相手は槍使いだった。僕より少し背丈が大きかったから、短槍とはいえ長い腕を足し合わせるとリーチは僕の二倍はあった。それに今まで戦ってきた相手と比べると、しっかりと型ができていて、相当訓練をこなしてきたのがわかった。もっとも訓練をしてこない奴などここには立たないから、単にセンスがいいだけかもしれない。 相手は常に僕よりも上を取って、斜めから突き下ろすように攻撃を繰り返していた。それは槍だけではなく、全ての武器の戦闘方法においてセオリーだった。上空から攻撃をした方が威力を始め、様々な利点がある。 僕は右手に持った剣で突きをひたすら弾きながら反撃の瞬間を待っていた。槍は間合いを取りながら攻撃ができるのが他の武器と比べて大きな利点だけれど、距離を詰められると一気に形勢は逆転する。かなり腕のある人なら、槍の利点を生かした接近戦もできるが、それは本当に“上”の人達であって、最下層のランクのここではそこまでの技術を持つものは当然いるはずがない。 さっきから優位のポジションを取り続けている敵は自分の方が優勢だと思っている様子だ。相手の体力が尽きれば、このまま勝てると睨んでいるに違いない。観客の歓声も相手を応援するもの方が多かった。中には負けているものの味方をしたがる人もいるらしく、さっきから防戦一方の僕を激励する声もある。敵にはそんな声援を聞く暇はなさそうだったけれど、僕の耳には届いていた。 五モル〈分〉くらいだろうか、ずっと剣でかわし続けていたら、相手は不用意な一発の突きを出した。間合いを取るべきだったのに、勝利への焦りからか、つい余計な攻撃が出た。 僕はそんな一瞬を見逃さなかった。 剣を少し遅らせて突き出す。 剣先で相手の槍先を受け止めた。 その刹那、歓声が止んだのを感じる。 相手の顔を見る。 信じられないといった様子でこちらを茫然と見つめていた。 僕は背中の羽を大きく一回後ろに羽ばたかせた。 右ひじを曲げて、金属でできた槍先と柄のつなぎめに剣の腹をあてる。 そして相手の槍を大きく右に払った。 同時に相手の懐に飛び込む。 渾身の力を込め、相手の胸めがけ剣を突き出した。 相手の真っ白な衣装が瞬く間に赤く染まった。 相手は握っていた槍を落とした。 それを追いかけるように自身もまた落下していった。
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