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作品名:おめでとう・・・とは建前で 作者:いさき奈那

第1回   1


 長い事、ずっと想い続けた人が居た。
 
 漆黒の髪と、黒い瞳と、少し日に焼けた肌が健康的な人だった。

 出会ったのはもう随分と前。

 気が付いたら傍にいた。

 そこに居て当たり前の存在で、居なくなるなんて想像もしなかった。

 
 いつの日か、こんな日が来るって分かっていた。

 それでも、来たとしても大丈夫。だって恋人が居るのは知っていたから。

 ずっとそう想ってた。

 その人が幸せになれるなら、私も幸せだって思ってた。

 でも・・・現実はほど遠かった。

 
 誰が見ても一目でなんだか分かる、その厚手の封筒。

 葉書は特別に出来ている、ハートを模った鳩か何かのイラスト。

 並んでいる二つの名前。式場。日時。

 時が止まった。

 誰が結婚するのか分からなかった。

 でも、その名前には見覚えがあったし、私の心を抉った。

 放心状態になった。
 
 仕事中でも暫くは身が入らなかった。

 そして、我に返った頃、涙が止まらなかった。

 
 あぁ、私はこんなにもあの人の事が好きだったんだ。

 泣ける程想って居たんだ、と、痛感した。

 今までの失恋とは訳が違う。

 本当に好きな人相手に失恋するって言うのは、こういう事なんだ。


 失恋して涙するなんて、初恋の相手依頼久しぶり。

 しかも今回の相手は、想っていた期間が長すぎて、長すぎて。

 最早、他人では無くなっている位、私の中に住み着いていた。

 まぁ、私が勝手に想っていただけですが・・・。


 立場として、勿論おめでとうって言うべきで、喜ぶべきで。

 勿論、嬉しいとは思っている。

 ずっとあの人を支えてくれた人との結婚だから。

 でも、そんな奇麗事ではすまない。

 ずっとずっと、あの人が結婚する時が来たら、それは私にとっても

 幸福の訪れる時。幸せな時、って想っていたのに。


 なんでこんなに涙が出てしまうんだろう。

 思い出すだけで泣いてしまうんだろう。

 明るい曲を聴いているのに、涙が出るんだろう。

 もう、訳が分からない。

 これが人を好きになるって事だったんだ。

 長い事生きてきて、初めて知った気がする。

 辛いけど、それを教えてくれた大切なあの人に。

 面と向かっては言えないけれど

 おめでとう!幸せになって。

 ずっと、大好きでした。特別でした。

 私も早く恋人を作って、貴方に手紙が出せるように。

 笑顔で貴方を見られるように。

 今までありがとう。

 


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