おおむね晴れるという天気予報はあいまいだったが、今日はその通り晴れ渡っている。 現在、朝の7時を回ったところ。春を間近に感じる季節だが、この時間帯はまだまだ寒い。4月の風は時折、立っていられなくなるほどの野太い突風を生む。 大通りから少し細い道を辿り、都会の喧騒をやや遠めに見ながら俺の店、色々と収入的な問題を解決するためとかその他もろもろの事情により朝までやってる喫茶店「たんぽぽ」が見えてくる。 マスターである俺の今日の仕事は、この買出しでやっと終わる!まぁ、言うほど疲れている訳じゃないが、仕事が終わりに近づいてくるとなんだかちょっとテンションが上がったりするもんだ。 さてと、なんやかんやでメイド…じゃなくてウエイトレスの娘もなれてきたし、もうちょっと仕事を増やしても大丈夫だろう。……そもそも忙しいときなんてあんまりないし。 両手に持ったお腹いっぱいのビニール袋がカサカサとこすれる音。 中身はこれと言って壊れ物はない。時々汚い壁なんかにぶつかるが、さほど気にせずに歩いている。 朝7時。この辺一帯の住人はまだテレビの前でゴロゴロしている。そんなこと百も承知だから、突然目の前に現れたそれに、一瞬おばけか怪物かモンスターか、や、やばい!得意な大剣を持っていない!いま持っているのはショボイビニール袋の双剣だけだ!それにこんな狭い路地じゃ立ち回れず、前方からの一撃を回避することができない。ましてやガード機能がないから、まともに喰らうしかない! くそっ――。 「なに険しい顔してるんですかマスター?」 ほんにょり柔らかい声…。「ん?」と我に返り、前方の正体不明にまぶしくもないけど手をかざして目を向けた。 「あ」とか、「んあ」とかどうでもいい声が出る。 「買出しメモに書き忘れていたものがあったんで、…何度も電話したんですけど出ないから、ちょっと出てきました」 「あっ、そ、そうなの…」 ここでまた、あっ、とか声を出して思い出したことがある。 携帯って…、店に忘れてきたなんだよな。一度店に電話しようとして見当たらず、カウンターの下の方の自分の定位置にマナーにして放置していた事を思い出したんだっけ? それだったら電話に出れない。出れなくて正解。出れるわけもなく、逆に出ちゃだめだ。 俺はこのちょっとした脳内狩人暴走を何とか自分なりに閉じ込めようとがんばった。 「そ、それで?買出しの追加ってなに?」 「あ、はい…。えーっと…」 もう私服に着替えている目の前の元メイド…じゃなくてウエイトレスは、顔の前に下りてきた髪をそっと指で耳に上げた。 うお…!いっこ下の20歳。なかなかかわいいじゃないか、なんて感情を絶対に知られたくないから俺は全力全開で心を浄化する。 少しだけ目をずらして目の前の娘、「すみれ」ちゃんからの言葉を待っていた。 けど。待っていた言葉は来なくて、代わりに聞こえてきたのは…… ピリリリリリリリ―――。なんて携帯みたいな音だった。 「えっ」と見上げると、すみれちゃんは小首をかしげて俺を見ていた。 「ど、どうしたの?」 「あのー。マスターから電話です…」 耳の奥がなにやら嫌に熱くなる。じっと…、硬直する感触の頭を一度だけ横に振って、って…。え?あれ?今なんて? 俺、ここにいるけど。当然携帯なんて持ってないけど…。 「い、一回お店に帰ります?」 「う、うん!」 すみれちゃんに言われるまでどうすればいいのか分からなかった自分が到底情けないけど、それどころじゃない。 「一度帰ろう」 俺は二人で駆け出した。何か背筋を上る感触があったが、ゴクリとのどを鳴らして押さえつけた。 なんなんだよ。どうなってるんだよ。これはちょっとファンタジー?じゃなくて現実味があると、もうホラーだな…。
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