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