第2戦、3戦と僕は引き続き観戦した。さすがにネロだけあって出てくる選手は一流の人ばかりだった。ここまでくると決して努力だけでは辿りつけない。持って生まれた才能と運が必要だ。才能があっても無傷でここまで来れる者はほとんどいない。誰しも最初は傷つけられて、少しずつ力をつける。地面に堕ちなかった者はいないはずだ。その時に運よく生き残れたものだけが今、目の前で戦っている。 半分ほど試合が進んだところで僕は飛び見席から離れた。そして空中にいる係員よりもアンフィの外へ出た。一度そうすると再び入るにはまた料金を支払わなければならないが、昨日の試合の疲れが残っていたためこれ以上飛ぶのが難しかった。試合時間は大したことはなかったが、、相手の照準をずらすため絶えず数メナ〈センチメートル〉の上下左右の移動を行うのでかなり神経を使う。 僕は地上に降りて歩くことにした。アンフィを離れ、城下町の方へ向かう。宿舎とは少し違う方向であるが、昼飯をどこかで済ましてから戻ろうと思ったのでそちらへ足を動かす。 軽く舗装してある道路が、進むにつれて次第にきちんとした整備がなされているそれへと変わっていく。周りも砂地と雑草しかなかったのが緑の葉をいっぱいにつけた大きな樹木がちらほらと見え始めてきた。行き来する人も多くなって、広いと思っていた道路も狭く感じてくる。 やがて大きな門が見えてきた。幅は20トーメナ、高さは100トーメナ程あり、それを見るたびにこんなに大きな門が必要なのか疑問に思ってしまう。ここをくぐるとカーザル地方になり、国王が住むお城とその下で栄える城下町、あと僕たちナイトが住む宿舎がある。北西に位置するこのカザール地方はさすがに国王が住むだけあって、賑やかな町だ。また治安も良く、犯罪は滅多に起こらない。最もみんなアンフィの試合を見てストレスを発散しているし、重罪を犯せば奴隷にならざるを得ない。職業を自由に変えられないから、それは一生続き、もし子供ができてもその子も奴隷として生涯を過ごさなければならない。 ただ一つその人生に抗うとしたら、それはナイトになることだ。ナイトは志願制で、身分に左右されない。またそこで一番強くなれば王様の盾として雇用され、英雄になれるチャンスもある。 飾りだけの門番を横目に門をくぐると、町は相変わらずの賑わいだった。一応住宅街と市場の場所は分かれているが、市場のスペースはみんなが物を売るには狭すぎるから、家が立ち並ぶ区域で空いているスペースを見つけてテントを張る人もいるため、町のどこもかしこも賑わってしまう。それを厄介に思う家の人も少なくないけれど、惣菜や日用雑貨品などを扱う店は、主婦たちの味方みたいで慕われることも多い。 僕は人の波を覚悟して市場の方へ出向いた。道の両側に日除けのテントを張った出店があり、呼び込みを行っている。食材を買いに来た一般市民の女性や僕みたいに腹ごしらえが目的のナイト風の男性、友達と遊びに来た子ども達がいてごった返していた。アンフィの周りも市場が絶えず開かれているが、ここの賑わい様はそれ以上だ。 迷っている内にだんだんとお店が少なくなって、気付くと市場の端まで来てしまった。その辺りは整備された開けた土地が十二分にあり、子供たちがたくさんいた。転んでも怪我をしないように芝生が一面に生えていて、巨大なアスレチックを始め、ブランコなどいろいろな遊具もある。元気よく走り回っている子供たちは僕よりも年下の子ばかりである。一般市民の僕と同じくらいの子は今頃も勉強をしているはずだし、奴隷には学ぶ権利はなく毎日主人の命令に従い、何らかの仕事をさせられている。時間的にここに来れるのはナイトか、お嬢様くらいだろう。 僕は引き換えそうと思って身体を反転させようとしたとき、それは目に入った。ずっと奥のベンチで座っている僕と同じくらいの年の女の子を見つけた。空腹を忘れて自然と彼女の方へ足が向かっていた。
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