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作品名:石田村のけんちゃん 作者:晴夢

第16回   カレー雑炊の思い出
森谷茂という者じゃ。68才で妻のサエは1つ年上さ。
わしが大工をやってた頃、棟梁のお嬢さんと良い仲になってね。
許されないことだから逃げて来たんだよ。今はただの百姓だ。
ああ、それと山羊を飼っている。山羊の乳は濃くてうまいんだ。チーズも絶品さ。
けんちゃんにはよくふるまっているよ。
けんちゃんのことかい?特に思い出なんかはないね。とっても良い子で、働き者だ。
また器用で色々なことを覚えるのが早いんだ。学校に行かないのがもったいないな。
村人全員が家族だから、村の情報に詳しいよ。どこの誰が、何が足りなくて困ってる。
でもどこの誰かはその何が余っていて困ってる。
そんな情報をぱっと掴んで教えてくれるんだ。だからみんな会館に相談に行くんだ。
夜なら大抵会館にいるからけんちゃんに直訴に行く。
もっともけんちゃんに相談する前にそこで鉢合わせになった者同士が話し合って解決する場合もある。
けんちゃんには家族に対する親しみやすさで相談できるし、けんちゃんも親身になって考えてくれる。
どんなことを相談するって?例えば農作物の分配についてとかね。
けんちゃんが口を利いてくれるお陰で、作物を捨てるとかいうことがなくなった。
こんな小さな村でも片方では余っている野菜も、もう片方では全く手に入らない。
そのバランスをとってくれるのがけんちゃんなのさ。
あと、手伝いの問題だね。どこどこの畑は作業が遅れている。人手が足りない。
薪が足りない。土起こししたい。草刈したい。草取りしたい。堆肥を入れたい。
大根を洗って干したい。色んな仕事があると思う。
そういうのはお互い手伝ったり都合をつけたりして助け合うと良いもんだ。
そういうことをけんちゃんが口利きしてくれるんだ。
そしてけんちゃん自身が引き受けてくれることもある。
それとけんちゃんと一緒に食事をするのを楽しみにしている人たちもいる。
その日によって違うグループが会館に集まって、料理を持ち寄って会食するんだ。
また会館で共同炊事をする場合もある。
それらの会食には必ずけんちゃんを入れるようにしているんだ。
そこでも色んな情報が集まる。
けんちゃんの存在でそういう情報がみんなに流れやすくなるのさ。
まあ、そんなとこだね。
けんちゃんが怪力だとか、運動能力が異常に高いとか、よくそのことだけが問題にされるけれど、そんなことはけんちゃんのごく一部の特徴に過ぎないと思うな。
実際、わしの場合はけんちゃんの思い出といえば、楽しく一緒に畑仕事した思い出とか食事をした思い出だな。
そうそう朝御飯に冷ご飯しかなかったとき、けんちゃんがカレー雑炊を作ってくれたことがあった。
わしもうちの奥さんも雑炊は好きだが、カレー味なんて食べたことがないからびくびくものだった。
けんちゃんは冷ご飯にカレールーを入れて水で煮ると餅を刻んでとろみをつけた。
それが結構いけるので、今でも時々家で作ってるよ。
まあ、思い出ったってそんな大袈裟なことじゃない。カレー雑炊だよ。
それじゃあな。


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