彼は近くにある剣をいくつか手に取り、それらを軽く振った。そして、一本の剣を選んだ。先端がやや沿っていることを除けば、スタンダードな片手剣だった。 僕たちは入口の奥の方へ行き、空いているスペースを探した。そしていい所が見つかると、まず彼が先に飛び上がった。僕も遅れて着いていく。光が差し込んでいるところまで上がると彼はこちらを向き、彼と僕は向かい合った。 「それじゃ、よろしく」 「……お願いします」 彼は片手剣を僕の喉元へ向けて構えた。その様子はやはりジャロだけあって様になっている。僕も剣を構えた。 始めに仕掛けたのは相手の方だった。連続で突きを繰り出す。その身体の動かし方といい、剣の鋭さといい、かなりのものだった。一瞬でも判断を誤ったり、また受け損なえば即致命傷になりそうだ。しかし、そのキレの良さが逆に避けやすくもあった。それに戦闘を重ねたものほど、大体自分の型が決まってきて、意識しないと攻撃がワンパターンになりやすい。 僕はじっと相手の攻撃を読んだ。相手はおそらく僕のことを下に見ているだろう。『稽古試合でも|してやろうか《・・・・・・》』という言葉がそれをはっきりと示していた。実際にクラッセが下だから彼の認識は間違っていないが、“意識”としては大きな誤りだ。たとえどんな相手でも油断をしてはならない。当たり前のことだが、そのことを僕は師匠から嫌とういうほど聞かされてきた。 相手の攻撃のペースが上がってきた。でもそれもパターンがまったく同じであったから、僕は受ける動作をほんの少し早めてそれに対処した。刃の部分がぶつかりあって、乾いた木と木が金属までとはいかないまでも良い音を出した。相手が突きを出せば、僕はそれを右へ左へと薙ぎ払い、向こうが斬りかかってくれば、僕はそれを刃で受ける。相手は中級だけあってさすがに顔には出ていないが、攻撃には焦りがはっきりと出ていた。最初に比べると、体重がかかっていない軽い突きや斬りが、間隔を若干短くして繰り出されてくる。 相手が突きの動作に入った。 攻撃のパターンから僕はそれをとっくに読んでいた。 けれど受けの姿勢をしないで、刃を縦にし、腕を思いっきり引いた。 そして胸の前で剣を構えた。 右手で柄を握っている僕の剣は相手に刃を向けまっすぐと天井に向かって伸びている。 相手の突きが僕の胸の前まできていた。 僕は左手を刃の背に当てた。 そのまま向かってきた剣先へ自分の持っている剣の刃を当てる。 寸分のずれもなく接した点から軽い衝撃が伝わってきた。 同時に相手の剣はエネルギーを失って止まった。 突きつけられている剣を僕は左腕で思いっきり払う。 そして右手の剣をできるだけ動きを小さくして振り上げた。 相手の額を斬れるだけの最小限の力が生み出せるところまで。 最高点に達すると同時に相手へ振り下ろす。 しかし寸でのところで止めた。 相手は口をぽかんと開けたまま目の前に止まっている剣にゆっくりと目の焦点を合わせてそして目をつむった。 「……参った。これがアンフィの上空だったら、俺は間違いなく死んでいたな」 僕は相手の頭の上で止まっていた剣を離した。 「お前、本当にアッズか?」 「そうだよ」 「お前のノーメは何て言うんだ?」 「カムだよ」 「……カムか。わかった。覚えておく」 男は羽を動かし、後ろへ下がった。そして軽く一礼をした。僕もそれに倣って、頭を下げる。 「俺はキーナだ。……早く上がってこいよ」 キーナは剣を握っていない左手を軽く上げると、降りていってしまった。
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