私は鈴木道子76才。主人の達也は79才。 きょうはけんちゃんが来るようになってからちょうど1年目になる。 私は1年前の今日のことを今でも忘れない。けんちゃんはとっても働き者で大人の何倍も力があると聞いていたので、すごく楽しみにしていた。 あの日、主人は薪にしたい丸太や切り株をかなりの量積み上げた。 「俺が若い頃でも、これを全部薪にするにはまる3日かかったろう。 今じゃ手余しして手付かずだ。節が多くて、太いから俺じゃあ割れないものばかりだ。 これを全部割ってくれたら、本当に助かる。」 私はけんちゃんが来たら一緒にゴボウ掘りをしようと思っていたので、口を尖らせた。 「あんた、そりゃあずるいよ。それじゃあ、あんたが私と一緒にゴボウ掘りをしてくれるのかい?」 「そりゃあ、仕方がないさ。ゴボウ掘りなら俺でもなんとかできる」 「どうだかね。去年腰が痛いからって、途中で投げ出したじゃないか」 そんな話をしているうちに、けんちゃんがやって来た。だが、どうも様子がおかしい。 顔色が蒼くて玄関に入って挨拶している途中でへたりこんでしまった。 「ど……どうしたの、けんちゃん? いつから具合が悪いの」 「ここに来る途中で急に目まいがし始めて、息苦しくなって……」 それからが大変だった。坂野さんにそのことを告げると、村人がどんどん集まって来た。 9日の当番の森山の奥さんが目を三角にしてやって来ると、自分が病院に連れて行くと言った。 「この間連れて行ってから1週間経っていないのに! 皆さん、酷すぎます」 私は何がなんだか分からないで、森山さんの怒りをそのまま受け止めていた。 坂野さんの車に森山さんの奥さんがけんちゃんを連れて乗った。けんちゃんは結香ちゃんの服を着せられてそのまま青陸町の診療所に直行した。 一応うちがが当番なので家に連れて行って寝かせることにしたが、それもすんなりとはいかなかった。 森山さんの奥さんがけんちゃんを自分の家に連れて行って寝かせると言ってきかなかったからだ。 それも坂野さんの再三の説得でようやく家で寝かせることになった。 私は奥にけんちゃんを寝かせると、お昼用におかゆを煮た。 主人は薪のことを残念そうに言った。私は怒った。 「そんなことは来月でもいいじゃないの。ゴボウ掘りも明日にするわ。けんちゃんの看病をしてあげないと、可哀想だから」 「じゃあ、俺は川魚を釣って来て、塩焼きにして食べさせてやろう。 島田さんのところの元太の散歩をさせていたのを見たが、あれのせいかな」 「私が聞いたところじゃ、森山さんのところではけんちゃんを働かせずに休ませて遊ばせたそうだよ。休みなしに手伝いさせたら可哀想だって」 「でもそれじゃあ、寄り合いで話し合ったことと違う扱いじゃないか。あの子に少しでも仕事を覚えてもらおうとみんなで決めたことだ。何故自分のところだけ例外にするんだ」 「でも、大人だって休みがあるのに、けんちゃんにはないじゃない」 「それじゃあ話し合いのときにそう言えば良かったんだ。手伝いして色々なことを覚えたいっていうのはけんちゃん自身の希望でもあったんだ。 坂野さんは本人の意思を尊重しようって、みんなに言ったんだから」 「とにかくあんたがその調子で言ったら、喧嘩になるから、今夜の寄り合いは私が行くから」 「わかった。だけれど、やんわりとでも良いから、手伝いを休ませる日も輪番にするようにしてくれよ。それと、かかった病院代だけれど、分かってるな?」 「はいよ、森山さんだけに負担させずに村全部で出し合おうって言えば良いんでしょう?」 その晩の臨時の寄り合いは坂野さんの家に入りきれないほど人が集まった。 なにせ一軒で一人だけ集まるのが通例なのに、月前半の当番の家で夫婦揃って顔を出したりするものだから溢れ返ってしまったのだ。 結果、1軒で1人の私が座れずに土間で立って話を聞くことになったのだ。 「お医者さんは、過労と精神的ストレスが原因だろうと言ってました」 森山さんの奥さんは相変わらず目を三角にしたまま村の皆に言った。 「それと5日前の11日に熊と格闘してあちこち打撲したり怪我をしたところが全く跡形もなく治っていたので、怪しまれました。 先日来たのは双子の片割れかとまで言われました。それは良いのですが、ちくりと嫌味を言われました。 どうしてこんな小さな子が全身に怪我をしたり、過労やストレスで倒れたりするのかと? まるで私が虐待をしているかのような扱いです。 この間のは野山で遊んでいるうちに崖から足を滑らせて落ちたということで誤魔化しましたが、今回は農作業の手伝いを張り切りすぎたと言うことにしたんですが。 それでも一体どこの家でそんなに働かせたのでしょうか?」 そして森山さんは、私をちらっと見てから昨日の当番の島田さんのご夫婦を睨みつけました。 私は慌てて言いました。 「家に来た途端倒れたんですよ」 すると皆は島田さんの方に一斉に目を向けた。 島田さんの奥さんは首を横に振って言った。 「元太がけんちゃんに降参したので、散歩を頼んだんです。家の人が転んでから連れて行ってなかったもんだから。 でも、疲れたのは家の元太で夕方まで寝ていました。そのときけんちゃんはけろっとしてましたよ、本当です。 それから坂東さんのところにちょっとお使いに行ってもらったり、枝豆の鞘取りとか新聞紙を束ねるのを一緒にやってもらったり、そうそう換気扇の分解掃除を主人と一緒にやってくれました。 でも全然元気でしたし、食欲もあったし、3人で並んで寝て色々な話しをして楽しかったんですよ。ぐっすり寝たようでしたし、朝御飯も普通においしそうに食べてくれました。」 それを聞いて斉藤清さんが言った。 「その程度ならけんちゃんが特に疲れるとは思えないな。元太の散歩がどんなものかちょっと分からないが、熊を半殺しにするほどの力を使ったとも思えないし」 すると今度は皆が、その更に前日の当番の坂東さん夫婦の方を見た。 今度は順番にけんちゃんがどんな手伝いをしてくれたかそれぞれの家で発表し始めた。 斉藤さんも自分の分の機械運転のしごきを発表した後言った。 「森山さんは手伝いをさせていないからわからないかもしれないが、けんちゃんの能力は大人でも追いつかないほどのものなんだよ。 あんたのところは結香ちゃんと遊びに行かせて、蝶々を手づかみで取ったり、スズメを石で打ち落としたくらいしか知らないだろうけれど、それだってこの村の大人が真似できることじゃない。 けんちゃんのことを心配して優しい気遣いをしてあげる気持ちは十分わかるけれど、あの子の意欲を削ってしまいたくないんだな。 今回のことは、確かに疲労が溜まったかもしれないが、そうならないようにこれから話し合った方が良いと思う。 これで手伝いを一切やめさせて、どこの家でも遊ばせるということにはならないと思うんだ。」 森山さんの奥さんは少し興奮を抑えたらしく、ゆっくり喋った。 「確かに皆さんの話を聞いて、けんちゃんにはそれだけの能力があるということは分かりました。 でもね、その能力ってものを利用するだけで良いのでしょうか? けんちゃんには一体何が残るって言うんですか? 皆さんから感謝されて、それでお終い? あの子は人が良いから、それでも十分喜んでくれるかもしれませんが、それじゃあボランティアの強要じゃありませんか。 まるで昔の小作人か農奴みたいで、馬車馬のように働かせて利用しているだけ。 村の子供とかなんとか言って、皆から愛されているような印象を受けますけれど、これじゃあまるで村の道具じゃないですか」 「そりゃあ、あんた言いすぎだろう」 鉄砲撃ちの山本さんが重い口を開いた。だが、喋り出したら止まらなかった。 「確かにけんちゃんのお陰で雄の鹿も猪も仕留めることができた。 人食い熊も殺せた。それは6才の子供には残酷なことで、本人がもし嫌がったなら強制する積りはない。 だけど、じゃあ俺に他に何を教えてやれと言うんだ。俺は獣を殺すことしか知らない。 坂野さんは言った。生活する力を身につけさせてやりたいと。だから俺は俺なりにここで食べて行けるやり方を教えた積もりだ。 ちゃんと大人なみの分け前も与えている。あんたたちにあげたことはないけれど、保存用のジャーキー肉をけんちゃんの分よけてある。 だからみんなもそうすりゃあ良いんだ。 けんちゃんの働きに応じて、物でもなんでも良い。褒美を上げれば良いんだ。 別にお金でなくたって良い。ここでお金を使う必要はないからな。 逆に森山さんに聞きたい。あんたのところで遊ばせるとということは、自分だけ良い人で俺たちが悪者ってことかい? それじゃあ、あんたはけんちゃんを働かせない代わりにただ飯を食わせてやるってことかい? あの子はそんなことを望んじゃいないよ。それは却ってあの子のプライドってものを傷つけることになる。」 「そ……それは」 森山さんの言葉が詰まった。 そのとき1日の当番の清水さんのご主人が発言した。 「それについてですけれど、私はお二人の意見がどちらも正しいという気がしているんです。お二人ともけんちゃんのことを思ってのご意見だと思いますから」 皆が清水さんに集中すると、清水さんは話し始めた。この人は夫婦で数年前にここに来た人だが、以前は何をしていたのかあまり知られていない。 「森山さんの意見ですが、世界には児童憲章というのがあって、児童を不当に労働させてはならない、という決まりがあります。 そして教育を受けさせる義務が我々大人にはあることも確かです。 でも戸籍のないけんちゃんは学校には行けない。特別措置で行くことができたとしても悪人達に見つかれば、ただではすまない。 だからけんちゃんには村の皆さん知恵の全てを授けて、学校に行けない代わりに1人でも生きていける逞しい力をつけてやろうということになったんですよね。 実際けんちゃんはその力をどんどん身につけています。その学習能力は驚異的です。 だから私は村の皆さんが決めたこの方法で良いと思うのです。けんちゃんが今日倒れたことについては、確かに森山さんの言う通り休みが少ないせいです。 けんちゃんはまだ自分の体力の調整の仕方が分からないと思うのです。 普通の子のようにすぐに疲れを自覚しないというか、集中力がありすぎて気づかないのです。 だから一週間に1日は手伝いのない日を作ってはどうでしょうか? まあ、本人がそれで納得するとは思えませんが、無理にでもそうした方が良いと思うのです。 今日の鈴木さんがたまたまそうなりましたが、1軒の家にそれが集中することのないように、少しずつずらして行って平等に行き渡るようにシフトを組んでみてはいかがでしょうか? 森山さんのところでは今月休ませたみたいですから、来月はお手伝いを頼んで貰う様にしてはいかがでしょうか? それとお手伝いをしたときに、僅かでもいいからポイント制にしてけんちゃんに褒美が与えられるようにしてはいかがでしょう? 例えばお金でも良いと思うのです。山本さんのように分け前を上げるのも良いと思います。 それならけんちゃんも無償のボランティアをすることにならないと思うので。 それから、けんちゃんの病院代ですが、森山さんに払って頂くのは気の毒です。 けんちゃんが自分で払えるようになるまでは村のみんなで負担するように基金を作りませんか?」 そこまで喋ると清水さんは言葉の調子を変えた。更に穏やかに低い調子で続けた。 「これはたまたま分かったことですが、けんちゃんはひらがなとか数字とかは読めるみたいです。そのうち書き方も覚えると思います。 どうやら子供達に教えてもらっているみたいです。でも驚異的なのは自分の文字を持っているということです」 それには皆が驚きにざわめいた。 「よく自閉症児が自分だけにわかる文字を書くということを耳にしますが、けんちゃんの文字は実にシンプルで模様のようなマークの集まりです。皆さんは見たことがありませんか?」 すると石崎諭さんが手を上げた。 「そう言えば、俺が石田村の歴史を教えているときに紙に落書きをしていた。何か模様のようなマークを並べていた」 「そうです。それがけんちゃんの文字なんです。 あの子は自閉症児でもなんでもありませんが、耳で聞いたことを記録するために一種の速記文字のようなものを持っているんです。 それがサーカス時代、偶然自分で考え出したものらしいのです。 あの子自身は相当記憶力が良いので、最低限の知識をマークにして書きとめておけば、後になっても聞いたことを思い出すことができるのです。 だからけんちゃんは毎日日記をつけているのと同じことをしているらしいのです。 覚えたことを確実に忘れないように、あの子なりに必死になっているんですよ」 私も含め村の皆は思わず感心して唸った。 山口牧場の爺さんが独り言のように呟いた。 「けんちゃんはこの石田村の知恵袋だな。いや、きっとこれからそうなる。生き字引だよ。わからないことがあればけんちゃんに聞けば大抵のことはわかるに違いない」 「でも、そのことに関しては『しばり』がありますね」 そう言ったのは若井悟というお爺さんだ。80才くらいの独り暮らしの老人で、確か26日頃の当番だったはずだ。 「けんちゃんが村のみんなの家に泊まり歩くときに、あちこちで各家庭の秘密を喋られたら困るから口止めしているだろう? 簡単な話し、各家庭の得意料理の作り方は喋らないように口止めしているし、他所の家の悪口などはたとえ聞いても決して喋ってはいけないとか、何項目かそういうのがあったろう? わしはそれが一番のストレスの原因かなと思ってるんだ。あんな幼い子に秘密を守らせるのは酷な話しだ。大人世界の閉鎖的な気性を、子供に押し付けるのは残酷だ。 だからどうだろう?これからは石田村の各家庭の得意料理をけんちゃんに伝授してそれを村中に広めてもらうってのはどうだろう? それから悪口は本人に直接言うようにして、けんちゃんの前で絶対陰口はきかない。それを破ったら罰金をけんちゃんに払うというのはどうだろう?」 「一体一回の違反でいくら払えば良いんだね?」 松本キミさんという婆ちゃんが聞いた。若井さんは言った。 「1回につき100円てのはどうだろう」 「じゃあ、1ヶ月もしないうちにけんちゃんは大金持ちになるね」 村の皆は大笑いした。それで話を坂本さんがまとめてくれた。 「すでに清水さんがうまい具合にまとめてくれたんですが、その後のことも含めましてもう一度確認したいと思います」 坂野さんはとっても若いけれど、石田村の頭領の血筋なので皆は従っている。 その結果、けんちゃんは1週間に1日は休む日を決めることになった。 その日の当番に当たった家では、けんちゃんに手伝いをさせてはいけないことになった。 また、けんちゃんのお手伝いに対する謝礼の額もこと細かく打ち合わせて決めることと成った。 何よりも私たちにきついことは、村人への悪口罰金制である。これもどの程度の陰口が対象となるのか、細かく話し合った。
私が家に戻ってみるとけんちゃんは起きていた。そして話し合ったことをけんちゃんのいるところで主人に伝えると、けんちゃんはとても喜んだ。 「よかった。僕、いつも秘密を守るのに我慢していたんだ。僕これからは堂々と教えて良いんだね。だって色々な良い話を喋りたくてしょうがないんだもの」 そして休みについてはちょと笑いながら言った。 「そう決められても、僕はきっと動き回ると思うよ。それにお手伝いを頼まれなくても、何をしたら良いのかなんとなく分かるようになったから、きっとすると思う」 私はうんうんと頷いて、けんちゃんに逆らわないようにした。 そして就寝時間になったら無理矢理でも寝かせた。けんちゃんは布団の中で色々と喋っていた。 それは半月間に廻った家々の様子を楽しそうに話すのだ。 それを聞きながら私は眠ってしまった。 私は翌朝薪を割る音で目が覚めた。起きて行くとけんちゃんは殆どの薪を割り終わっていた。 それだけじゃない。いつの間にか掘り出したゴボウを庭に積み重ねていた。 「ごめんなさい。寝ているとき、おじさんやおばさんの話し声が聞こえたもんだから、これやってほしかったのかなって」 そう言うとけんちゃんはにっこり笑った。その笑顔は抱きしめたくなるほど可愛い笑顔だった。
それ以来けんちゃんは毎月来た。来るたびに色々なことを教えてくれて、色々なことを学んで行った。 けんちゃんは格安のアルバイトもするようになった。冬の雪かきだ。主要な通り道は除雪車で除雪してくれるが、家の周りは自分たちでしなければならない。 それをけんちゃんは手でやってくれる。それも短時間でぱっとやってくれるから大助かりだ。 それと安い値段で保存食も売ってくれる。ジャーキー肉は鹿や猪のものを主人の酒のつまみ用に買うことにしている。 若井さんのところで漬ける野沢菜の青菜漬けと同じものをけんちゃんは自分で漬けて小袋1つで幾らと言う感じで売ってくれる。 これは細かく刻んでご飯にかけて食べるとおいしいので、いつも私が買う。 その他はキノコの乾燥させたものとかも売ってくれる。赤南蛮の干したものを糸で吊るした状態で売ってくれることもある。 だが、けんちゃんは熱心に商売はしない。困ったときとか本当にほしい物があったとき、相談すると大抵持ってきてくれて、申し訳程度のお金を受け取る。 沢山あげようとすると断る。 けんちゃんにとっては村の全員が親同様家族同様だから、必要以上に受け取りたくないのだそうだ。 また、けんちゃんは農作業のこつは1年間ですっかり覚えたみたいで、種を蒔く時期や苗をポットに移したり地植えするタイミングなど、こちらが逆に教えられたりした。 また作ったことのない野菜も勧められて一緒に栽培したり、そのコツを教えられたりした。 農家だからなんでも作れるというわけじゃない。得意不得意がある。それを埋めてくれるのがけんちゃんのような気がする。 それが他の家でも同じことがあるらしく、石田村全体としての生産が高まったと寄り合いでも報告された。 けんちゃんが村の予算で草刈り機を支給されると、当番の日を無視して村中の草を刈って廻る。 刈った草はそれぞれの土地の決まった場所に積み重ねられて、牛糞と一緒に混ぜられ良質の堆肥になる。 村のあちらこちらにある雑木林の枝打ちはけんちゃんが専門に行って、刈った柴は林の隅の日当りの悪い所に集められる。 けんちゃんは言う。 「これを焚きつけにしても良いけれど、放っておけばやがてキノコが生えてくるかもしれないよ。 そうしたら採ったキノコを食べた後、余ったら干しておけば、いつでもキノコご飯が食べられるもの」 けんちゃんは落葉茸やナラ茸やシメジを見分けて大量に採って来ると、村中に売って廻る。売れ残ると佃煮にして売り、残りは秘密の場所で乾燥させて保存する。 そしてそれを冬季になって売って廻る。実に合理的に考えていると思う。 そうやって稼いだお金は矢張り秘密の場所に蓄えてあるらしい。 秋の収穫祭のお祭りのときには、けんちゃんが出店した。 その内容は村人の意見を聞いて出しているので、人気がある。 鹿糠さんの納豆と豆腐。押切さんのトンカツ。宇佐美さんのトマトソース。松本さんの乾燥蕨。東条さんの蜂蜜。遠藤さんのソバツユ。徳成さんのカステラ。島田さんの味噌。斉藤さんの三升漬け。などなどをけんちゃんが売るのだ。 売りあげの一割はけんちゃんに渡されるらしく、本人は張り切って売っていた。こういうものを祭りで売ることは今までやっていなかったが、けんちゃんの発案で始めたことだったのだ。 さて私は暮れになるとタイ菜の粕味噌漬けとタクアン漬けをするが、これがとてもけんちゃんのお気に入りだ。 漬けるときは当番の日に関係なく、けんちゃんが来てくれて一緒に作業を手伝ってくれた。 それと寒い冬のときにも樽から漬物を出してくれたりするのを手伝ってくれたりする。 手が冷たくて真っ赤になっても、けんちゃんはニコニコ笑っているのだ。 そういうけんちゃんを見てると本当に可愛いと思う。 けんちゃんは当番の日でなくてもときどき顔を覗かせることがある。 それは他の家でも同じらしく、けんちゃんは村全体を自分の家族だと思ってくれているためにそうなんだと私は思っている。 ときどきいつの間にかサボっていた草取りが終わっていたり、薪が割られて積んであったりすると、けんちゃんがやっていってくれたんだと胸が熱くなる。 「けんちゃんは石田村全体の座敷わらしみたいな存在だね」 私が主人にそう言うと、主人は大きく頷いた。 「そうだな。それを通り越して福の神だね」 村の寄り合いでも、けんちゃんのことを話題にすることが増えた。なぜかと言うと、その話題だと皆が共通に関心があるので、話が弾むからだ。 私はけんちゃんが来ることになっている毎月の16日が本当に楽しみだ。
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