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作品名:アンジエロ 作者:七藤四季

第7回   その日
 ミーセと会ってから大分経っていた。その間僕は二度試合をした。こうして生きているということは無事勝つことができていた。アッズは人数が多いためか、試合の日が格段に多い。でもその人数の多さによって自分が当たることはほとんどない。アッズでも、その日試合を行うのは大体100人くらいで、これはどのクラッセでもあまり変わらなかった。腕によって試合の時間が変わるわけではない。開始のピストルとともに両者が向かっていき、そのまま決着がついてしまうこともあれば、10モル〈分〉以上も武器を弾かせ合うときもある。そのどちらになるかは、それは自分自身の意志によらない。ある程度の試合の流れこそ考えはするが、そこに相手の思惑も絡んでくるから、どうなるか予測がつかない。
 今日もアッズの試合日であったが、アンフィの外壁に掛けられている対戦表に自分の名前がなかったから宿舎に帰ってきていた。ミーセの名前も探したがなかった。彼女と会ってから、今日までの期間でミーセも一度は試合があった。それも僕と同じ日に。ミーセの試合は僕よりも先だったから、控室で軽く言葉を交わしただけで、彼女の試合を見ることはできなかった。彼女は僕の試合を見ていただろうか?
 彼女はどんな武器を使うのだろう? 彼女の体格からして操れるのはおそらく片手剣か、または短槍くらいだ。大剣や斧では重すぎて戦闘には使えないはずだ。成人の女性のなかにはそれらを片手で軽く振り回す人もいるが、どう考えてもミーセには無理そうだった。
 僕はきっちり縦3.5トーメナ〈メートル〉、横2トーメナしかない長方形の部屋の大部分の面積を占めるベッドの上で横になって、ぼんやりとミーセの事を考えていた。ベッドの他には拾ってきた木製の本棚と、剣を研ぐ台とその道具くらいしかものがない。キッチンもお風呂もトイレも全て共同である安い男性専用の宿舎である。アッズのナイトでは料金的にこれくらいの部屋しか借りられなかった。だからここに住んでいるのはほとんどがアッズのトリエーレ〈戦士〉であるが見知った顔はいない。お互いの顔をまじまじと見る機会は、試合開始前、対戦相手と向き合った時だけで、アッズといえども半分以上の確率で命を落とすから次に偶然見かけることはほとんどない。
 またトリエーレ同士仲良くなることもあまりしない。対戦相手となったときが辛いからだ。同じクラッセ〈階級〉のトリエーレであるとしたらなおさらだ。
 だから本当は、僕はミーセに近づくべきではなかったかもしれない。ナイトである可能性があったのに、彼女に近づいてしまった。彼女の方は僕に対して敵意をむき出しにしているが、僕はどうなのか自分自身わからない。彼女が対戦相手になったとき、もしかすると剣に迷いが生じるかもしれないし、案外何も思わずに斬れるかもしれない。今まで他人としか戦ったことがなかったから、自分のことであってもまったく予想がつかなかった。いずれにせよ当たらないことが一番である。
 しかし皮肉にも、次のアッズの試合の日、アンフィに着いて、対戦相手を見た僕は愕然とした。無常にもその日が来てしまった。


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