僕は目的もなく、ただぶらぶらとアンフィテアートゥロ〈闘技場〉の周りを歩いていた。宿舎にいても何もすることがなかったから、取り合えず出かけてみたけど、結局は暇をもてあそんでいた。いつものように太陽がギラギラと光っていたし、風もいつものようにほとんどなく、またどこを見渡しても人しかいなかった。この辺りはいくらか整備されていて、石畳の地面になっていたから砂埃の心配はなかったけれど、その石はまるで熱湯の中に浸かっていたように熱い。僕の安くて底が薄い靴ではその熱が伝わってくる。始めは顔だけだった汗が次第に全身から浮かんできていた。 これ以上ひどくなる前にどこかで一休みをしようと思っていたら、飲み物を売っている屋台が視界に入ってきた。店先にはパラソルとイスがたくさんあって、一人くらいなら何とか座れそうだ。僕は人ごみをかき分け、青色の前掛けをしている店主のところへ行った。 「レモンティーを一つ」 そこはいろいろな紅茶を取り扱った店で、種類がたくさんあったけれど、僕は迷うことがなかった。聞いたことがない名ばかりであって、それを選ぶ勇気はなかった。 「はいよ。……坊主はトリエーレ〈戦士〉か?」 店主は僕の姿をまじまじと見て、ゆっくりと聞いた。今日が休日であるから一般市民の子どもと区別がつかなかったみたいだ。服装は僕の方がだいぶ劣っているけれど。唯一のはっきりとした相違点の左足首のリングも店主からでは見えない角度である。 「……そうだけど」 「やっぱりそうか。同年代の子どもたちと比べるといい眼つきをしていると思ってな」 さっきまで必死に吟味していた主人の顔が突然明るくなった。 「俺はよくアンフィ〈アンフィテアートゥロの略称〉に行くんだぜ。クラッセ〈階級〉に関係なくな。もしかするとお前のことも見てるかもな」 店主は一人満足げそうに、顔を上下に動かしている。 「お前のクラッセは何だ」 「アッズだよ」 「まだほんとに駆け出しだな。ひよっこのトリエーレか。なんだか頼りないけど、まあ頑張れや。これは俺からの餞別だ。お代はいいぜ」 主人は3種類ある容器から一番大きなそれを選んで、中身を入れて僕にくれた。その中にはたくさんの氷が入っていて、かなり冷たかったから持っているのも一苦労だった。僕は好意に甘えることにし、お礼を言って適当に開いている席を探した。
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